とある県のとある町の夜朝高校。

夜朝高校に伝わる遊び。ドッペルさん。

要は、こっくりさんを呼び名だけ変えた、降霊術。

曰わく、ドッペルさんは喚び出した人の代わりにお願いを訊いてくれる。

曰わく、喚び出した後、ルールを決して破ってはならない。

ルールその壱 ドッペルさんの滞在日数を、ドッペルさんに伝えなければならない。

ルールその弐 ドッペルさんの滞在日数を、延ばしてはいけない。

ルールその参 滞在日数が切れる日はドッペルさんに十円玉を供え、還してあげなければならない。

ルールその四 ドッペルさんにも出来ないことはある。誰かを呪ったり、殺害するお願いをしてはならない。

ルールを守ればドッペルさんは、もう一人の自分としていてくれる。

しかし、一度(ひとたび)ルールを破れば、ドッペルさんはドッペルゲンガーへと立ち返る。

ドッペルゲンガーとはもう一人の自分。

出会ってはならない、もう一人の自分。

出会ってしまった者は、地獄よりも凄惨な、“無”へと連れて行かれてしまう。

連れて行かれてしまうのは喚び出した本人だけではない。連帯責任で、ドッペルさんの遊びを知る全員が、対象となる。

ドッペルゲンガーから逃れる術は、唯ひとつ。

自ら死ぬこと。

自殺。

“無”に連れて行かれたくなければ、自ら死ね。

自ら死んだとしても、ドッペルゲンガーによって仕組まれた死なら、自殺した意味はないが。

さぁ、遊びで現象に意味を与えてしまった“罪”を、思い知れ。

現象には意味を与えていいモノと、悪いモノがある。




-その夏、灼熱の水の中で、僕は“僕”の意味を知る-