その日は平日だったのですが、

たまたま休暇をもらっていて

妻とふたりで家にいました。

すると父からメールが。

 

「おかあさんが危篤です」

 

短く書かれた文面に驚き、

あわててタクシーに乗って病院へ向かいました。

 

母が運ばれたのは集中治療室でした。

就寝中に呼吸が止まっていたそうです。

触れた体はつめたく、いくつもの医療機器に繋がれて、

かろうじて命を保っている状態。

医師からは、呼吸が止まっていた時間が長かったため

脳のダメージが大きいと説明がありました。

つまり意識が戻ることはないだろう、ということです。

 

そばにいてもできることはなく、

その日は後ろ髪を引かれる思いで帰宅しました。

翌日、再び病院へ行くと、

待っていた父に血圧が40台に下がったと告げられ、

僕と妻、そして妹に延命の可否を問いました。

妹は即座に延命を選びましたが、

僕には返答ができませんでした。

もちろん肉親として、妹の気持ちは痛いほどわかります。

けれど自分が母の立場だったら、

意識が戻る見込みがないのに延命を望むだろうか?

そう考えていました。

誰かが意見をまとめることもなく、

時間だけが刻々と過ぎていきました。

 

そしてその日の深夜、さらに血圧は下がり、意識が戻ることなく、

眠るようにでもなく、文字どおり眠ったまま母は旅立ちました。

57歳でした。