頻繁に電話を掛けてきて不適切な発言をする男性への介入を紹介します。

※今回紹介するケースは認知症ではなく統合失調症を抱えた男性です。

ただ、認知症の症状を抱える人でも同様の行動はありますので、参考にして頂ければと思います。

注)個人情報保護を遵守のうえ実践に役立つことを願いご本人・ご家族に了承を得ています。

 

①相談経緯
67歳の男性、基礎疾患は統合失調症。
毎日、頻繁にケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場に不適切な発言の電話を掛けてくるため、対応にかかりっきりとなり業務に支障が生じているが、解決への手立てが見出だせず、今まで「仕方ないよね」と対応を続けてきたが、夜間にも電話を掛けてくるようになり問題解決してほしいと相談を受けたケースです。
 
面談までの間に、それぞれの機関で1週間のデータを録るよう指示
①電話の回数
②通話時間
③不適切な言動の回数
④妥当な言動の回数
⑤男性の情動(穏やか・気分が良い口調、苛立ち怒りの口調)
 
②インテイク
■男性の様子
男性は将棋のプロになるため棋士奨励会に所属していたが、満21歳の誕生日までに初段になることができず退会となる。
その一年後の22歳の時に統合失調症(当時は精神分裂病という病名)を発症。
妄想・幻聴・異常行動のため50代まで計8回の入院歴がある。
50代半ばで両親が相次いで他界して一人暮らしとなってから引きこもりの暮らしとなり(但し、買い物のために外出はしていた)、病院受診は途絶えた。同時期に保健センターとの関わりも途絶える。しばらくは保健師もアプローチしていたが「本人が望まないから」という理由で手を引いていた。
生活費は親の遺産で十分暮らせる状態。
 
65歳になり親戚の申し出で介護保険のサービスを利用する。
頻繁な電話が開始したのはこれを期に。
内容は下記の不適切な言動

ケアマネジャーやヘルパーは、男性の訴えを傾聴して電話に付き合う。
次第に一日の電話回数と通話時間、不適切な発言が増していった。
 
不適切な言動
①ヘルパーが自分の住んでいるマンションの〇〇さんと不倫をしている
②ヘルパーが自分の個人情報をネットに拡散している
③ケアマネが地域の人に自分の病気のことを言いふらしている
④ヘルパーの買い物はいつも頼んだものと違うものを買ってくる
⑤闇の組織に狙われている・電波攻撃を受けている・毒ガスを撒かれている・盗撮盗聴されている
⑥ヘルパーのサービス直前にキャンセルを申し出たのに、夕方にヘルパーに来てほしいと言い出す
⑦ヘルパーのサービス時間の変更(特段の事情ではなく、男性のその時の気分)
⑧ケアマネジャーやヘルパーに対する電話応対や口の利き方がなっていない等のクレーム
etc・・・
 
■ケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場の対応
◎ケアマネジャー・・・1週間の電話の回数(101回、1日平均14.5回「そのうち夜間は平均3.7回」)、会話時間(10分~60分)、不適切な会話(平均14回)、妥当な会話(平均2回)、男性の情動(機嫌よい平均2回、苛立ち怒り平均14回)
担当者を含め事業所のスタッフが全員、男性の話に同調したり、説得して納得してもらうために丁寧に対応したり、反論したりして話に付き合っている。
 
◎ヘルパー・・・電話の回数(サービスの前日とサービス日「週2回」のみ、平均7回)、会話時間(3分~10分)、不適切な会話(平均2回)、妥当な会話(平均5回)、男性の情動(機嫌よい平均5回、苛立ち怒り平均2回)
サービス時間変更は頻回にあるが、男性の要求に応じている。キャンセルしたときは必ず夕方に「やっぱり来て」と連絡が入り、サービスに入っている。
また、当日のサービス利用時間の直前にサービス中止をしてくることも多いが、ヘルパーはキャンセル料金を請求していない。
サービスがあった日の夕方には必ず購入してきたものに対してクレームが入るため、ヘルパーが買い直しに行っている。
ヘルパーは言われたものを買ってきているが、男性の気分で「違うもの買ってきやがって」とクレームを入れる。
※買った物を男性に一緒に確認を促すも応じてもらえない。
 
◎警察・・・電話の回数(1週間の8回)、会話時間(10分~30分)、不適切な会話(8回)、男性の情動(苛立ち怒り8回)
不適切な言動の⑤⑥の内容で、現状を見に来てほしいと訴える。
警察も週1回は見回りに来ている。2年間の間に署員が男性にあったのは3回のみ。あとは電話のやり取りとインターフォン越しの会話。
 
