自分の立場を棚に上げて、
ひとつだけ僕が脱力した出来事を挙げさせてもらえるならば、
それは「子どもはしばらく待ってほしい」と言った妻が、
自らの言葉を覚えていなかったことです。

トラウマとともに僕をながく縛り続けた誓い。
眠っている妻の傍ら、口に出さないように注意を払いながら、
心の中で幾度も反芻した呪文。

これだけはひどいと言わせてほしい。
僕を傷つけるための、鋭く尖った嘘であってほしい。