小規模多機能施設において行動上の問題(拒否行動) を示す女性への介入をご紹介します。

※個人情報保護を遵守するうえで実践に役立つことをご本人・ご家族に了解を得ています。

 

①相談までの経緯

アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の混合型と診断された女性。

次男夫婦と孫2人の5人家族。

毎日、小規模多機能施設(デイ)を利用しているのだが、ほぼ毎日以下の行動が生じている。

 

■朝の送迎時: 玄関まで迎えにいくと顔を見せるが「行かない」といって、すぐ家の中に引き隠ろうとするため、連れ出すのに10分以上かかる。時には一旦、他の利用者をデイに送った後に再度迎えに行く。

 

■デイ時間内: 食事誘導、入浴誘導などほとんどの場面に拒否を示す。

説明をしても納得しない。

他の利用者と一緒に散歩をしていても、途中で集団を離れて歩き出し、その後デイに帰ることを促しても拒否がみられてなかなか戻れない。

趣味活動への参加促しはスタッフもあえてしていない為、テレビを観ていることが多いがカラオケのとかだけは参加する。

但し、歌いだすとなかなかマイクを離さない。

テレビだけ観ているときは突然、席を立ち玄関から出て行こうとするが(施錠しているので出ることはできない)、椅子に戻るよう誘導しようとすると強い拒否があり叩くなどの暴力行為にまで発展することがある。

 

■帰りの送迎時: 送迎車に乗ろうとしないことが多い。「車に乗りますよ」と誘導しようとすると強い拒否があり、叩くなどの暴力行為にまで発展することがある。

 

家族の負担軽減のために毎日利用しているが、デイのスタッフから「拒否抵抗が頻繁にあり、スタッフへの他傷行動も頻繁に認められるため、デイとしては利用の回数を減らすか、やんわり他の事業所してほしい」と言われたため、家族からの相談を受けました。

 

②インテイク

■高齢女性の様子

アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症(多発性脳梗塞)

HDS-R/3点、MMSE/0点

認知症自立度/Ⅳ

話すこは可能だが、相手との会話成立度は低く、一方的に話したいことをしゃべっている。

意味理解に乏しいのは少し耳が遠いのが原因なのか認知機能が原因なのか、両方に原因があるからなのかは医療機関では未確認(認知症だからですまされている。家族やデイサービスのスタッフも同様の認識)

多発性脳梗塞と変形性膝関節症の影響で、歩行はワイドベース歩行(がに股ですり足)

 

一度拒否行動を起こすとなかなか行動修正せず、時には他傷行動(叩くなど力は弱いが暴力)に発展することも多々ある。

 

特に、朝夕の送迎時や食事、入浴など限られた時間内で行わなければならない時に起きたときは、あの手この手の説得に10分~30分はかかる(最終的には誘導したり、職員が望む行動はしてくれる)。

 
■デイサービススタッフの対応
拒否をされると何とか指示に従ってもらえるようあの手この手で説得を繰り返している。
叩かれる等の暴力があっても、叩く力は強くないのでよけることなく叩かれながら説得しているスタッフが多い。
 
■拒否行動の回数・・・介護や誘導の度に拒否行動が認められる。平均10回
 
■拒否が起きやすい直前の先行条件(5分以上の説明説得を要した場合)
◎どんなとき?【朝夕の送迎・食事誘導・入浴誘導事・カラオケをやめられない・散歩など)
◎どのような環境?【周囲が騒がしい・他の利用者も誘導されている環境下が多い】
◎どのようなスタッフが?【男女の有意差はないがテンション高めのスタッフのときが多い】
◎どのような声掛け?【「急がせている」「騒がしい中で雑に誘導を行っている」】
 
■拒否が起きにくい直前の先行条件(5分以内で望む行動に移してくれた場合)
◎どんなとき?【朝夕の送迎・食事誘導・入浴誘導事・カラオケ・散歩など)
◎どのような環境?【周囲が騒がしくない・他の利用者がまだ誘導されていない】
◎どのようなスタッフが?【男女の有意差はないがテンションが高くないスタッフのときのほうが僅かに拒否が少ないかも】
◎どのような声掛け?【急がせず、お願いするように伝えている(〇〇してもらえますか?)】
 
