物盗られ妄想+怒鳴り・暴力に介入したケースのご紹介をします。

注)個人情報保護を遵守のうえ実践に役立つことを願いご本人・ご家族に了承を得ています。

※私が初めて応用行動分析的アプローチで介入したケースです。

 

①相談までの経緯

アルツハイマー型認知症と診断された高齢女性。

次女と二暮らし。

次女は平日は就労のため、家事は高齢女性にまかせていた。

些細な異変に気づいたのは、買い物で同じものを買ってくるようになったことであった。

そのうち「お金がないからちょうだい」としばしば無心するようになり、そして「お財布が見当たらない」「お財布に○○円ほど入れていたのに入っていない」と言うようになった。
 

一緒になって探すと、違うバッグや財布に入れていたり、仏壇や箪笥にしまい込んでいたりと、すぐに見つかり「しっかりしてよ」と言うと高齢女性も「あらやだ。うっかりしていたわ」と
そのようなやり取りがはじめは、ごくたまにだったのが、次第にその頻度が増えてきたので、

 生活費の管理と高齢女性の年金管理を次女が行うことにした。

買い物も次女が週末や仕事帰りに行うことにして、高齢女性には嗜好品が買える程度のお小遣いを渡すことにした。

 

それから一ヶ月程してから「財布もって行ったでしょ」「財布からお金抜いたでしょ」と、次女を疑うようになり、

次女が「お母さんと話し合って私が管理することに決めたじゃない」「実の娘を泥棒呼ばわりしないで」と否定や反論をしても「ウソ、そんな約束した覚えはない」「財布返しなさいよ」「財布からお金を抜くのを見たわよ」と聞く耳を持たず、「娘を泥棒に育てた覚えはない」「お金を返せ」と怒鳴るようになってきた。

 

あまりに怒鳴るため、財布を渡すとしばらくして落ち着きだし、「お金に困っているなら言ってくれればあげるんだから」と言って妄想も怒鳴りもおさまる。

 

渡した財布は高齢女性に管理させられため、デイサービスに送り出した後に探し出して次女が管理していた。

 

ある日、いつものように物盗られ妄想→否定・反論→激怒のパターンとなったが、このとき財布を渡さないでいたら、高齢女性が次女に対して暴力を振るい出し、おさまり付かないため次女は「警察を呼ぶ、119番通報する」と言って、警察官が出動する事態なった。

暴力まで出るような状態となったため、なんとかしてほしいと相談に至ったケースです。

 

②インテイク

■高齢女性の様子

矍鑠としており、趣味の詩吟やパッチワークなども行っている。

アルツハイマー型認知症と診断され、アリセプト5㎎・抑肝散を服用している。

HDS-R=19点

週2回デイサービスを利用。デイサービスでの様子は楽しそうに他の参加者と談笑したり、生きがい活動に取り組んでいると報告されている。

 

■次女の様子

ほぼ毎日物盗られ妄想が繰り返されているため、親子とはいえ、必要以上にかかわりをもたなくなっている。

朝食は出勤のための身支度等の関係で長年、会社の側で食べている。仕事帰りに買い物をして19時頃帰宅。

帰宅後調理はするものの、高齢女性とは一緒に食べないようにしている。

週末も自宅で過ごすのが苦痛なため外出している。

積極的に会話をしようとする姿勢を失っている状態。

物盗られ妄想や怒鳴りに対して否定や反論せずにはいられない。

 

■物盗られ妄想の生起頻度

・その行動が起きた回数・・・ほぼ毎日、1回

・その行動が起きる時間・・・夕飯以降

・その行動が起きてからやむまでの時間・・・15分~30分

・その行動が起きるきっかけ・・・次女曰く検討がつかないとのこと

 

③行動随伴性

■高齢女性の「財布もって行ったでしょ」「財布からお金抜いたでしょ」「お金を返せ」と言ったり怒鳴る行動のあとに最終的に次女から得ている財布・お金が、高齢女性の行動を強める(好子)となっていることが推察されます。

 

★手元に財布・お金なし→物盗られ妄想・怒鳴る→手元に財布・お金がある

好子出現の強化

 

 

■高齢女性が「財布もって行ったでしょ」「ウソ、財布からお金を抜くのを見たわよ」「娘を泥棒に育てた覚えはない」と言ったり怒鳴る行動のあとに次女のかかわり・否定・反論が、高齢女性の行動を強める(好子)となっていることが推察されます。

 

★次女のかかわり・否定・反論なし→物盗られ妄想・怒鳴る→次女のかかわり・否定・反論あり

好子出現の強化

 

 

■高齢女性の次女に対する暴力行為に至ったのは嫌子と消去が推察されます。

 

★次女の反論あり→高齢女性の暴力→次女の反論なし

嫌子消失の強化

 

★手元に財布・お金なし→物盗られ妄想・怒鳴る→手元に財布・お金なし

消去(消去誘発性攻撃行動)

 

 

■次女の高齢女性へのかかわりも物盗られ妄想・怒鳴り・暴力を悪化させているのです。

高齢女性の物盗られ妄想・怒鳴られていると、どうしても次女もイライラしてきて反論してしまいます。

ここで次女が否定・反論すると一瞬(行動直後から60秒以内)ではありますが、高齢女性の怒鳴りは止まります。永遠に続く怒鳴り声を、反論することによって一時中断できます。

 

★高齢女性の物盗られ妄想・怒鳴りあり→次女が反論する→高齢女性が物盗られ妄想・怒鳴りなし

嫌子消失の強化

 

高齢女性・次女の行動がお互いの行動を無意識のうちに強化しあい、物盗られ妄想がいつまでも解決されず、しかも悪化(強化)させているのです。

 

 

