入浴拒否・着替え拒否する高齢男性のケースへの介入ご紹介をします。

注)個人情報保護を遵守のうえ実践に役立つことを願いご本人・ご家族に了承を得ています。

 

①相談までの経緯

一人暮らし。既婚歴なし。親族もいない。

アルツハイマーと診断を受けている高齢男性(要介護③、地域医の内科でHDS-Rだけ実施10点)。

いつから入浴(シャワー・清拭も含む)していないか・着替えしていないか不明。

民生委員から身なりがいつも同じで異臭を放っている。

スーパーでの買い物もいつも同じものばかり購入していると相談があり、地域包括支援センターが介入し、医療機関への受診、小規模多機能施設に繋ぐことはできたが、入浴と衣類交換を促そうとすると拒否。

サービス毎に入浴の促しをするだけで「さっき入った」「入らない」と怒鳴り、せめて着替えでもと説明しても「さっき着替えた」「着替えない」と応じないため、手を変え品を変えで対応したが対応に応じず、仕舞いには「入らない」と怒鳴られても職員二人がかりで浴室まで連れて行くが暴れて激しく拒否して衣類交換も入浴もできない状態が続いた。

現在は無理強いはせず頃合いを見計らい、たまに促しては拒否の繰り返しで一向に進展が見られず、どうしたら入浴や着替えができるかと相談に至ったケースです。

 

②インテイク

■高齢男性の様子

短期記憶・見当識・実行機能低下が顕著。

利用しているサービス

小規模多機能の訪問サービス(毎日利用、掃除・洗濯・買物、朝食の提供)

通いサービス(週3回)

宅配弁当(デイサービス利用日を除く昼食と毎日夕食)

 

はじめての人・はじめての場所などに強い不安や警戒心を抱く。

かかわりが増え、名前は覚えられないが顔の認識や場所の認識をしだすと警戒心がほどける。

民生委員の相談から地域包括支援センターの職員が自宅内に入るのに半年間かかった。

そこから医療機関につなげるのに2ケ月、小規模多機能施設に繋げるのに3カ月と初回相談から現在のサービス体制まで約一年近くかかっている。

私との面談時も警戒心から目も合わせない、質問に対して最低限度の会話しかしない。

入浴と衣類交換をしていないため皮膚は黒ずんでいる。

皮脂と埃とタバコのニコチンとアンモニア臭が混ざった臭いがする。

服装はシャツ・セーター・ジャケット、ズボンで過ごしている。

衣類も長年着こんでいるのか繊維のボロが目立つ。

体の状態を調べる名目で体を触ると嫌がる反応を見せる。

嫌がった反応が出た部位は首、脇腹、手のひら~肘、足首~膝。

介護職員からの聞き取りでも体を触られることを嫌がるとのこと。

お風呂に入りましょう・着替えしましょうという発言をしただけで「さっき入った」「さっき着替えたから」と興奮しだした。

 

 

■サービス関係者の対応

ケアマネジャー・ケア職員は、「風呂に入らないと衛生的によくない」「風呂に入って皮膚を清潔に保つ必要がある」とし、サービス毎事に「お風呂に入りませんか」「着替えしませんか」「さっぱりしますよ」「きれいな衣類を用意してしますよ」と怒鳴られても繰り返し声掛けを続けた。

職員は皆で高齢男性がどうして入浴・着替えを嫌がるのか検討して「入浴の必要性を理解できていない」「言葉の意味が分からない」「入る時間ではない」「裸になりたくない」「汗をかいていないから」等いろいろに意見を出して、あの手この手で声掛け内容を変えたり、時間帯を変えたり、汗をかかせるために散歩したりしたが拒否は続いたため、

無理を承知で、職員二人がかりで手を引っ張っり背中を押して風呂場に連れていく、羽交い絞めしている間に着替えさせようとしたときもあったが、拒否抵抗が激しく暴れて、結局断念するということを続けた。

次第に「風呂にはいれるよう対応しても拒否するのだからやりようがない」「いつか入りたい気持ちになるのではないか」「あんな状態(異臭を放ち衣類もボロボロな状態でいられるのが理解できない」という見解となり、「認知症だから・・・」「わがままだから・・・」と個人攻撃の罠・レッテル貼りをしている。

 

③行動随伴性

介護職員の対応が高齢男性の2つの行動を強化している。

 

