デイサービスで摘便を繰り返す高齢男性に介入したケースのご紹介をします。
注)個人情報保護を遵守したうえ実践に役立つことを願い、ご本人、ご家族に了承を得ています。
①相談までの経緯
妻と2人暮らしをしている高齢男性。
アルツハイマー型認知症と診断を受け、現在、週2回デイサービスを利用。
要介護②
HDS-R=13点
便秘もありアローゼンが処方され服用している。
自宅で排便しているかは妻も確認はしていないが摘便行動はしてないとのこと。
デイサービス開始して2ヶ月経過した頃から、何故かデイサービスに来ると摘便をし出すようになった。
職員も事前にトイレ誘導するが、誘導に応じるときと、「大丈夫です」と誘導を受け入れないときがある。
ズボンの中に手を入れる仕草に気づいたら止めに入ると摘便行動を止めるときもあれば止めに入っても摘便行動を続けるときがある。
職員も常に高齢男性に注視することはできない。
デイサービスの参加者からは高齢男性の摘便行動に対して苦情も出ており、困り果てた管理者から相談を受けたケースです。
※相談を受けてから、面談するまでに間、摘便の回数や職員の対応方法、摘便行為を引き起こす現象がなにか記録をお願いする。
②インテイク
高齢男性は物静かで、自分から意思表示をすることはありません。
他の参加者や職員から声をかけてもらえれば話はするが、基本的には受け身で相手の話を「うん、うん」と聞いていることが多いため会話が続くことはありません。
足腰はしっかりしています。
短期記憶障害、見当識障害は顕著。
デイサービスでも排尿時は自らトイレで行いますが、何故か便だけは摘便行動を行う。
■摘便行動の頻度
・9時30分~15時30分の間に平均2.5回。
■職員の対応
・事前のトイレ誘導や、・ズボンの中に手を入れる仕草をしたときに摘便行動を止める声掛けに対して応じているのが、特定の女性職員3名が対応したときである。
・摘便により指や肛門・衣類が汚れているので、浴室に連れていき指や肛門を洗い、着替えをさせている。
・特定の職員以外が対応をしても応じてくれない。
■摘便行動を起こす前の現象
・テーブルに座って、特に他の参加者と話もしていないとき。
・レクリエーションやカラオケをしている最中。
・特定の女性が、他の男性利用者と親しく会話をしているとき(※インテイク中の男性の行動観察で判明した)
③行動随伴性
高齢男性の行動随伴性には2つの強化子が考えられる。
■高齢男性が摘便行動をして便で手指や肛門が汚れることで、特定の女性職員に、手指や肛門の洗浄、着替えをしてもらえることが好子と推定した。
★女性職員の対応なし→摘便行動で手指や肛門、下着が便で汚す→女性職員の対応あり
好子出現の強化
■レクリエーションやカラオケの最中に摘便行動をすることで、レクリエーションやカラオケを途中抜け出せることから嫌子と推定した。
★レクリエーションやカラオケ場面あり→摘便行動で手指や肛門、下着が便で汚す→レクリエーションやカラオケ場面なし
嫌子消失の強化
④機能的アセスメント
■高齢男性の摘便行動は、少なくとも2つの機能が複合しています。
特定の女性職員と2人きりでトレイまで行ける・浴室で過ごせる(注目)
レクリエーションやカラオケから(逃避・回避)の機能があると仮説を立てました。
※肛門に指を入れる行動なので感覚の機能も疑いましたが、自宅では摘便行動をしている様子はないということで、感覚の機能は仮説から外しました。
3名の女性職員を独り占めしたい、女性職員とかかわりたい、といった要求が強いため
1人でポツンと過ごしているときとに行う摘便は「私にかまって、私はつまらないの」。
3名の女性職員が他の男性職員と親しくしているときに行う摘便は「嫉妬心」。
レクリエーションやカラオケの最中に行う摘便は「やりたくない、つまらない」という意思があるのです。