④機能的アセスメント

高齢女性の物盗られ妄想、怒鳴りの行動は、見た目は同じ行動であっても違う機能を持っています。

「財布やお金の要求機能」「注目の要求機能」と仮説しました。

 

高齢女性の次女への暴力行動の機能「財布やお金の要求機能」「逃避・回避の機能」を持つと仮説しました。

 

介入計画のあたり

まず、次女に対して、生活費や高齢女性の年金管理をどうしたいのか意思確認すると

「高齢女性には任せられないので私が管理したい」と話されたので、以下の介入計画を立案した。

 

■介入計画①

財布やお金への要求には消去手続き。

物盗られ妄想が始まった直後に、次女の注目・財布やお金の要求を無効化させるため次女は自分の部屋に行くこと。

消去は行動の原理にそった、行動を弱めるための確かな方法であるが、行動の消去を試みると、最初の段階ではその行動がより増加する消去バーストや消去誘発性攻撃行動を起こす可能性を説明。

但し、高齢女性が行動がエスカレートしているときに、次女が「部屋から出てしまう」「かかわり・反論・否定」「財布・お金を渡す」行動をすると、「より暴れれば次女がかかわってくれる・財布やお金が得られる」ということを学んでしまうと(行動を強化してしまうと)、次から同じレベルの強さで行動を行うようになるので、絶対に部屋から出ないよう指示。

※なぜ、外へ出て行くことを提案しなかったかというと外へ出てしまうと、高齢女性が落ち着いてきたかどうか把握できないため。

 

■介入計画②

消去手続きだけでなく、先行子操作を行う。

先行子操作とは「困った行動を生起させにくくするための操作」である。

次女自身では、物盗られ妄想が生起する原因に心当たりはないと話していたが、高齢女性による毎日繰り返される物盗られ妄想により、必要以上にかかわりを持たない、積極的に会話をしようとする姿勢を失っている状態であったが、結果的にその対応が物盗られ妄想の行動を強めている(確率操作/好子や嫌子の力を高めたり低めたりする・特定の行動が起こりやすくする)ので(次女への注目を得たい)夕飯は一緒に食べるようにすること。

できるだけ会話をしてもらう。会話をするためにテレビを観ながらでも構わない。

但し、お金にまつわる話題は避ける。

 

■介入計画③

不適切な行動の機能(注目・逃避回避・物や活動・感覚)と同じ機能を持つ望ましい行動や余暇活動に着目し上手に褒めてもらえる機会を得られるようにした。

趣味活動が詩吟やパッチワークをデイサービスで活かしていくことにした。

今まではデイサービスのプログラムを行っていたが、高齢女性が先生となって詩吟やパッチワークのプロクラムを行えるようデイサービスに働きかけた。

デイサービスのスタッフには、プログラムの活動を積極的に褒めたり認めたりして肯定的に対応してもらうようお願いした。

「注目要求の機能」と「物や活動の要求機能」を獲得する。

 

 

■介入開始

介入して5日間は物盗られ妄想は生起したため、消去手続きを行う。

高齢女性は大声で怒鳴り、次女の部屋のドアを激しく叩くなど行動はエスカレートした。

 

次女は高齢女性の変貌に怖さを感じたが予め行動がエスカレートすることは説明を受けていたので、高齢女性が落ち着くまで自室で過ごした。

 

6日目から物盗られ妄想は生起は減少し、3日1回程度となる。その都度、消去手続きを行ったが、消去バースト・消去誘発性攻撃行動までエスカレートしなくなった。

3週間もすると、物盗られ妄想の発言をしても、次女が立ち去ろうとすると、すぐに発言をやめるようになった。

 

夕食を共にするのも当初は不用意な発言が物盗られ妄想を生起させるのではないかと会話がギクシャクしてが、妄想の回数減少していくのと比例して、他愛もない会話ができるようになった。

 

そしてデイサービスにて詩吟やパッチワークの活動を称賛され、他の高齢者からも「すごいね」と褒められたり尊敬されたことで、次女だけにもとめた注目の要求がデイサービスのスタッフや他の高齢者からも得られるようになり、趣味としていた詩吟やパッチワークがデイサービスの新しいプログラムに組み込まれ活動の要求も満たされ、望ましい行動に置き換えていけた。

 

介入開始から、1ヶ月半ほどすると、たまにデイサービスで「お小遣いが○○円しかもらえない」という発言は聞かれるが、物盗られ妄想や怒鳴り・暴力の生起はなくなった。

 

 

■まとめ

高齢女性は何故、物盗られ妄想から怒鳴り・暴力まで発展してしまったのでしょうか?

物盗られ妄想の介入①でも説明したが、

 

物盗られ妄想という不適切な行動をしたところ、高齢女性が得たい好子(次女とのかかわりと財布・お金)と機能の要求(注目の要求と物の要求)が通った。

つまり次女に対して物盗られ妄想という不適切な行動で要求を伝える強力な手段を学習してしまったのです。そして不適切な行動によって得る要求に慣れてくると、行動はより激しく、より長くなっていったのです。

 

冒頭で書いたように私が初めて応用行動分析的アプローチで介入したケースでした。

 

不適切な行動を弱めるため、消去という方法を試みましたが、私が面談したときは物盗られ妄想の発言はなかったため、手本として消去を実演することができず、次女が実践した報告を受けて、改めて消去バースト・消去誘発性攻撃行動の凄さと怖さを思い知り、消去を完璧に行うことは一般の家庭ではなかなか難しいことも痛感しました。

この経験が消去手続きを主としたアプローチではなく、不適切な行動が起こりにくい状況=その人にとって望ましい行動が生じやすい事前の対応を工夫することを介入計画メインとした立案の大切さを知りました。