電車の乗り継ぎで立ち寄ったターミナル駅の賑わいや、
車窓から流れていく見慣れない街並み、
最寄駅から真っ直ぐ伸びる病院への道、
そしてこの日が母の命日だったことを、
僕は決して忘れないでしょう。
長く夢見ていた我が子との対面は、コロナ禍の今、
ナースも妻もいない殺風景な産科のエレベーターホールにおいて
ほんの20分ばかりの短いものでした。
息子を連れてきたナースが立ち去る際、
触ったり、抱っこしたりしてあげてくださいと言われたものの、
誰もいない場所で不慣れな自分が
抱っこして大丈夫だろうかと考えてしまい、
頭を撫でたり頬を触ったりする以上のことはできず
ただただ色々な角度から息子を眺め、写真を撮りました。
感激して泣いたりするのかなと思ったりしていましたが、実感がわかず
目の前で静かに眠っている男の子が他人の子のような気もすれば、
これ自体が夢の中の出来事のような気もしていて、
このぼんやりした気持ちを
息子がつんざくような泣き声で打ち破り、我に返りました。
ああ、夢ではなかった。
そう、夢ではなかった。
無事に子どもが生まれました。3500グラム超の男の子です。