行動分析学の基本姿勢として「学び手は常に正しい」という大切な原則があます。

学び手ではないので、「認知症の症状を抱えた人」としましたが、わたしたち介護者・支援者側にとって、認知症の症状を抱えた人の行動はわたしたちの介護・支援の質と同等という考え方です。

 例えば、認知症の症状を抱えた人が自宅にいるのに「家に帰る」と出て行ってしまうと、わたしたちは「帰宅願望」とか「徘徊」と言って「問題行動をする人」扱いをしてしまいます。

 とかく、介護者・支援者側は、自分たちの思い通りに認知症の症状を抱えた人が行動しなかったり、手を煩わされて振り回される行動をされたり、理解しがたい行動をされると認知症の症状を抱えた人に原因を求め、「認知症だから」と個人攻撃の罠に陥りがちです。

行動分析学において「問題行動をする人」という捉え方はしません。

人の行動は、周囲の人々や環境など様々な影響を受け、その現状のなかで妥当な行動を決定し自発します。
 なので、認知症の症状を抱える人のとる行動は常に正しいのです。

「家に帰る」と出て行ってしまう行動は、介護者や支援者の言葉、行動、その他の振る舞いや環境により起きるべくして起きた結果なので、家から出て行った認知症の症状を抱えた人を問題とするというのは誤りなのです。 
そのため、自宅に居るにもかかわらず「家に帰る」と出ていきそうなら「出ていかないで済む状況や条件」を備えます。

つまり、認知症の症状を抱える人の行動を変えようとするのではなく介護者・支援者側の行動を変えることで、受ける影響が変われば、自然と相応しい行動が生起するようになるのです。

諸外国では近年、理解しづらい、かかわりづらい認知症の症状を抱えた人の行動のことを、チャレンジング行動 (Challenging Behavior)と表すようになってきています。

チャレンジング行動とは発達障害の分野で使用されている用語です。
行動を起こしている本人、あるいはその行動によって周囲の人が、困難をきたす問題行動に対して「介護者・支援者に正しい対応を要求する行動」という意味です。

 この用語が使われるようになった背景として、今まで「問題行動」という行動の捉え方は、周囲の人にとって問題であることを強調する側面と、その人自身に問題があることを示唆した行動とされてきました。

 また、医療介護の領域では「行動心理症状」と呼び、表向きの概念は、周囲の影響や体調などの影響で生じる行動と意味付けていますが、根底には病理的側面から生じる行動と捉えて、行動を生じさせている本人自身の病変や特性と結び付けている点から改善視点に欠けるという問題があることを指摘されていました。

そこで、その行動は「周囲の人の対応や環境に適応できない、またはそうせざるを得ない環境に置かれていることを訴えている行動」であると捉え「認知症の症状がある人を介護・支援する家族および専門職は問題行動を一つのチャレンジとして受けとめ、認知症の症状のある人が「問題行動」を起こさなくてもすむような対応や環境を整え、適正な行動が生じやすくする必要がある」ことを意味しています。