(1)介護職員の「お風呂に入りましょう」「着替えましょう」の言葉に対して、「さっき入った」「入らない」「さっき着替えた」「着替えない」と怒鳴る行動をすることで、入浴や着替えの声掛け促し言葉(嫌子)がなくなる。

「お風呂に入りましょう」「着替えましょう」の言葉に対して「怒鳴る」が強化されています。

 

★介護職員の入浴・着替えの声掛け促し言葉あり→「さっき入った」「入らない」「さっき着替えた」「着替えない」と怒鳴る→介護職員の入浴・着替えの声掛け促し言葉なし

嫌子消失の強化

 

(2)デイサービス職員が二人で押さえつけて強制的に浴室へ連れていく、羽交い絞めにして着替えさせようとする行動に対して、暴れて激しく拒否することで浴室から逃れられる、着替えもしなくて済んでいるため、浴室へ連れていかれる、着替えのため衣服に手を掛けられたら「激しく暴れて拒否する」が強化されている。

 

★介護職員の入浴へ連れて行かされる・着替えのため衣服に手を掛けられる→暴れる激しく拒否抵抗する→浴室へ連れていくことを断念、着替えも断念

嫌子消失の強化

 
※高齢男性が入浴・着替えをしなくなった原因ははっきりしません。サービス介入するまでは「お風呂に入りましょう」「着替えをしましょう」という声掛け促しはない環境でした。
しかし、サービス介入したとこで、ケア職員から入浴・着替えの声掛け促しや強制的な対応等が「入浴・着替えを激しく嫌がる」行動の強化原因になっているのです。

 

③機能的アセスメント

高齢男性の入浴・着替えの拒否行動は2つの機能が考えられる。

 

(1)「回避・逃避要求の機能」と仮説しました。

※入浴や着替えの声掛け促し、浴室へ連れていかれる・着替えさせられようとしたときに「怒鳴る・拒否抵抗する行動」をすることで入浴・着替えから回避できる。

 

(2)「感覚要求の機能」と仮設しました。

※高齢男性は感覚防衛反応が強くある。特に触覚防衛反応が過敏と仮設した。

はじめて会う人・はじめての場所等に対して強い不安や恐怖感が出やすくなります。

身体接触を拒否するのもそのためです。

また、着替えを嫌がり年中同じ衣類(シャツ・セーター・ジャケット、ズボン)で過ごしているのも触覚過敏が原因と推察しました。

 

 

■介入計画にあたり

①フラッディング技法エクスポージャー療法(暴露療法)+スモールステップの原理で介入計画をたてることにした。

①フラッディング技法とは、強い先行刺激(嫌い・不安・恐怖・苦手を呼び起こす)に長時間さらします
そのことによって、どれだけ強烈な不安や恐怖を感じても、恐れるようなことは何も起きないということを経験をすることが目的だからです。

フラッディングの特徴は、成功すれば大幅に不安や恐怖が軽減し、それが持続するという事です。

②エクスポージャー療法(暴露療法)とは、過剰な「嫌い」「不安」「恐怖」「苦手」を感じる刺激に対して、弱い刺激から少しずつさらして慣れていくこという技法です。

 

スモールステップの原理とは、目標を達成するために課題を細かく分けることです。 状況に合わせ細かい課題を設定し、その課題を達成するため取り組ませることです。

 
※高齢男性の好子となるものを探る
高齢男性にとって好子となるものを食餌性(食べ物、飲み物など)・感覚性(音楽、タッチなど)、具体物(おもちゃ、品物など)、活動性(読書、イベントなど)、社会性(抱きしめる、頭を撫でる、褒めるなど)から探り、高齢男性にとって煙草とコーヒー、パチンコが好子になり得ると仮説。
※好子を使用するときは、常日頃得ている状態では好子として機能しないため、介入実施約1週間は与えないようにする。これが大変なのですが・・・
※入浴できるまで「通い」「宿泊」を連日行うことにした。
 

 

■介入計画①

フラッティング技法

高齢男性は「お風呂に入りましょう」「着替えをしましょう」という言葉が嫌悪となっているため、日常会話の最後に必ず「お風呂に入りましょう」「着替えましょう」というフレーズを挿入する

例え、「○○さんおはようございます。お風呂にはいりましょう。」「○○さん、今日は何を買ってくればいいですか?着替えましょう。」など。

嫌悪な言葉を聞けば、はじめのうちは怒鳴ってしまいますが「まあまあ、これでも」と即座に煙草とコーヒーを与えます。決して怒鳴りを長引かせない。フレーズから逃がしてはいけません。嫌悪感が維持され、怒鳴り・回避を繰り返してしまうのです。

