壁をすり抜けて浴室に入る。
おーおー、予想通りヤってやがる。他人のキスを見るって、凄まじく気分が悪くなるな。
人一人殺した後だっていうのに、よくそんな気分になれるな。
ある意味感心しちまうわ。どんだけ神経図太いんだ。
胸糞悪くて仕方ない。俺だって悪かったのは分かってる。
でも、殺されなきゃならないほど悪いことしたか?
自分の家で彼女と知らない男が裸でいたら、誰だって怒るだろ?
面白そうだし悪戯してやろうと思ったけど、そんな気分じゃなくなった。
俺はお前らに全てを奪われたんだ。
俺だってお前らを無茶苦茶にして、何が悪い?
復讐の何が悪い。俺は死んでるんだ。
目には目を歯には歯を。
殺しには殺しを。



意識を集中させて、引き出しから鋏を取り出す。
あいつらのことだから、しばらく出てこないだろ。
鋏で俺の身体を縛ってる紐を切っていく。
紐を切って毛布を捲る。
血の気の失せた、生気の感じられない青い顔。俺の身体。
意識を集中すれば物に触れるんだから、身体だって操れるはず。
死んでる上に、元々は俺の身体だ。操れないことはないだろ。
集中を一旦解いて、身体に入り込む。
そして意識して、腕を持ち上げるイメージを鮮明に浮かべて、腕を上げる。
目を開くと、腕が上がった。
よし、よし!意識してれば動かせる!
喜びで集中が乱れたのか、身体がすり抜けた。
身体を見ながら、にんまりと笑う。
死んだら身体でも物。そう割り切ろう。
それに、俺が使うんだ。あいつらの好き勝手にさせる訳じゃない。