引っ越しの準備を始めました。
住み慣れた部屋がみるみるかたちを失っていくのがかなしく、
柱の傷や襖の破れも愛おしく思え、落ちない汚れはまるで、
ここが空室になることを拒んでいるようにさえ思えます。
妻の物もかなり残っているので、
どう見ても不要と思われる物だけは処分しています。
不妊治療の記録や、補助金の申請書類も出てきました。
妻はもう見たくもないでしょうが、とても僕には捨てられず、
自分の新居へ持っていく箱にそっと詰めました。
ダンボールが積まれていく部屋を見ると、
妻と入籍してここに入居したころと重なります。
ちょうど朝焼けと夕暮れがどこか似ているように、
10数年前にこの部屋へ荷物を運び込み
ダンボールを積んだことを思い出しました。
あのときは新婚の僕らの引っ越しを両親、妹、妹の夫が手伝ってくれました。
親族みんないつまでも元気で、これから新しい家族も増える、
何の疑いもなくそう思っていました。
しかし程なく妹は離婚し、母は他界し、父は重い病気を患いました。
自らの責任を割り引いても、
つらいこと、かなしいこと、くるしいことの多い10数年だったと思います。
そんななか、朗らかな妻に日々どれほど助けられたか、
妻を失ったいまになり思い知るばかりです。
この先も明るい展望があるわけではなく、
生きる気力のようなものは著しく減退しています。
先日某タレントの轢き逃げがニュースになりましたが、
いま自分に車が突っ込んできても、
わざわざ避けたりしないだろうなという思いです。
五里霧中。
そんな心境です。