夜になると夫を怒鳴り家から追い出し、その後子供たちや知人に繰り返し電話をかけるケースへの介入ご紹介をします。

注)個人情報保護を遵守のうえ実践に役立つことを願いご本人・ご家族に了承を得ています。

 

①相談までの経緯

混合型認知症(アルツハイマー・脳血管性)と診断された高齢女性。

夫と二暮らし。

3ヶ月間、毎日夜間になると夫に対して「お前は誰だ」「出ていけ」怒鳴り散らすため、夫は家を出ていく。

その後、長男・長女・次男・知人・民生委員にそれぞれ、電話を繰り返しかける。

内容は「寂しい」「不安」「知らない男がいた」「怖い」等である。

 

毎晩、夫は30分~1時間は外で過ごさなくてはならず、長男・長女・次男・知人・民生委員は繰り返しかかってくる電話に疲弊・ストレスとなっている。

夫を怒鳴り家から追い出す行動と繰り返しの電話の行動をなんとかしてほしいと相談に至ったケースです。

※面談までの間に子供たちに隠しカメラで高齢女性の様子を録画しておくようにお願いする。

 

②インテイク

■高齢女性の様子

小学校の教員を定年まで勤めたが、未だ非常勤で働いていると思っている。

会話は教員時代のこと、今も非常勤で働いていることを繰り返し話す。

ADLは保たれているが、日常の家事は行っていない。

外出もせず家にこもった生活。座椅子に腰かけテレビを観る生活。

自分は介護の対象と思っていないため介護認定等も受けていない。

医療機関もかかりつけ医はいない。

※混合型認知症(アルツハイマー・脳血管性)と診断は、夫と一緒に健康診断という理由で受診して検査した。HDS-R=10点。抗認知症薬の処方はなし。

録画された画像を確認すると高齢女性の行動は20時を過ぎたあたりから夫の部屋に何度か行き、はじめは「ねえねえ」と声をかけるが、それに対して夫が知らん顔をしているため、「寂しい」「不安」「怖い」などの訴え出している。

夫から「何が怖いんだ」「毎日毎日同じことばかり言うな」と怒鳴られているうちに「お前は誰だ」「知らない男が家にいる」と騒ぎ出し、仕舞には「出ていけ」と怒鳴りだしている。

夫が出て行くとおとなしくなるが10分程すると、長男・長女・次男・知人・民生委員に電話をかけまくる。

電話番号は暗記しているようで電話帳を見ることなくプッシュボタンを押している。

 

 

■夫の様子

日々の家事は夫が担っている。

高齢女性が毎回、同じ話を繰り返す、事実と違う話につき合うのがストレスのため、食事を摂る以外は自室で過ごしている。

高齢女性が「ねえねえ」の声をかけに対して夫は応対しない。

「寂しい」「不安」「怖い」などと訴えれてから、またかとうんざりした表情で「何が怖いんだ」「毎日毎日同じことばかり言うな」と怒鳴り返している。

高齢女性に「お前は誰だ」「知らない男が家にいる」と騒ぎ出されると、「お前は何を言っているんだ」「夫の顔も分からないぐらいボケてる」とさらに怒鳴り返す。

高齢女性から「出ていけ」怒鳴り散らされると「ああわかったよ出て行くよ」と家を出ていく。

30分~1時間ほどして家に戻ると、高齢女性は長男・長女・次男・知人・民生委員に繰り返し電話をかけているが止めると怒鳴りだすと思い、何も言わず自室で過ごす。

 

 

■長男・長女・次男・知人・民生委員の対応

高齢女性から電話で「寂しい」「不安」「知らない男が家にいた」「怖い」と言われると、またかと思いながら無碍にできず「大丈夫?」と訴えに応対している。

但し、毎回電話応対するわけでなく、自宅の電話の受話器を上げてそのまま切ることの方が多い。

※皆自宅の電話は非ナンバーディスプレイのため高齢女性からの電話なのか他の人からの電話なのか見極めができない。

子供たちの場合、スマホにも電話をかけてくるが無視していると着信履歴(最大30件)の表示全てが高齢女性からの電話のときもある。

 

■夫を怒鳴りつける生起頻度

・その行動が起きた回数・・・毎日

・その行動が起きる時間・・・夕食後、20時頃

・その行動が起きてからやむまでの時間・・・不定愁訴から夫を追い出すまで約10分

・その行動が起きるきっかけ・・・検討がつかないとのこと

 

■長男・長女・次男・知人・民生委員への繰り返す電話の生起頻度

・その行動が起きた回数・・・毎日

・その行動が起きる1人当たりの回数・・・平均15回(2~3回は電話応対、あとは無視)

・その行動が起きる時間・・・夫が家を出て行った直後から22時頃まで

・その行動が起きてからやむまでの時間・・・1回の電話平均5分~10分

・その行動が起きるきっかけ・・・本人が「寂しい」「不安」などのが原因ではないか。幻視・妄想が原因ではないか。

 

 

③行動随伴性

高齢女性の夫に対する不定愁訴の訴え騒ぎ出して追い出す行動には2つの強化が関係しています。

 