フレーズを聴いて怒鳴らなければ煙草やコーヒー与える。

これを1日2回(午前と午後)、30分行う。

 

 

■介入計画②
エクスポージャー療法+フラッティング技法+
スモールステップの原理
浴室に無理やり連れていかれたことや、羽交い絞めにされて着替えを強要されたことで 浴室が嫌悪の場となっているため、浴室の場所に慣れてもらうことを目標としました。
そのため食事(朝・昼・夕)・飲水は浴室(脱衣室)場所で摂るようにしました。
浴室へ近づくことに対して警戒心が強くなっているため、強制的に連れていく必要はありませんが、飲食のすべてを浴室(脱衣室)としました。
最初はスモールステップで浴室周辺で飲食していく。はじめは嫌がるかもしれないが、無理強いして飲食を促さない。
浴室という険悪な場所に行くしか生きる道はない(浴室周辺でしか飲食ができない)ので、この方法で、高齢男性の方から浴室に近づく行動を増やします。
飲食を促すときはフレーズ挿入はしない。
 
 
介入計画③
■触覚過敏に対しては感覚統合療法の皮膚刺激+エクスポージャー療法+スモールステップの原理
①手のひら、足首をヘアブラシで押しつける。
はじめは5秒から開始し、5秒が慣れたら10秒、10秒が慣れたら20秒を触って嫌悪反応を示さなくなったら、次の部位にステップに進みます。
②上腕・脛、③肘・膝、④襟足、⑤脇腹、と段階的に進めていきます。
嫌がったりしたら、ひとつ前に戻る。決して無理をしない。
実施時間の目安は20分繰り返し行う
回数の目安は毎日3回(朝・昼・夕)
痛みを感じない圧力で押し付ける。
嫌々ながらも苦手なことを我慢できた場合は煙草とコーヒーが得られることを説明したうえで実施する。
 
介入計画④
計画①②③が馴化(誘発する刺激が繰り返し呈示されると、その反応が減少していく現象)したら、衣類の着脱のエクスポージャー療法+スモールステップの原理
①ジャケットを脱ぎ着を繰り返す、②ジャケットを脱ぎ、シャツを脱ぎ着を繰り返す、③ズボンを足首まで上げ下げを繰り返す、④ジャケット・シャツを脱ぎ、肌着を脱ぎ着を繰り返す、⑤ズボンを脱いでステテコ・パンツの上げ下げを繰り返す。
衣類の着脱を嫌がり暴れることも予想されるが、それで着替えを止めてしまうのが一番ダメなので、職員二人かがりで繰り返しやりきる。
嫌がらなくなったら次のステップに進みます。
実施時間の目安は10分、その間に繰り返し行う。
回数の目安は毎日3回(朝・昼・夕)。
すべての衣類を脱ぐのに抵抗感がなくなたときに初めてきれいな衣類に着替えてもらう。
嫌々ながらも苦手なことを我慢できた場合は煙草とコーヒー、パチンコが得られることを説明したうえで実施します。
 
介入計画⑤
計画①~④がクリアできたら、浴室内でのエクスポージャー療法+スモールステップの原理に突入します。
①浴室で手浴・足浴、②上半身裸になり清拭、③下半身裸になり清拭、④全身裸になり清拭、⑤シャワー浴、⑥入浴
嫌々ながらも苦手なことを我慢できた場合は煙草とコーヒー、パチンコが得られることを説明したうえで実施します。
 

■介入開始

計画①・・・日常会話の最後に必ず「お風呂に入りましょう」「着替えましょう」というフレーズを挿入は、初日はフレーズを聴くだけで怒鳴っていたが、即座に煙草を一服、コーヒーを繰り返し、連日、日常会話にフレーズ挿入を繰り返すことで徐々に激怒・嫌悪感は少していき、最終的8日目にはほとんど反応を示さなくなりました。

 

計画②・・・浴室周辺だけでしか飲食できない取り組みは、介入初日の朝・昼は嫌がり食べなかったが、夕食のときは自ら席について全量食べました。

翌日からは「○○さん食事どうぞ」と声をかけるとスムーズに席について食べました。

抵抗感なく飲食できていることを確認し、少しずつテーブルを浴室に近づけて飲食してもらつた。少しでも抵抗を示したら、ひとつ前の場所に戻して飲食をしてもらい、介入開始10日目には浴室(脱衣所)で飲食できるようになりました。

