シンプル族の反乱 | ただのオタクと思うなよ

シンプル族の反乱


三浦 展
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すべてではないと思うんですが

 今の30代半ば以降の、バブル崩壊後に社会人になった世代は、積極的にモノを買わなくなったといわれています。それは景気がいいの悪いのの域を超え、習慣として根付いてしまっていると。私のような、わずかな期間でもバブルを経験した世代としては、どうしても「貧乏くさい趣味?」という印象が拭えず、「それで楽しいの?」なんて余計な文句も言いたくなったりしてしまいまうのですが。

 でも、懐古にすがってばかりで、こうした時代の流れをしっかり把握しておかないことには、商機は見えてきません。そんな、従来の物差しでは通じない新たな価値観を持った世代の秘密に迫るのが、本日紹介する一冊「シンプル族の反乱」です。

 車が全くといっていいほど売れていないとか。いや、環境対策とランニングコストでの値頃感を謳った特定の車種に限って狂ったように売れている状態、といった方が正しいでしょう。一方で、ユニクロや無印良品が新規出店すると、たちまち客が殺到する。こうした消費者の行動が、20~30代の「シンプル族」の典型と言っていいでしょう。

 そうした習慣が定着しつつある背景として、著者の三浦展さんは、
「すでに生活が豊かで物が豊富にあるので急いで買う必要がない」
「所得が低下しているので、物を買いたくても買えない」
「将来に不安があるので、貯蓄に励みたい」
「所得が低いから結婚できず、子供を産まず、家も買わないので消費全体が減少する」
「インターネットの発達で、情報だけで満足してしまって購買行動につながらなくなった」
「環境意識の強まりから、無駄な買い物をしたがらなくなった。物を買うことに罪悪感すら感じる」
「社会意識が強まったので、消費よりほかにするべきことに目覚めた」
―といった理由を挙げています。

ただ、三浦さんも指摘していますが、これらの理由が一人の消費者にすべて当てはまって購買行動を決定づけていると決めつけてしまうのはちょっと危険、というか早計だと私は思います。

 実際買い物をけちっている若者が多い一方で、物欲の固まりともいえるオタク層は増えている傾向にあるわけで、彼ら(彼女ら)が例えばすでにテレビで見たアニメをブルーレイで改めて買ったり、買ったら鑑賞するだけのはずの美少女フィギュアを好んで買い求めることは、この「シンプル族」的生き方と真っ向から対立するはずです。

考えるに、「シンプル族」とは「族」というより「属」、すなわち人の心理を構成する、後天性の一属性でしかなく、その人が執着する特定ジャンルに限って、購買意欲旺盛の性質を発揮する潜在性を併せ持つことは押さえておくべきではないかと思うのです。それはちょうど、ファッションに金をかける意識など一切なくビロビロに伸びきったTシャツ姿のオタクたちが、コミケやワンフェスで数十万円の買い物を平然とやってのけるのと同じではないかと。

 重要なのは、「シンプル属」がトレンドだ、という言葉を鵜呑みにして、価格の安さだけを念頭に陳腐な商品開発にシフトしてしまう短絡的な見方にならないことです。「テレビはいらない」と、本気で思っている若者もまだ、シンプル属の中でっもそんなに多いわけではないはずですから。

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