①高齢女性の「寂しい」「不安」「怖い」と不定愁訴の訴え行動に対して、またかとうんざりした表情で「何が怖いんだ」「毎日毎日同じことばかり言うな」と怒鳴り返しが(好子)となり、高齢女性の行動を強めるていることが推察されます。

 

★夫の対応なし→「寂しい」「不安」「怖い」と訴える→夫の対応あり

好子出現の強化

 

※高齢女性と夫は普段から会話がなかった。

そこで20時以降、はじめは「ねえねえ」と夫に話しかけるのですが、夫が知らん顔をして応対しないため、「寂しい」「不安」「怖い」などの不定愁訴の訴えをしたところ、怒鳴りではあるが夫が対応してくれた。

無視をされるより怒鳴りでもかかわってくれることが高齢女性には好子となった。

 

②しかし、夫の怒鳴り返しがいくら(好子)であっても限度があり、一転して夫の怒鳴りや存在が(嫌子)となり、「お前は誰だ」「知らない男が家にいる」と騒ぎ出し、最後には「出ていけ」と言って夫を家から追い出している。

 

★夫の怒鳴りあり→「出ていけ」と怒鳴る→夫が家から出ていくので夫の怒鳴りなし

嫌子消失の強化

 

 

■高齢女性が「寂しい」「不安」「知らない男が家にいた」「怖い」を長男・長女・次男・知人・民生委員に対して繰り返し電話を掛ける行動は、一人当たり平均15回に対して、2回~3回相手がでて応対してくれることが(好子)となり部分的に好子が強化されている(部分強化)と推察されます。

 

★長男・長女・次男・知人・民生委員の応対なし→「寂しい」「不安」「知らない男が家にいた」「怖い」と訴える→長男・長女・次男・知人・民生委員の応対あり

好子出現の強化

 

※高齢女性の繰り返し電話をかける行動は、部分強化の中でも「変動比率スケジュール」となっています

「変動比率スケジュール」とは、何回かに1回の行動に対して好子が出現するが、その好子がいつ出現するかはわかりません。

例えば、競馬やパチンコなどギャンブル依存している人も、数時間に1回または数回・数日に1回当たり(好子)が出るため「のめり込みすぎ」が起きて依存症となります。

実は、行動に好子が毎回伴う(連続強化)より、何回かに1回の行動に好子が伴う(部分強化)された行動のほうが強く強化されるのです。

結果的に夫・長男・長女・次男・知人・民生委員も高齢女性の不適切な行動を収めるつもりで応対しているつもりでしたが、実は不適切な行動を強めるアプローチをかけていたのです。

 

 

④機能的アセスメント

高齢女性の夫へ繰り返される「寂しい」「不安」「怖い」などの不定愁訴の訴は「注目要求の機能」と仮説しました。

 

そして高齢女性の長男・長女・次男・知人・民生委員に対する繰り返しの電話も「注目要求の機能」と仮説しました。

 

高齢女性が夫に対して、「お前は誰だ」「知らない男が家にいる」と騒ぎ出し、最後には「出ていけ」と言って夫を家から追い出す行動は「回避・逃避要求の機能」と仮説しました。

 

 

■介入計画①

長男・長女・次男・知人・民生委員に対する繰り返しの電話には消去手続き。

皆自宅の電話は非ナンバーディスプレイのため、相手が高齢女性でない場合もあるが20時以降の電話には絶対に出ない。子供たちはスマホの着信にも一切出ない。

もともと繰り返しの電話行動は部分強化されていたので消去されにくく、2週間から3週間、場合によっては1ヶ月以上、繰り返しの電話行動が続くかもしれないことは説明。

※「電話をかければ応対してくれた」と「電話をかけても応対なし」という経験を同時にしているため、「今回は電話をしても応対なかったが、次は応対してくれるかもしれない」という予期が生まれて、消去しても、その予期が反応を続けさせるためです。

なので電話応対しない(消去手続き)をすることで消去バーストにより、かけてくる電話の回数は一時的に増えたり、場合によっては物を壊すなどの消去誘発性攻撃行動を起こす可能性を説明。

高齢女性が行動がエスカレートしているときに、誰かが1回でも電話応対をすると、「より頻繁に電話をかければ応対が得られる」ということを学んでしまうと(行動を強化してしまうと)、次から同じレベルの強さで行動を行うようになるので、絶対に電話に出ないよう指示。

 

 

■介入計画②

高齢女性は夫へのかかわりを好子としているが、「寂しい」「不安」「怖い」などの不定愁訴の訴えに対して夫の叱責・怒鳴りというお互いが不適切な行動で強化し合っているため、適切な行動に切り替える必要がある。

そのきっかけは、夫に対して高齢女性の「ねえねえ」である。


「ねえねえ」行動の後に、夫が知らん顔せず好意的に応対してもらう必要があります。くれぐれもうんざりした表情や反論・叱責などしないよう注意が必要となります。

この応対をしても、高齢女性が「寂しい」「不安」「怖い」などの不定愁訴を訴えてきたら、夫は自室にこもり、部屋に鍵をかけて部屋を開けない・ドア越しでも高齢女性の訴えに応対しないで過ごしてもらうことを提案したが、

