りりん りん。鈴の音。
彼岸花の前に、市松模様の着物を着た狐の耳と九本の尾を生やした青年が一人。
「時雨さんもお疲れ様。何も毎日迎えに来なくてもいいのに」
「好きでやってるんですからいいんですよ」
【とか言って、ただ単に暇なだけなんじゃねぇの?】
からかうように、二又に分かれた舌をちろちろ。時雨と呼ばれた青年は微笑みを崩さぬまま。
「それもありますね」
「でも、本当に妾達に気を遣わなくていいんだよ?時雨さんの傷は癒えたし、もう十分過ぎるほどに手を貸してもらったしねぇ。此の世に戻ってもらっても、いいんだよ?」
「此の世に戻る気は、今の所ないんですよ。傷も癒え力も完全に戻りましたがね、彼処に戻る気が、起こらないんです。戻っても私を必要とする人間はいないですし、社はもう、壊されましたからね」
必要とされなくなった神の、微笑みの中の寂しさよ。
「……そうかい。段々と、あの国から神がいなくなっていくねぇ。神がいなければ、その土地は廃れていくって言うのに。そんな事さえ、此の世の人間は忘れていったんだねぇ。でも、本当にいいのかい?」
「彼岸花さんこそ、何故此処に留まるのです?罰はとっくの昔に払い終えたでしょうに。彼の世に申し付ければ、すぐに後任が来て貴方達は解放される筈でしょう?」
「はは。妾と輪廻は最早、理から外れた身だからねぇ。その時点で罰も意味を成さなくなったようなものだよ。輪廻転生の環から外れてるのに、彼の世に行ってもね。鬼の仕事をさせられるに決まってるよ」
「余計な詮索だったようですね。さ、行きましょう」
りん りりん りん