◎町役場・・・電話の回数(1週間に2回)、会話時間(15分)、不適切な会話(2回)、苛立ち怒り(2回)
電話の内容は、ケアマネジャーやその事業所の電話応対への不満。それに対して男性の主張を傾聴して、ケアマネジャーやヘルパーに注意します伝えている。
実際には町役場からケアマネジャーやヘルパーへの注意はこない。
 
③随伴性と行動の目的
まず、男性の行動の目的はいくつかの機能で
 
■ケアマネジャーに対しては「注目の機能」
★男性の話の傾聴なし➡電話を掛ける・不適切な言動➡男性の話を傾聴あり
ケアマネジャーが話を聞いてくれるのがメリット(好子)となっています。
好子出現の強化
 
■ヘルパーに対しては「事物・活動の要求」「注目の機能」
★買い物の内容に不満あり➡違うものを買ってきただろ買い直しに行け➡買い物の内容に不満なし
嫌子消失の強化
★サービスなし➡やっぱりサービスに来て➡サービスあり
好子出現の強化
★ほんとうはキャンセル料あり➡サービス中止して➡キャンセル利用なし
嫌子消失の強化
男性の要求に振り回されながらもヘルパーがその要求に答えている。
 
■警察に対しては「回避の機能」「注目の機能」
★闇組織・電磁波攻撃・異臭騒ぎ・盗聴盗撮への不安・恐怖感あり➡自分は命を狙われている等を訴える➡闇組織・電磁波攻撃・異臭騒ぎ・盗聴盗撮への不安・恐怖感なし
恐怖・不安からの回避として警察に電話をすれば署員が話を聞いてくれることで恐怖・不安が一時的に軽減する
嫌子消失の強化
★警察官の対応なし➡見回りに来い➡警察官の見回りあり
毎回見回りはないが、週1回は来てくれるので部分強化されている。
好子出現の強化
 
■町役場に対しては「回避の機能」「注目の機能」
★ケアマネジャーやヘルパーへの不満・怒りあり➡苦情を言う➡町役場の人が傾聴して不満・怒りが収まる
怒り・不満の情動が湧きあがり、情動からの回避逃避として町役場に苦情を言えば、自分の主張を傾聴・受容してくれる(注目)もしてくれるので、怒り・不満が軽減する
嫌子消失の強化
好子出現の強化
 
■介入計画①
消去の原理で全員が男性の電話に応じない対応は現実的にはできないので以下の方法
但し、男性の電話には出ないというのは職務上できないので応じるが以下の取り決めをした。
 
◎ケアマネジャー・・・男性の不適切な発言がされたら速やかに受話器を机に置く。
3分経過後に電話を切る。
不適切な発言がない場合は話をしてもよいが1回の会話時間は3分。
時間が来たら「時間です」と言って切る。
1日の電話応対は午前1回・午後1回まで
 
◎ヘルパー・・・サービスの時間変更には応じない。
キャンセルと言ったのに「やっぱり来て」と電話がかかってきても「サービスには入りません」と言って絶対にサービスに入らない。
怒鳴るなどの不適切な発言が出たら速やかに受話器を机に置いて3分後に切る。
その後、繰り返し電話が入るが電話をとらない。
買い物後に買ってきたものを男性に確認する。
買い直しの連絡が入っても「行きません」と伝える。おそらく怒鳴ると思うので、速やかに受話器を机に置く。
 
◎警察・・・男性の不適切な発言がされたら速やかに受話器を耳から話して机に置く。
3分経過後に電話を切る。
不適切な発言がない場合は話をしてもよいが1回の会話時間は3分。
時間が来たら「時間です」と言って切る。
今まで男性が訴える闇組織・異臭騒ぎ・電磁波・盗撮盗聴の事実はないので見回りに行かない。
 
◎町役場・・・男性の不適切な発言がされたら速やかに受話器を耳から話して机に置く。
3分経過後に電話を切る。
不適切な発言がない場合は話をしてもよいが1回の会話時間は3分。
時間が来たら「時間です」と言って切る。
1日の電話の応対は1回まで。
 
■介入前
■わたしから男性へのルール呈示
関係機関が男性からの電話応対をすることで業務に支障が生じていること、そして男性自身も電話を掛ける・内容が不適切な言動が習癖となっているため行動変容の必要性があることを説明。
 
今後の電話に対すルールを提示(選択肢限定法)
①今後、ケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場は、男性からの電話は週1回しか受け付けない。
通話時間は3分のみとする。
仮に不適切な発言があれば電話応対はその時点で終了。
 
