ふと PART-!
ふと
PART-!
あらぬ事をふと思い出す事がある。
しかも、そのこと自体何の役にも立たず、何年の前の出来事だが懐かしくも無く、意味すらない様な事なのに或る事が蘇えってしまう。
そうなると、なかなか消え去らない様な事がある。
ある常夏の天気のいい午後に部屋のバルコニーヘ肘掛け椅子を出して、大量の氷とビールを用意し、チップスとドリアンを用意し、或る人の書簡集を気分よく読んでいた。
東向きの部屋は、午後になると涼しくなり風が気持ちいいので、よくそうしていたのだが、その日は、急に騒がしくなった。
先ずは、ズシンと言う振動と少し後に人の悲鳴のような声が響いた、何度か叫んだのだが、女の人が取り乱した様な声だったので、斜め上の10階の部屋で何かモメタかと思ったので暫らくほっておいた。
何度か繰り返すので、ウルサイ奴らだなと思って無視していたが本が読めない。
いい加減腹が立って、声の元を探そうと耳を澄ますと、10階では無さそうだった。
彼方此方エコーするが、どうも同じ階のすぐ隣のバルコニーから、ラシイ。
隣は、空き家だ。
フェンスの植え込みに登って、覗いてやった。
人がいる、、、。
こっちを見て顔を歪めていやがる。
どッから来たんだろうと思ってよく見ると、右足を抱いている。
パキスタン人だ。
奴は11階だから、降って来たのかも知らん。
「一寸待っとけ」
と言って、先ず書簡の区切りまでを読んでから、管理事務所に人が降って来たぞと伝えた。
隣の空き家のバルコニーだから合鍵持って来てくれと言ったが、無いらしい。
まずは、管理事務所の所でそれを聞いていた野次馬が、私の部屋をノックした。
これは、二十歳位の可愛い女の子だった。
その子の部屋は7階の廊下の向かい側なので広いバルコニーが無いといった。
すぐ後にお母さんも来たが綺麗ではなかった。
折角だから中に入れて、バルコニーを見せて、「この向こう側に居る」 と教えたが、覗くのが怖いので、遠慮して今は廊下に居る。
つぎに、管理事務所のぼんやりした方の男が、開けっ放しのドアーをノックした。
様子を見に来たのだ。
くっ付いて来た事務所の女事務員は、見世物では無いのだ!と そのボンヤリにどやされてスゴスゴ帰っていった。
ボンヤリは今回、いつに無く気が利いて、合鍵屋を呼びに誰かを行かせたらしい。
少ししたら自信満々の合い鍵屋が来た。
道具箱を提げている。
その合鍵屋が隣のドアを開けようとしているが、緊張して手元が鈍って上手くいかない。
その後も、沢山の人が私の部屋のズーッと開けっ放しのドアーをノックした。
先ずは、警察官が当たり前のように勝手に私の部屋を横切り、バルコニーヘ出て、「どこだ」と聞く。
隣だと言うと合鍵屋の仕事を急かしに行った。
合鍵屋は、尚も緊張し手先が鈍ったままなので、フェンスを越えて隣に行くらしい。
警察官は半ば野次馬なのだ。
仮に事故でも事件ではない。
この国の事故は多くの場合保険屋の管轄だ。
奴が隣のバルコニーへ行って見た所で隣のドアーが開く訳でもない。
しかも、手摺の植え込みで私の育てているトロピカルな植物をぐちゃぐちゃに踏みつけて行ったり来たりしながら、どうにか警察官らしく振舞おうとしている。
気が付くと三人に増えていた。 なんだか嬉しそうだ。
この国には公共の救急車は無いから、どこかの病院から呼んだのだろう、医者と看護婦が二人と担架を持った男が二人、私の部屋のバルコニーに、どんどん入ってきた。
医者は、警察官によって踏み均された植え込み伝いに隣へ入って、何やらしている。
看護婦二人には、そんな冒険は出来ないので、私の部屋のバルコニーに居て、医者の指示する物を手を伸ばして渡している。
どっちの看護婦も綺麗な人だった。
1人はどちらかと言うと華奢な可愛さがあった。