僕の多弦ベース遍歴〜はじめての6弦ベース | Tsuyoshi Adachi official weblog "Fresher's Road"

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茨城県を拠点に活動している作曲家・ベーシスト あだちつよし のブログ

僕がエレキベースを弾き始めた1980年代初期頃、世間ではテクノやユーロビートなど、シンセサイザー音源を主体としたいわゆる「コンピューターミュージック」が一世を風靡していました。
ベースはエレキベースよりもミニムーグやタウラスといった「シンセベース」が多用されていました。


当時僕は中学校の吹奏楽部でチューバを担当していたこともあり、和音(ハーモニー)を一番下で支える重低音にとても気持ち良さを感じていました。
クラシックの楽曲の最後にfff(フォルテッシッシモ)くらいで鳴らすロングトーンのハーモニーがバシッと決まるとそれはそれは気持ち良いものでした。
そんな経験から僕はエレキベースでも速弾きやスラップなどの技工的なものよりも自分が和音を支えていることを実感出来るようなシンプルな楽曲の演奏を好むようになりました。

時代は更に重低音を求めるようになり、僕は当時流行っていたラウドネスやアースシェイカーなどのハードロックやヘビーメタルも好んで聴くようになり、そしてTOTOやシカゴなどのAOR(アダルトオリエンテッドロック)にもハマっていったのでした。
彼らの名曲に出てくるベースのLow-DやLow-Bにはホントに痺れましたね!
もうその頃には4弦のエレキベースで弾ける曲の方が少ないんじゃないかと思えるくらいでした。

エレキベースは通常は弦が4本ですが、それ以上に弦があるベースを総称して「多弦ベース」と呼んでいます。
僕が初めて多弦ベースの存在を知ったのは1980年代半ば頃で、確か雑誌かカタログで見たヤマハの5弦ベース、BB5000だったと思います。
それはそれは衝撃的で「わぁ~!このベースがあればあの曲もこの曲も弾けちゃうんだー!」と胸躍りましたね。(笑)
しかしながら実際に僕が多弦ベースを手にするのはそれからだいぶ後のことになります。

 

YAMAHA BB5000

 

僕の最初の多弦ベースは1994年にシアトルで購入したアイバニーズのフレットレス5弦ベース、SR505FLでした。
当時僕はオリジナルアルバムを制作中で、突如「この曲のベースにはフレットレスのLow-Bが欲しい」と思ってしまい、急遽近所の楽器屋さんで購入したものでした。
急遽とはいえやっぱり5弦の重低音は気持ちよく、作品の仕上がりにも満足出来ました。

 

Ibanez SR505FL

 

その後2000年代に入り、ミュージックマンのスティングレイ5、スペクターのEURO5LX、サドウスキーのRV5と使用してきました。

 

Musicman Classic StingRay5

 

Spector EURO5LX

 

Sadowsky RV5

 

5弦ベース購入直後はレコーディングに限らずライブ演奏でも使っていたのですが、普段活動しているバンドは少人数で音数も少なく、5弦ベースを使う必要性をあまり感じず、次第に使わなくなってしましました。
それに4弦ベースの方がネックも細くて弾き易いし、重量も軽いし、取り回しも良いので、余計と5弦ベースをライブで使うこのとは無くなりました。

それからまた年月が経ち、数年前からジャズを演奏する機会が増えたのですが、ジャズには「曲中にメンバーが一人ずつソロ演奏(即興演奏)をする」という何ともありがた迷惑なルールがあり、ひたすらルート弾きで重低音を刻むことに拘ってきた僕はそのルールに今でも翻弄されているのです。
それでも仕方なくソロの順番が来たら何かしら演奏しなければいけないのですが、はじめはルートをたどりながらリズムを少し複雑にしたような演奏をしたりして、それから徐々にルートから外れてメロディーっぽいラインを入れてみたり、ノリの良い曲の時はスラップなんかを入れてみたり、そんなことをライブの度にいろいろ試していたところあることに気付いたのです。

例えばソロ演奏でベースのローポジション(低音域)だけで演奏していると聴いているお客さんの反応はほとんど無く、逆にハイポジション(高音域)での演奏や派手なスラップなどではお客さんの反応は良いのです。
つまり、多くの人たち、特に楽器演奏などをやったことのないような人たちには低音域の音程を認識出来ていないのではないかと思ったのです。
もっと言えば、もしかしたらギターやベースや鍵盤など、楽器の聴き分けも出来ていないのではないかとも思いました。

僕は幼い時から何故かそのパートごとの聴き分けが出来たので、父親が車でかけていたポールモーリアやラテン音楽などを聴いて「ここのベースライン面白い!」とか「後ろのオルガンかっこいい!」などとよく言ってたものです。
エレキベースを弾き始めた時も曲の中からベースだけを聴き分けて耳コピするなんてことを難しいことだとは思いませんでした。
だからそのようなことは誰でも同じように出来るものだと思っていたのですが、どうやらそうではなさそうだと気付いたのです。