③行動の機能(目的)
最終的には誘導・職員が望む行動はしてくれているので、拒否行動の目的は回避逃避ではないと思われる。
女性の拒否行動の機能(目的)は注目の機能と仮説。
 
スタッフの誘導なし(スタッフのかかわりなし)➡拒否行動➡スタッフのあの手この手の説得あり  好子出現の強化
拒否している間はスタッフが付きっきりで説明説得にあたっている。
また、カラオケのように歌い手に注目が集まるのは自ら参加している。
誘導を促される時に、他の利用者が先に声かけされているときは拒否が起きやすく、女性に一番に声かけしている時は拒否が起きにくい。

④介入計画
◼送迎の迎えは一番にする。
◼帰りの送迎誘導、食事や入浴の誘導は一番にする。
◼誘導時は急がせず、穏やかな口調で声かけする。テンション高くしない。
◼誘導に対して行動に移してくれたら女性の好きなお菓子や、肯定的注目「ほめる、認める、感謝する」の言葉をかける。
◼拒否が5分以上続く場合は、女性の前から離れる。

⑤介入開始
介入計画で拒否が低減したのは朝の迎え。説得も5分以内で車に乗り込んでくれるようになった。
それ以外の行動は介入前に比べたら説得する時間が10分~15分以内に低減したが、回数は介入前後に大きな差はなく、好ましい行動の時には賞賛、好ましくない行動の時には消去などを行ってみるが、女性の拒否行動を低減させるだけの先行条件や強化子にはなっていない。

女性の拒否行動を変えるだけのアプローチのアイデアが必要だった。

注目を得る目的として自分だけ特別感が得られる関わりをスタッフと検討。

耳が少し遠い程度に捉えていたが、相手の話が聴きとれないのかもしれないとうことで、耳元で声掛けをすることにした。
有効な声掛を検証。
◼耳元で大きめの声かけ
◼耳元で普通の声かけ
◼耳元で小さく声かけ

◼耳元でスタッフの手を添えて大きめの声かけ
◼耳元でスタッフの手を添えて普通の声かけ
◼耳元でスタッフの手を添えて小さく声かけ

すると、耳元でスタッフが手を添えて「ささやく」ように話しかけると、聞いてくれる態度が多くみられた。

再検討の介入方法

◼ 関わる際には、女性の耳元でスタッフが手を添えて「ささやく」ように話しかける。

急がせず、穏やかな口調と表情で関わりを持つ。

◼誘導時には一番先に声かけをして、周囲が騒がしくなる前に女性だけ誘導を開始することにする。 

◼趣味のカラオケは3曲までにして、スタッフが大きなカンペに「あと2曲」「あと1曲」「終了」と女性が見えるように出して、終わったら盛大な拍手と耳元で賞賛の声かけを「ささやく」

◼女性に注目していることを意識付けさせるために、誘導以外のときもさりげなく笑顔でスキンシップをはかる。

以上の点を徹底して行った。


すると、1ヶ月もしないで拒否行動の回数平均10回、拒否時間10分~30分が、拒否行動が1~2回程度に減少。また拒否をしても5分以内にはおさまる為、拒否しない行動の判断基準に照らすと拒否行動0としてよいレベルとなった。


考察

拒否行動の原因として、耳が遠く相手の話が聞こえにくさが引き金でしたが、拒否行動を続ける目的はスタッフからの注目を得るため行動でした。


耳元でスタッフが手を添えて何かを「ささやく」というのは親密さを抱かせる行動です


要は、他の利用者には得られない特別感を得られるていると抱かせる効果があります。


そして、朝夕の送迎や食事や入浴の誘導もいの一番に声を掛けられるのも優位感(他の利用者より先に注目を得られる)と感じたことで拒否行動が減少したと思われます。


今までは拒否行動をしてスタッフを引き付けていましたが、対応するスタッフは苛立ちや困惑の表情で接していました。

その時の女性はそれでもメリット(好子)でしたが、誘導の声かけに、すんなり行動をしたほうがスタッフが笑顔で応対してくれるので、それがメリット(好子)と機能したと思われます。

さらに、頻繁にスキンシップが得られることを学習したことで拒否行動が減少したと思われます。