鈍い夫、だったならばまだよかったのかもしれませんが、

そうではなく僕は関心を寄せない夫でした。
 
僕の知らないLINEだか何だかのグループに参加して僕の知らない友人が急に増える。
部屋でイヤホンをさして目を閉じ、
いつまでも音楽を聴いている(もしかしたら聴いてさえいなかったかもしれない)。
昔の体型に戻す(かなり落としました)。
 
そう、僕は妻のこうした変化を認識していました。
しかし関心を寄せることはありませんでした。
正確に言えば、関心を寄せることができなかった。
それは、妻のこの変化が、僕の秘密に由来するものではないかと直感したからです。
深く掘れば、ずしりとかたい何かがきっと姿を現してしまうと怯えたからです。
 
妻が知っているのか知らないのか、
僕からすれば判然としない状況で
共に寝起きし、食事をとり、不妊治療を続けました。
すべてを知っていた妻は、この期間どんな思いで過ごしたのか。
 
僕は、子どもを授かれないつらさを妻とさえ共有できないと思ってきました。
しかしそれは、裏を返せば妻もまた同様であり、
さらに言えばひとり出産しているがゆえに
僕とは違う種類の(そして僕よりも深い)
やり切れなさをきっと抱えていたとわかっていなかった。
 
自分がつらい、苦しいと思うだけで、
妻の心情を思いやる気持ちはなかったと言わざるを得ません。
それどころか、いつからかある種の恨めしさまで芽生えていた。
 
世の中にこれほどひどい夫がいるだろうか。
僕は夫としてできうる極限の傷を妻に負わせました。