②今後、ケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場に電話を掛けられる回数を説明。
通話時間は3分のみとする。
時間になったら話の途中でも切る対応をする。
仮に不適切な発言があれば電話応対はその時点で終了。
 
③男性が、今後、ケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場に電話を掛けられるのは2週間に1回、通話時間は3分とする。
仮に不適切な発言があれば電話応対はその時点で終了。
 
男性に①②③を選択権を提示。
男性は即座に「ふざけるな。そんな要求は従わない」「お前たちは俺の税金で暮らしているんだろう」「町民の要望には従え」と怒鳴りだす。
 
わたしは「わかりました。それなら私が選びます」「私の指示に従ってもらいます」と淡々と説明して、②で取り組むことを男性に告げた。
 
加えて
●ヘルパーのキャンセルは前日までならキャンセル料は発生しないが、当日のキャンセルはキャンセル料を必ず徴収する。
●一度、自らキャンセルをした以上は自分の発言に責任を持ってもらうため、「当日にやっぱり来て」の要望は受け付けない。
●ヘルパーの時間変更も今までの理由を鑑み、今後は変更は認めない。
●ヘルパーが買ってきたものについては、ヘルパーと一緒に内容確認をすること。
この確認作業を拒むなら今後ヘルパーの買い物サービスは提供できないことを説明。
 
■ケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場へのルール
ケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場は、担当者以外の人もそこに努める職員全員がルール通り一貫した対応をすることを厳重に指示。
たとえ一人でも、ルールを破れば男性の電話や不適切な言動はなくならないことを説明。
2年間も続いた習癖なので、そう簡単に収束しないので、男性とケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場の根比べになることを繰り返し説明した。
 
介入後は、かなり長期間、消去バースト(電話の回数が増える)ことを説明。また、自作自演で被害を受けているというよう事件しでかすかもしれないことを警察署員には説明。
 
■介入
関係者は、ルール通り対応した。
男性からの電話はほとんどが不適切な発言なので、即座に受話器を机に起これた。
受話器からは罵詈雑言の怒鳴り声が聞こえたが、3分で切る対応をした。
男性にとっては、電話をかけても期待するメリットが得られないため、何としてでも電話の応対をしたいため、予想通り電話の回数が爆発的に増えた。
ケアマネジャー・・・1日約26回、ヘルパー・・・1日平均15回、警察署・・・1日平均10回、町役場・・・1日平均8回
それでも職員は1日の電話応対も守った。
電話に応じないときは、1回の呼び出し音は約6分は鳴り続いた。
 
消去バーストは3週間ほど続いた。
4周目から徐々に電話がかかってくる回数が減り、電話に応じないときの呼び出し音も20コールで切れるようになった、
そして6週目にパタリと連絡してこなくなった。
 
ここで考えてほしいのは、頻繁に電話を掛けてくる・不適切な発言を繰り返す男性に問題があるという捉え方である。
 
そもそも男性がこのような行動に至ったのは、ケアマネジャー・ヘルパー・警察署・町役場の不適切な関わり方に問題があるのです。
頻回な電話・不適切な発言に耐えて、男性に寄り添う(話に付き合う)。
男性の話を聴くことがカウンセリングになる。
不適切な要求に答える等を繰り返し来てた結果、行動が強化、維持されてしまったのです。
 
介入計画を提案したときに、全員が満場一致で快諾したわけではありません。
冷たい対応だ!!
ぞんざいな対応はできない!!
介護・福祉職がるとべき対応ではない!!
非常識だ!!
人道的に問題だ!!
男性のこころの苦しみを受け入れる場所がなくなる!!
話し合えばわかるはずだ!!
 
限られた時間のなかで日常業務をこなしながら、男性の電話対応に追われて疲弊して、自分たちでは解決策を見いだせないので何とかしてほしいと相談にきたのに、解決策に対して不平不満を訴える。男性を問題行動する人と言いながら、上記のような訴えを言い続けている限り問題は解決しないのも当たり前である。
 
話し合いでわかるなら、なぜ問題は解決していないのか?
介護・福祉職がとるべき対応とは?、寄り添うこと? 結果的にその行動が、男性の頻繁な電話と不適切な発言の習癖を身につけてしまったのだ。
冷たい対応ではない。不適切な行動で自分の要求を叶えようとする誤学習を直して、望ましい行動を引き出すための対応である。
 
課題は、途切れた受診と、男性が注目の機能を望ましい機会で得られる取り組みである。
現在は、その2点について取り組みをしています。