ゴスロリのような服を着た、ショートの黒髪に蒼い瞳をした男の子。
右目は眼帯で隠されてる。

【久しぶりに遊びに来てくれたね。人間の友達まで連れてきてくれるなんて】

【ああ、君が喜ぶと思ってね】

【うん、嬉しい。人間は皆、ボクを怖がるからさ】

そう言って眼帯を取る男の子。その下から現れたのは、トンボを思わせる蒼い複眼に、複眼に根を張る小さな小さな黒薔薇。
純粋に、綺麗な瞳だと思う。

【ボクに名前はないから、好きに呼んじゃってよ。でも、人間は単純にクロって、猫みたいな名前で呼ぶから、クロだけは嫌いだよ】

「じゃあ、蒼薔薇。蒼薔薇がいい」

【ん。蒼薔薇ね。実はこの黒い薔薇、嫌いなんだよね】

「…………君の薔薇じゃないから?」

蒼薔薇が目に根を張った黒薔薇を、ぶちぶちと引き千切る。

【すごいね。お兄さん、人間なのに分かるんだ。流石ドッペルの“引導”。この黒い薔薇は主が勝手に、寝てる間に悪戯で植えるんだよね】

蒼薔薇が僕の腕を掴む。薔薇で僕の腕を侵蝕しようとしてるのが、伝わってきた。

【すごいな、侵蝕出来ないなんて。ボクが侵蝕されそうだ】

なんだか嬉しそうに笑って言う。

【おいおい蒼。下手に触れて怪奇の存在寿命を減らすのはやめてくれよ】

【分かってるよ。でも、ドッペルには都合いいんじゃないの?】

「ねぇ、ここに来た人間は自殺するって言うけど?」

僕にはさっぱりな話が繰り広げられそうだから、話を変えてみた。

【正しくは主に会ったら、身体に黒薔薇を植えつけられて、その成長した黒薔薇に喉を絞められて殺されるんだよね。それが自殺屋敷の真相】

「それじゃあ自殺にならなくない?」

【植えつけられた黒薔薇は人には、ただの紐にしか見えないんだよね】

なるほど。人間からしたら自殺にしか見えない絡繰りね。

【ね、主に会ってみる?】