 

計画③・・・感覚統合療法の皮膚刺激+エクスポージャー療法+スモールステップの原理は、抵抗感が強く思うようにスモールステップが進まず、押し当てる物の試行錯誤で、ハンディ振動マッサージャーに行きついたら、そこからは順調にスモールステップできたが、抵抗なく実施できるようになるのに6週間かかりました。

 
計画④・・・皮膚刺激による感覚過敏への取り組みがあったので、衣類の着脱のエクスポージャー療法+スモールステップの原理は抵抗を示すが暴れる程ではなく、職員二人かがりで「お~いいね。脱げるね」「はい、着ますよ~」と繰り返しやりきり、
すべての衣類を脱ぐのに抵抗感がなくなたときに初めてきれいな衣類に着替えられたのは2週間でできました。
 
計画⑤・・・計画④をクリアし、いよいよ浴室内でのエクスポージャー療法+スモールステップの原理。①~④まで5日でクリアしたが⑤のシャワーでシャワーの刺激が嫌悪感を露わにしたため、シャワーヘッドに布を巻いて水圧は軽減する工夫で険悪刺激を解消できた。そして最終目標の湯船につかることが出来たのは10日目で達成できました。
 
高齢男性がいつから入浴・着替えをしていなかったのかは不明であるが、介入開始から約2ケ月で入浴することが出来るようになったのです。
 

■まとめ

高齢男性が入浴・着替えをしなくなった原因は
高齢男性が認知症で「入ったと思っている」「入浴の必要性を理解できていない」「言葉の意味が分からない」「入る時間ではない」「裸になりたくない」なのかはわかりません。
言えることは「清潔感覚の欠如」や性格的なものでも、わがままでもありません。
 
ケア職員の「お風呂に入りましょう」「着替えましょう」という声掛けに対する拒否・怒鳴り、浴室場へ無理やり連れていく、無理やり着替えさせようとしたが激しく拒否抵抗をされるから諦める職員の行動が、逆に高齢男性の入浴・着替えをより嫌悪なものに悪化させたのです。
 
入浴拒否などのように「不適切な行動」への対応を検討するときは、風呂に入りたくない・着替えをしたくない理由を(こころ)の中身に問題があるのではないかと議論しますが、答えはいくらでもあげられます。原因ばかり詮索・議論しても問題は解決しませんし、逆に問題を長引かせてしまうのです。

大切なのは行動を変える方法があることを知ること。どうしたら問題を解決できるのか!?行動を変えることができるのか!?に注力すべきなのです。
 
入浴・着替えを拒否する行動を強化させているのが好子なのか嫌子なのか、そして行動が起きる動機づけを想定することが大切なのです。
 
嫌悪・拒否・苦手の意思表示が示されると、つい常識的な対応として、その要求を受け入れてしまうのですが、嫌悪・拒否・苦手から逃げればますます嫌悪・拒否・苦手は酷くなるのです。
 
今回は、嫌悪・拒否・苦手なことを克服する方法として「逃がさない」、嫌悪・拒否・苦手を曝し続け、嫌悪・拒否・苦手を誘発する刺激が繰り返し呈示して、その反応が減少していく現象は馴化(じゅんか)を目指しました。
 
エクスポージャー療法+スモールステップの原理+フラッティング技法
フラッティング技法は、不安障害(特に強迫性障害、パニック障害)によく用いられますが、その他、特定の恐怖症、嘔吐を繰り返す摂食障害、社会恐怖や身体表現性障害にもその有効性は認められていますが、よく理解して使わないと逆に症状を悪化させてしまいます。
 
また、高齢男性の場面不安や拒否、対人不安や拒否、着替え拒否、触られることに拒否に対して、「不適応」な行動として触覚過敏が原因ではないかと仮設し、感覚統合療法(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚から脳に流れ込む情報が脳で交通整理しながら適応力を育てる療法)の皮膚刺激を行いました。
認知症などの脳の器質的な変化により、感覚の使い方がくずれ、さまざまな「不適応」な行動が生じてしまうのです。性格だから・・・、こころの中身の問題・・・と個人攻撃の罠、レッテル張りをするのではなく感覚防衛反応が過敏、鈍麻を疑ってみてください。