夫から高齢女性が毎回、同じ話を繰り返す、事実と違う話につき合うのがストレスなので他愛ない会話をするのは難しい反論・叱責はしてしまうと言われてしまったため、

 

先行子操作を提案した。

先行子操作とは「困った行動を生起させにくくするための操作」である。

行動を本当に変化させるのは、行動の前の出来事ではなく、行動の直後の働きかけです。

しかし、ときには事前の工夫が効果を発揮することもあります。

とくに年齢を重ねている人になるほど、消去に対する抵抗が大きくなるので、事前の工夫が必要性が増してきます。

 

なので、高齢女性が夫に対して「ねえねえ」の「注目要求の機能」が始まったらタッチケアを行ってもらう。

タッチケアの間は、ヒーリング音楽を流しながら2人ともマインドフルネス(呼吸に意識して瞑想)しながら行ってもらうことにした。

高齢女性がその間、マインドフルネスに没頭できることは難しいが、(繰り返す話や事実と違う話)をし出したら、夫はマインドフルネス・タッチケアを一旦止めて無反応(黙る・目を合わせない)をする。

それでも話が続く場合は、夫は自室に戻る。

高齢女性が繰り返す話や事実と違う話をやめたら再びマインドフルネス・タッチケアを行うように指示。

夫も「黙って息して触るだけならできるかもしれない」「俺から話しかける必要もないし女房が喋りだしたら知らん顔すればいいんだろ」と介入計画に同意された。

 

 

■介入開始

介入開始したが、結局、夫がどうしても介入計画を行うことができず、今まで通りの対応を続けてしまった。

 

そこで子供たちに20時前に高齢女性に電話を入れて注目要求の機能を与えるよう指示を出した。

※高齢女性にとって夫のかかわりが一番の好子・注目要求の機能を求めているので

子供たちからの電話がどれだけ高齢女性の不適切な行動を生じにくくするかはわからないがお願いすることにした。

 

子供たちから高齢女性に電話をかけてもらったが、電話を切って30分もしないうちに夫に注目要求の機能を求めだしてした。

1週間以上、子供たちには電話をいれてもらったが高齢女性の行動は変わらなかった。

やはり夫からの応対を一番求めていることがわかったのだが、夫は介入計画を行う意思がないため、今回は消去手続きだけで不適切な行動の生起頻度を減らすことを目指した。

 

夫は自室にこもり、部屋に鍵をかけて高齢女性が来てもドアを開けない・ドア越しであっても高齢女性の訴えに応対しないで過ごしてもらうことにした。

消去バースト・消去誘発性攻撃行動を起こす可能性は説明。

 

案の定、高齢女性はむしろ行動をエスカレートしだした。

夫の部屋のドアを激しく叩いたり蹴ったりして大声で怒鳴る行動をしたが、夫は部屋から出ることなく応対もしなかった。

10分~15分ほど続けたあと、長男・長女・次男・知人・民生委員に対する繰り返しの電話をしたが、これも消去手続きのため誰一人電話応対しないため、高齢女性はひたすらプッシュボタンを押し続ける行動を0時近くまで行うようになりました。

高齢女性はあれやこれやと必死になって行動したけれども報われず、3週間ほどしたらそれらの行動の生起頻度が減りだし、1ヶ月半後には高齢女性の不定愁訴も怒鳴りも、繰り返しの電行動の生起頻度は0となりました。

 

■まとめ

今回は消去手続きだけで不適切な行動の生起頻度減少させました。

本来は消去に対する抵抗が大きくなるので、事前の工夫または適切な行動をしたときに着目して要求を満たすことで不適切な行動は生起率は減らしていくのですが、今回は介入計画通りにことが運びませんてした。

このようなことは在宅の場合はかなり多く、特に老々世帯では介護者の理解度にも影響されるため、こちらの提案を受け入れられなかったり、その時は理解しても実行に移せないのです。しかも今回のケースでは介護サービスも利用していないため困難さはありました。

 

不適切な行動を消去手続きで対処しようとするときは、一時的に行動をエスカレートさせる消去バーストや攻撃行動が生じる消去誘発性攻撃行動によって、行動を起こす人も応対する側も、消去バースト・消去誘発性攻撃行動を乗り越える心構えが必要となり大変ストレスフルな対処となります。

 

また、不適切な行動を消去手続きだけで生起頻度を減らしても、逆にその状況において他にどの様な行動を行ったらよいのか不明瞭なままとなってしまいます。

不適切な行動を消去する代わりになる適切な行動を増やしていくこと(望ましい行動の分化強化)したり、不適切な行動が生起しないようにするため事前の環境や対応を工夫するなど平行して行うことで、消去手続きの効果を高めていくことができるのです。

 

このケースにおいても、2ヶ月後には消去された不適切な行動が再び生じる(自発的回復)となり、結果的には当初の介入計画①②を夫や子供たちにしっかり周知してもらい、この時は介護保険サービスの定期巡回随時対応も利用しながら、家族だけの応対負担となることなく適切な行動を増やすことができました。