「いまよりもっと歳をとってから、後悔しないように」
妻とともにその気持ちで望みの薄い不妊治療を続けました。
しかし結論を言えば、授からない限りずっと後悔することになる。
早くに見切りをつければ、もう少し続けていたら…と後悔し、
いつまでも続ければ、なぜ早く諦めなかったのかと後悔する。
僕の名は祖父が付けたそうなので、男の子だったら、父に名付けてほしかった。
女の子だったら、妻が名付けたいと言っていた。
そうなったら父は何と言うかなと思っていた。
どちらにしても僕は名付けられないけれど、まあいいかと思っていた。
母の墓前に連れて行きたかった。
妻の子は、喜んでくれるかなと思うと少しこわかった。
大変だろうけれど、男女の双子だったらすごくいいなと思っていた。
ビデオカメラを買おうと思っていた。
運転好きではないけれど、車があった方がいいのかなと思っていた。
比較的休暇の融通が利く仕事で幸運だと思っていた。
友人たちのSNSを見ても、もうつらくならずに済むと思っていた。
思いは放熱し、ゆっくり冷えて萎んでいき、
すっかり小さくなった殻の中で後悔と罪悪感だけはその重さを変えないまま
ぎゅうぎゅうに詰め込まれ、やがて昏く均衡した。
すべて自分の責任になったことだけが救いだった。