不動産会社を舞台にした名著「狭小邸宅」の熱いメッセージ
オープンハウスという急成長中の不動産会社をご存知でしょうか。
商売の特徴上、関東圏以外ではなじみがないかもしれません。
オープンハウス社の特徴は
・めっちゃ狭い土地にめっちゃ狭い家を建てる
・そのぶん価格が抑えめでそこそこの立地の戸建てがサラリーマンでも購入可能というニーズに応えている
・営業がゴリゴリで力強い
という特徴で、近年は海外展開やマンション事業、関西のプレサンスコーポレーションを買収するなど飛ぶ鳥を落とす勢いの会社です。
オープンハウスの営業のしつこさは尊敬すらします。
駅前でチラシ配ってる人をちらっとみると(チラシは受け取っていないてのがミソ)
「この辺にお住まいですが 賃貸ですか 家賃いくらですか インターネット未掲載の物件があるので今から一緒に行きませんか?」
と多少「急いでるんで」と断ってもついてきてPRしてきます。
僕は5分くらい駅の改札までついてこられ「せめて連絡先でも」と言われ、確かにぱっと見安かったのは事実なので連絡先を渡すと、鬼のように電話がかかってきます。
2年前くらいの話ですが先週も電話ありました。
着信拒否や無視を決め込んでいると番号をかえて何回もかけてきます。
オープンハウスの家は工場生産のようなコストカットを徹底した建売であり安価ですが、営業マンの知識はそこそこです。建物もしょぼいとか言われてますが「安い」のです。
「東京に家を持とう」のキャッチフレーズを過去使っており(今は全国展開しているため差し替え)、そのフレーズの通り、4人家族で3LDKか4LDKがほしい でも通勤は50分以内で~ 予算は4000万くらいかな?新築がいいよねやっぱり!となるとオープンハウスしか選択肢にありません。
ニーズはあるのです。
ただし、「買わせる」というテクニックは業界トップクラスだと思います。
厳しい体育会系の会社で評判ですが、売れた人には金をはずむなど、一昔前の佐川急便、プルデンシャル生命のような覚悟を持って金を稼ぎたいという人からも人気の企業です。
採用ページのキャッチコピーに「常識を超えろ」「限界を超えろ」と記載があるのが全てを表現している気がします。
さて、今回紹介したい 新庄 耕 著 狭小邸宅という本ですが、まさにこの都心で3階建ての戸建てを販売する営業マンが主人公の熱いストーリとなっております
最初は「俺はできるんだ」「俺は稼ぐぞ」という気分の主人公ですが、伸び悩む成績に上司から叱責、そのうちいない者扱いされ、どんどん闇落ちしていく様子がリアルに描かれています。
上司からの叱責のセリフは臨場感とパワハラの中に、真理が隠されており、不動産業界以外の業種の方でも胸にささる名台詞のオンパレードでありいくつか紹介したいと思います。
「いいか、不動産の営業はな、臨場感が全てだ。 一世一代の買い物が素面で買えるか、 臨場感を演出できない奴は絶対に売れない。 客の気分を盛り上げてぶっ殺せ。 いいな、臨場感だ、テンションだっ、臨場感を演出しろっ」
ぶっ殺せ と言う単語が出てきますが「契約を決める」という意味なので誤解しないでください。
たしかに住宅購入というのは人生で一番高い買い物といってもいいでしょう。
そこで盛り上げて盛り上げて、テンションを高めて勢いで決めさせる この要素が必要不可欠なのです。どんな物件もいいところがあれば悪いところもある。悩んで悩んでと時間をかければデメリットが目立ち、様子見ということになります。
なので「盛り上げて」「ぶっ殺す」のです。
主人公は「まわし」というテクニックで最初いくつか内見させます。最初に紹介してく物件はどこも癖があったり、予算を超えたりする、成約にはいたらない物件を紹介します。
購入権当社は「いや~最初の物件はいいんだけどあそこが気になるな~ 次のは最高なんだけど高すぎるな~ ぴったりくるのってないな~」って思わせといて、本来買わせたい本命を紹介します。
その本命もよくよく考えればデメリットはあるのですが、「家というのはご紹介してきたとおり良いところも悪いところもありますよ でもこの物件でしたらいい落としどころだと思います」と言う風に「それもそうだな 最初紹介してもらったところと比べればここが一番いい!」となり「ぶっ殺し」ます。