それからというもの、ソロ演奏の時にはなるべくハイポジションで演奏するようになりました。
お客さんの反応も何となく良くなったように思います。(気のせいかな?)
そうなると今度は更に高音域を求めるようになるというのが人の性と言うのでしょうか...。
当たり前のように高音の弦(Hi-C)のあるベースが欲しくなるわけですね。
そしてついに6弦ベースの購入へと繋がるわけです。

最初は「今持っている5弦ベースをHi-C仕様にすればいいのでは?」とも考えたのですが、Hi-C用のナット交換にも手間がかかるし、またLow-Bが欲しくなった時にナットを戻すのも面倒なので、「大は小を兼ねる」ということで思い切って6弦ベースを購入することに決めたのでした。

現在6弦ベースを作っているメーカーは昔と比べれば多くなったと思いますが、それでもベース全体で見ればまだまだ少ないのではないでしょうか?
昨今の円安、物価上昇で楽器の価格も中古も含めとんでもないことになっていて手の届くものは更に少ないわけですが、そんな中今回選んだ6弦ベースは、アイバニーズのSRMS806、2023年の限定モデルです。

 

Ibanez SRMS806

 

前述したように僕の最初の5弦ベースもアイバニーズだったので、僕にとってこれが2本目のアイバニーズになります。
実は、僕のベースの生徒さんと6弦ベースの話になった時に「よかったら僕の6弦ベース使ってみてください」と言われてちょっとお借りしたのがこのベースだったのです。
お借りして早速自宅で弾いてみて驚きました!すぐに「これはいいぞ!」と思いましたね。

まず重量が4弦ベース並みに軽く、SRシリーズの特徴的な3Dシェイプボディーは体にピタリとフィットする感じです。
そしてボディートップのバールポプラ材の模様が宇宙のように幻想的で美しくとても気に入っています。

 

 

弦間ピッチは16.5mmでネックの幅もさほど広くなく、6弦ベースを弾いているとは思えないくらいに握り易いシェイプでとても弾き心地が良いです。

ピックアップはアイバニーズとバルトリーニが共同開発したというBH2を2基搭載。

コントロールはボリューム、バランサー、3バンドEQ、アクティブ/パッシブ切替SW、中音帯域切替SW。

ボディーバックには「オコウメ」、ネックには「ジャトバ」というマホガニーやウォルナットに似た木材を使用しており、そのサウンドは柔らかく温かいといった印象ですね。
恐らくケンスミスやワーウィックに似たサウンドなのではないでしょうか。

そして、このベースの最大の目玉はやはり「マルチスケール」を採用しているということでしょう。
「マルチスケール」とはその名の通り、6本の各弦がそれぞれ違ったスケール(長さ)になっているのです。
その長さは1弦で33.6インチ、6弦で35.5インチと1.9インチの差があります。
それに伴ってフレットも並行ではなく扇形になっています。(ファンドフレットといいます)
これによって各弦のテンション感が均一になりピッチもより正確になるというメリットがあると言われています。
しかし一方では「弾きにくい」といったデメリットもあると言われています。
これについては確かに賛否が分かれるところだと思いますが、僕の感想としてはテンションやピッチのメリットを十分に感じられたし、ファンドフレットのベースを弾きこなすには少し慣れが必要だと思いましたが、デメリットというほどのものではないと感じましたね。

 

 

その他にも、このベースには各弦に独立したブリッジを搭載しており、これにより弦同士の共鳴を防いで音の濁りを減らすというメリットがあるそうで、更にサドルを左右に動かして弦間ピッチをも変えられるという優れものなのです。

 

 

また、このベースは最長で35.5インチのスケールがありながらも、ブリッジをボディの端ギリギリに取り付けたりストラップピンの取り付け位置を12フレットラインに維持することで、あまり体が大きくない僕でも無理なく1フレットに手が届く構造になっているところが素晴らしいと思います。

とにかく僕にとってはいいことだらけのベースなわけですが、なんとこれが今時新品で10万円ちょっとで買えてしまうのです!
ホントにアイバニーズさんのコストパフォーマンスは素晴らしいですね!
これと同じスペックのベースをあの有名なハイエンドベースメーカーのフォ〇ラさんが作ったら数百万円はするでしょうね。

 

 

ということで無事に最高の6弦ベースを手に入れたわけですが、実は4弦ベースと6弦ベースの出せる音の数の差ってたったの10音だけなんですよね。(24フレットの場合、6弦でEb, D, Db, C, Bの5音、1弦でAb, A, Bb, B, Cの5音、計10音)
それを多いと思うか少ないと思うかは人それぞれだと思いますが、それよりも多弦ベースの最大のメリットは縦移動の領域が増えることなんだと思います。
例えば4弦ベースで4弦1フレットで弾いてたFが6弦ベースだと6弦の6フレットで弾けるようになったり、ハイポジションでも同じようなことが出来るので運指がとても楽になるということですね。
それによって4弦ベースでは思いつかなかったようなベースラインが生み出せる可能性が広がるわけですね。

購入してからそんなに経っていないのでまだいろいろ微調整段階ですが、6弦ベースには伸びしろがあり過ぎて、楽し過ぎて、いつまでもずっと弾いていられる感じがします。
このベースが今後僕からどんなベースラインを引き出してくれるのかとても楽しみです。