「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」

女は叫ぶ。取り戻してやると、意地で付き合っていた愛しの彼氏まで、自ら撒いた呪いの巻き添えを食らったとも知らずに、呪いを撒き続ける。

「死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」

叫ぶ。意味もなく、意味のない呪いを吐き続ける。
目標を見失った呪いは、呪術者の元に。
女が手を出した呪いは、命を奪うもの。
百足をズタズタに切り裂くナイフを持つ右手が、ぴりっと痛み出す。

「痛……?」

柄を強く握りすぎたのかと思ったが、どうやら違う。
仕方なくナイフを置き、右手を見てみると、

「…………!?」

右手の惨状に小さく息を呑み、目を疑う。
徐々に生えてくる、黒い毛。どす黒く変色していく皮膚。
突然吐き気が襲い、堪らず吐き出す。
胃液と共にべしゃっと音を立て落ちたのは、ズタズタに切り裂かれていたはずの、百足。
またもや息を呑み、上手く動かせない右手を必死に動かしながら、ナイフを探す。
それを見つめる百足は、嗤う。
そこに、

「こんばんは、お姉さん。気分はどう?」

まるで最初からそこにいたかのように、少年と少女がいた。
漆黒の少年と、純白の少女。
トリックとトリート。
女は訳が分からず、呆然とする。

「君達は……さっきの…?」

「当たり。でも、今度は人間のお菓子が欲しい訳じゃないんだよ。欲しいのは、願いを叶えた代償」

にっこりと微笑む。まるで無邪気な天使のように。悪意を秘めた悪魔のように。
女に向けられたそれは、悪魔のそれ。
トリックが百足の前に手を差し伸べると、百足は嬉しげに鳴きながら腕を這い上った。

「虫を使った呪いは確かに強力で、手軽に出来るよね。でもね、その分術者のリスクも高いんだよ。君が背負えるリスクを超えちゃってたんだよねぇ、この呪い。だから、僕達が叶えてあげた。呪いが君に還って、魂が無駄になるだけだから。食べ物は無駄にしたら駄目だからね。だから、叶えてあげたんだから、君の魂と身体、ちょうだい?」

首を傾げ、にっこりと微笑む。その瞬間、ざわりと、空気が一変する。
二人の影から這い出る、夥しい蟲達。
蟲は女に向かってゆっくりと這い寄る。
蟲に向かって怒鳴りながら様々な物を投げつけたりするが、勿論効果はない。
蟷螂が、鎌を足の皮膚に突き立て囓りついた。
それをきっかけに、一斉に身体によじ登り、纏わりつく。
ものの一瞬で女の身体は蟲に覆い尽くされ、見えなくなった。
見開かれた目が、トリックとトリートに助けを求める。

「ふふ。呪いなんかに手を出した罰だよ。お姉さんはこれから、本来の寿命が、命が終わるまで蟲に喰われ続けるの。身体を僕達の可愛い蟲達に提供し続けるんだよ。それで命が終わったら魂を、苦痛を与えながら喰べてあげる。素敵でしょ?」

「うふふ。人を呪わば穴ふたつと言うでしょう?因果応報と言うやつですわ。お馬鹿さんですわね。リスクなしに人を呪えるなんて。人を呪っていいのは、自分も呪われる覚悟のある者だけですのよ?」

「それを言ったら、僕達がひもじい思いをする羽目になるじゃないか」

「あら、そうですわね。こういうお馬鹿さんが多いから、私達はいい思いをさせてもらってるんですものね」

「そうそう。じゃあね、お姉さん。死んだ時にまた来るよ」

それだけ言って、二人の姿は吸い込まれるように消える。
お菓子をくれなかった優しくない人間に、悪戯するために。

残されたのは、女の苦痛に満ちた悲鳴と、女の身体を囓る音だけ。




とりっくおあとりーと! 了





iPhoneからの投稿