最初にこの本命物件を紹介していればおそらく保留になったでしょう。でも比較対象を作ったことで、その中では最高というのを全ての物件の中でも最高という風に誤認させるのです。
最初の「まわし」用として買われもしない、ただ利用される物件の売主に心を痛め、内心この買主ならもっといい選択肢もあると考える主人公ですが「これが臨場感を演出することなんだ」と心を鬼にしていきます。
「てめえ、冷やかしの客じゃねえだろうな。その客、絶対ぶっ殺せよ」「はい、絶対殺します」中田は静かに答えた。
馳星周の不夜城からの引用ではありません。住宅お仕事小説です。
「おい、お前、今人生考えてたろ。何でこんなことしてんだろって思ってたろ、なぁ。なに人生考えてんだよ。てめぇ、人生考えてる暇あったら客みつけてこいよ」
人生なんて考えても無駄です。1円にもなりません。そんな暇があったら1人でも多く案内をとってくるべきです。
「いや、お前は思っている。自分は特別な存在だと思っている。自分には大きな可能性が残されていて、いつかは自分は何者かになるとどこかで思っている。俺はお前のことが嫌いでも憎いわけでもない、事実を事実として言う。お前は特別でも何でも無い。何かを成し遂げることはないし、何者にもならない」
厳しく、顧客にとって必ずしも最良の提案をせずだまし込むような不動産業界に対し、反感を覚え、ここまで詰めてくる上司は自分が嫌いでは?と考えていた主人公に対しての上司のセリフです。
このセリフで主人公は覚醒し、「家を売る鬼」となります。
「松尾 、未公開物件あるから 、サンチャの駅前でサンドイッチマンやれ 」
サンドイッチマンとは東北の芸人ではなく、物件情報を書いたプレートを体の前と後ろに背負ってチラシを配れということです。
ちなみにサンドイッチマンのシーンはこうです。
「奥沢 、駅徒歩十分 、二十坪 、四千五百万円 、土地 、未公開物件 。早いもの勝ちですっ 」街の賑わいにまじって太い声が聞こえてくる 。通りの先で体が隠れるほど大きな看板を首からぶら下げた男が声を張りあげていた 。
平日は物件PR活動や書類作業、土日は客からの要望を受けて内見をするのが不動産営業マンですが、土日にもかかわらず客がついてない営業マンはサンドイッチマンという屈辱的な業務に駆り出されます。
「お前、案内入っていないのに昨日よく帰れたな。てめぇ、なめてんだろ」
「これまで会社にいくら金入れた 」
シンプルかつ、真理な詰めです。
案内とってないということは、利益をあげるステージにすらたどり着いてないのです。
「おかしいよなぁ、何で会社に金を入れない学生気分のお前に給料ださなきゃなんねぇんだ、何で案内ひとつとれないお前に女の尻追っかけるための軍資金こっちが出してやんなきゃいけねぇんだろ」
休日にサンドイッチマンやれと言われ、明日はデートなんですという主人公に対する、上司の独り言です。
「自営業は客じゃねぇ」
見込み客の属性を応えた時の上司の返しです。
自営業はローン審査が通りにくいので、買えない=客じゃない のです。
「よそで売れなかった奴は駄目なんだ 、売れたためしがない 。だから 、悪いが早いところ辞めてほしい 」
主人公が成績不振で、別の営業所に飛ばされた時、新しい上司の第一声です。
この新しい上司は殴ったり叫んだりしませんが、冷たかったのです。
ちなみに異動させられる前の上司のセリフは
「てめぇ 、何だその顔は 。お前 、全然使えねぇから戦力外通告 。売れねぇし 、辞めねぇし 、明王出て偉そうだし 、だから異動 。いらねぇ 。うちも明王大学のお坊ちゃん抱えられるほど余裕ないんだ 、わかったらさっさと行け 」
「問題は、強い動機もなく、売れもしない、お前みたいな奴だ。強い動機もないくせに全く使えない。大概、そんな奴はこっちが何も言わなくても勝手に消えてくれる。当然だ、売れない限り居心地が悪い。だが、何が面白いのか、お前はしがみつく」
