棘梨の村の李梨-7 | タコノキはうまく踊れない

棘梨の村の李梨-7


 僕らはそのあとすぐに診療所へ行った。
 道々、医者は低い声で、父と祖母とに話を続けていたが、僕はもう聞いてはいなくて、
ずっと泣いていた。琥珀が集会所でまだ生きていて、李梨が看病するかしないかに命がかかっていたとしたら、僕にとってはまだマシだったろうが。そのとき、琥珀は既に死んでいた。そのうえ李梨を失うのは、七歳の僕には荷が重かった。僕は何を考えるでもなく、
しびれたような頭でただ泣き続けた。李梨の手がずっと僕を撫でつづけた。
 診療所につくと、医者は李梨をコンピュータの前の椅子に座らせ、僕にお別れを、と言った。僕はかぶりをふって、李梨の膝にしがみついた。李梨は僕の肩を両手で支えて立たせ、いつもと変わらない声で、
「さようなら、燦輝」
と言った。反射のように、僕の口からも、
「さよなら」
という言葉が漏れた。
 医者が李梨の首筋をどうにかすると、そこに小さな扉が開いた。中には赤い血も肉もなく、小さなきちんとした丸い穴がいくつもあいているのが見えた。そこに、医者はコードを何本もつないだ。
 それから、「丸い地球」と「通信衛星」と「電波」と李梨の関係を、コンピュータの画面に図まで出して説明してくれたが、僕にはよく判らなかった。僕に判ったのは、どこか遠いところから、雲南熱の患者を看護するのに必要な知識が飛んで来て李梨に入り込み、その代わりに李梨が僕について憶えていることは消え失せてしまう、ということだけだった。
 医者は、僕と父に予防ワクチンを射ったが、祖母はがんとして「若い者に譲る」と言い張り、結局接種をうけなかった。