⑤介入計画
①摘便をして手が汚れた場合は、特定の女性職員ともう一人の職員の2名で対応する。
手指に付着した便をその場で拭うのは女性職員ではなく別の職員。
その時、2名とも高齢男性に声掛けもせず目も合わせず何事もなかったように淡々と拭う。
②下着に付着した便の後始末のため浴室へ連れて行くのは、特定の女性職員と一緒に対応した別の職員が連れていく。
この時、女性職員は高齢男性に「私は一緒に行けないので、私がお願いした○○さんと一緒に浴室に行ってください。私からのお願いです」と伝える。
③レクリエーションの時は、①の対応はするが、レクリエーションやカラオケは中断しないで続けさせる。終わった時点で②の対応をする。
④ズボンの中に手を入れる仕草に気づいても止めに入らない。
①は消去に近い対応で、②③は消去なので、一時的に摘便行動をエスカレートすることが予想されることは伝えておいた。
◼女性職員の対応なし→摘便行動で手指や肛門、下着が便で汚す→女性職員は側にいるが対応は別の職員
■特定の女性職員と浴室移動なし→摘便行動で手指や肛門、下着が便で汚す→特定の女性職員と浴室移動なし
■レクリエーションやカラオケあり→摘便行動で手指や肛門、下着が便で汚す→レクリエーションやカラオケあり
消去手続きを実施すだけでなく、同時に次の提案を行った。
④「お願いごとがあるときは『こっちきて』と言うか手を挙げてください。」と教える。
注意点は、「お願い事があるときは『摘便』ではなく、「こっちきて」と言うか手を挙げてください」と言う教え方はしない。『摘便』の部分に注意がいって、摘便行動をかえって強める恐れがあります。
■特定の女性の注目なし→「こっち来て」と言う。または手を挙げる→特定の女性の対応あり
DRA(代替行動分化強化)/望ましくない行動(摘便)と同じ機能を持つ望ましい行動(こっち来て、手を挙げる)がある場合、望ましい行動ををすることにより望ましくない行動を減らすことができます。
⑤午前に10分間、特定の女性職員と2人きりで会話をする機会を設ける。
午後も10分間の会話の機会を設けるが、特定の女性職員ともう1人別の職員の3名で会話をする。
※特定の女性職員3人は交代で対応
■NCR(非随伴性強化)
介入開始してすぐに、男性の摘便行動はエスカレートした。しばらくは余計に摘便行動がエスカレートすることは伝えていたので職員も慌てず対応できた。
エスカレートした摘便行為も2週間(4回目の利用)までで、3週間目からは摘便行動は激減して平均1.2回。
5週目には摘便行動は見られなくなった。
今回の介入では、高齢男性が、特定の女性職員とかかわりたい、レクリエーションやカラオケをやりたくないという要求を摘便という不適切な行動をすることで要求を満たしていました。
そこで摘便で要求を満たすクセから適切なかかわり方で要求を伝える方法を学ぶ必要がありました。
また、特定の女性職員だけで対応するのではなく、他の職員とのかかわりも慣れてもらう必要もありました。
そのため、消去手続きとDRA (代替行動分化強化)・NCR (非随伴性強化)と組み合わせて行いました。
デイサービスの職員の対応についても再認識が必要でした。高齢男性の摘便行動に対して職員対応に応じる応じないを、高齢男性の問題という認識(個人攻撃の罠)、認知症だからという(循環論)で捉え過ぎていました。
自分たち職員の対応方法についてしっかり記録を録っていれば特定の女性職員は容易に判明していた筈です。
さらにレクリエーションやカラオケもマンネリ化しており高齢男性に限らず他の参加者もつまらないという意見が出ていました。
趣味活動を企画することは容易ではありません。経費も絡んできます。
しかし、今回の件で職員対応や趣味活動の見直しの切っ掛けになり魅力的なデイサービスになってくれることだと思います。