中々辞めない主人公に対して上司の嘆きです。
たいして業界に思い入れもなく、成績不振なのになんで辞めないの?という遠回しの退職勧奨です。
「何で自分が売れないか真剣に考えたことがあるか。」
「客の顔色を窺い、媚びへつらって客に安い優しさを見せることが仕事だと思ってる」
営業不振の主人公に対する上司のアドバイスです。
営業とはこびへつらうホストでもなく、悩み相談室でもなく、「買わせる」ことが仕事なのです。
「シシ丸よぉ 、おめぇ 、いつになったら売れんだよ 、この野郎 」そう言うと 、上半身を少し反らせて前蹴りを放った 。シシ丸氏は一瞬 、泳ぐように宙を搔き 、派手な音をたてて後ろに倒れた 。
成績不振の先輩がどつかれた瞬間です。
「ちょっとは 、醒めたか 。最後までなめたことしてくれるじゃねぇか 、このタコが 」罵られ 、腰のあたりを容赦なく蹴りあげられた後 、地図帳だか電話帳だかが投げつけられた」
この本、暴力的なシーンがたびたび挿入されます。
席に戻った僕に向かって課長が言った。
「売れたな」
温かい言葉でも冷たい言葉でもなかった。
がむしゃらに営業活動を続け、ついに成約し、上司に報告した時のセリフです。
なんだかんだ優しい?上司に涙が止まりません。
「お前らは営業なんだ、売る以外に存在する意味なんかねぇんだっ。売れ、売って自己表現しろっ。こんな分かりやすく自己表現できるなんて幸せじゃねえかよ。売るだけ だ、売るだけでお前らは認められるんだ。こんなわけのわからねえ世の中でこんなにわかりやすいやり方で認められるなんて幸せじゃねえかよ」
この本の最も有名なセリフです。
無茶苦茶なことをいってそうで、本当に真理が詰め込まれています。
売るだけ それだけですべて手に入り、認められもするのです。人生がどうとか考えなくていいんです。
「嘘なわけねぇだろ、カス。本当だよ。世田谷で庭付きの家なんててめぇなんかが買えるわけねぇだろ。」
「どんなにあがいてもてめぇらが買えるのはペンシルハウスって決まってんだよ」
家を売る鬼となった主人公、メンタルズタボロの修羅となった状態で同窓会に出席します。
そこで「お~お前住宅販売なんだってな!?」「俺も将来世田谷で庭付き戸建てで住みたいな~!」と浮かれたことを言っている過去の友達たちに真理をぶちまけまるシーンです。
そしてこの主人公が、将来新たな上司となっていき、歴史は繰り返されるのでしょう・・・
ちなみに、バブル絶頂期に郊外ニュータウンのマンションを購入し、高い金利の借り換えも認められず(資産価値が落ちているので)、人生を住宅ローンにしばられ、売ろうとすれば「1500万追加しないとローンを返せない」と言われ逃げることもできず、老朽化するマンションの修繕や管理で行き詰まる人生を描く「ニュータウンは黄昏て」も住宅小説ではおすすめです!
マンションが古くなってきたので修繕費を皆から集めたい!そうしないと資産価値も落ちるよ!という意見に対し
「お宅みたいに途中で入居してらした方にはわからないでしょうけど私たちは新規分譲当時からのつきあいなの。」 「資産価値が下がるなんて言って怒る人もいたわよ。だけど、ここを終の棲家と考えていれば、資産価値が上がろうが下がろうが関係ないもの。関係あるのは売ろうとしている薄情者だけよ。」
という悲しすぎる意見の食い違いで悩むなど、将来すべてのマンション購入者にとって他人事でない要素がふんだんに織り込まれています。
「このままだとあと10年で廃墟になるのでみんなでお金を集めて修繕しよう!」
となっても「いや俺もうすぐ引っ越すから払いたくない」「もう老人だから10年以内に死ぬしどうでもいい」
なんて人がいたら本当にマンションは廃墟になります。しかし、修繕費を払いたくないという人の意見も間違ってはないのです。
建て替えようとしても、「建て替え中引越しで仮住まいとかもう面倒だしいいわ」「いくら新築になるとはいっても準備金が払えません」と言う人がいたら終わりです。
決して小説の中だけの話ではありません。
そんな晩年を迎えたマンションに住まうあらゆる立場の人がエゴをぶつけあう、心痛む小説です。