今月は「水」に関することを述べてみたいと思います。足立病院の医局のコーヒーは私が病院で働き始めた6年前よりなかなか美味しくて(これは畑山院長のコーヒーへのこだわりによりますが)、今でもその辺の喫茶店でも十分に出せる味だと思います。何故美味しいかの理由ですが、まず豆が焙煎して間もないブルーマウンテンであることと、水はミネラルウォーターを使っていることだと思います。某Drは自称「コーヒー依存症」とのことで必ずコーヒーを飲まないとそわそわしてくるとのこと。院長や某Dr、私を含め大なり小なりみんな医局のスタッフはコーヒー好きで、おいしいコーヒーを飲むことで診療へのエネルギーを高めています。
 数年前のことです。その日も誰かが気を利かして朝からコーヒーをいれてくれていたのですが飲むととんでもなくまずい。続けて飲んだ院長も「うわー、今日のコーヒーはまずい!」と言っていたのを覚えています。早速、原因究明が始まったのですが、その日はいつもの水ではなくて別の水が使われていたのです。「ミネラルウォーターではなくて水道水だった?」と思われる方もおられるかも知れません。ところが違います。もし水道水を使っていたらいつもの味とほとんど見分けがつかなかったでしょう。使われていたのはいつもの「○○の天然水」ではなくて、それよりも高価な名水「エビアン」だったのです。いれた方にしては、気を利かしていつもより高価な水でいつもより美味しいコーヒーを作ってあげようと考えたのでしょう。しかし硬水でコーヒーを入れたらこんなにまずいのかとびっくりしました。そういえばヨーロッパに行って日本ほど美味しいコーヒーを飲んだことがありませんし、お茶に対するこだわりでは世界一の中国でも日本の軟水は重宝がられるとききます。カルシウムやマグネシウムの含有量が少ない水のほうがお茶には適しているようです。実は生殖医療でも「水」はとても大切なのです。軟水か硬水か、コーヒーが美味いか不味いかというより次元が違うほど大切です。私は生殖医療に足を踏み入れてすぐにこの「水」に関した問題に散々泣かされました。そのせいかいつも水に関する話には特別敏感に反応します。次回にその昔話を申し上げたいと思います。

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今回は排卵誘発剤の話の最終回です(なにせ半年間続けてきましてそろそろ飽きてこられた方もおられると思いますので)。排卵誘発剤の代表ともいえるクロミフェンの話をしたいと思います。皆様には商品名クロミッドでお馴染みだと思います。巷では「飲みに行ったらまずビール」ですが、産婦人科医の間では、「不妊患者さんにはまずクロミッド」が定着しています。なにせ内服薬で特に重大な副作用もありませんから、不妊治療を専門にしていない施設でもまず常備している薬です。しかし私はこのクロミッドの使い方が実は不妊治療医の腕の見せ所だと思っています。今回はその使い方を話すのではなくてその作用について解説したいと思います。話は変わりますが、皆さんは不妊治療を始めてから人にだまされたことはありますか?まあ「ない!」と答えられる方がほとんどでしょう。ところがこのクロミッドは自分自身を「だます」薬なのです。その理由をお話します。卵巣に働きかけ卵胞を発育さすのは脳から出るホルモンのFSHですが、これは出っ放しではありません。卵胞が発育してエストロゲン値が上がってくると脳はこれを感知し、FSHの分泌を減少させます。室温が上がったらエアコンの温風が弱まるようなものです。ところがクロミッドは脳に働きエストロゲンのセンサーを覆ってしまいます。このため脳は卵胞が発育してきてもエストロゲンがまだ少ない(=卵胞はまだ未発育)と勘違いして(だまされて)、どんどんFSHを出す訳です。もちろん自分自身が出していますので、高級品のリコンビナントFSHと違いタダです。「自分をだますなんて何とこわい薬を使うの!」「脳に作用して頭イカレないの?」と不安な方はまたご相談ください。

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尿由来FSHには尿は混ざっていませんが、微量のLH(取り除けなかったもの)や余分なもの(乳糖やpH調整剤など)が含まれています。「余分なものは」hMGに一番多く含まれているようで、注射部位はこれによりやや痛みが増します。ですから注射部位の痛さはhMGが一番で(といってもすごく痛いわけではありませんが)、以下、尿由来FSH、遺伝子組み換え(リコンビナント)FSHの順に弱くなる(筈ですが)。逆に、薬価はその反対の順に高くなり、リコンビナントFSHの薬価はhMGの倍近くになります。では肝腎の効果はどうでしょうか?これはまあ大ざっぱに申し上げますと「ほとんど変わりません!」と書きますと、製薬会社の方やリコンビナントFSH信奉Drに怒られますので、「コンビナントFSHが良い場合もあるし、逆にhMGや尿由来FSHが効く場合もある」と申し上げておきます。まあ、実際その通りで、日々の臨床でもその時々で使い分けています。「ではその基準は?」と聞かれますとこれは各Drで違いますので、一言で表現するのは(文章で書いて表現するのも)難しいです。
今回、切りの良い?このあたりで終わる予定でしたが、読み返しますとどうも後味が悪い文章で、「なんだ、結局うやむやじゃねえか!」と不満に思われる方もおられると思いますので、少し文章を追加いたしますと、元々、このリコンビナントFSHはヨーロッパで開発されたのですが、狂牛病の発祥の地??でもあり、その開発にはヒト由来の生物製剤はなるべく使わないようにしようという発想が根本にあります。とはいっても尿由来製剤で今まで感染症は発生しておりませんし、今後発生する可能性もゼロと思います。ヨーロッパではこのリコンビナントFSHが主に使われておりますから、排卵誘発剤にかかる費用はかなり高額となります。日本でもこれにならっている施設もあります。すべて「高級品」を使っているわけですね。では足立病院はどうかと申しますと、6月号で最初に述べましたとおり、私の持ち物の方針といっしょで使用比率は95%が「廉価品(hMGと尿由来FSH)」で5%が「高級品(リコンビナントFSH)」です。それが皆さんにとって一番得だと考えているからです。
(続く)

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