突変 (森岡浩之) | もう何年もサブレを食べていない

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 星界シリーズの森岡浩之の小説。
 本屋で見かけたとき、こんな分厚い新作書く暇があるなら、速く戦旗を書け、と思ったのは僕だけではないはず。ただ、知っている作家だったし、出張先の土日の暇つぶしが必要だったこともあって購入。

 内容は緩い漂流もの? ある日、突然地球上の一部が他の世界の一部と入れ替わってしまう、という感じの。使い古されているんだろうけど、あまり読んだことのないネタだったのでけっこう新鮮。

 主人公らしい主人公はおらず、色んな人の視点から世界観を魅せていく、というスタイルなのかな? そのため、序盤から色々な人物視点で物語が始まる。しかし、そのキャラに慣れた頃に次のキャラに移ってしまい、しかも話は進まないのでややフラストレーションがたまる。でも、酒河市が突変したときから段々面白くなっていく。知らない世界への対処。突然現れる救助者。そして怪獣。
 だけど、突変先の世界のことがほとんど判らないまま、物語は終わってしまう。見方によっては中途半端で、続編があってもおかしくないような終わり方。どことなく不完全燃焼な感じが残る。

 だけど、楽しく読めた。
 この小説の醍醐味は人物造形なのだろう。登場人物全員がどことなくとぼけた感じで味がある。もの凄い危機的状況に居るはずなのに、それが全く伝わってこない。全員どこか楽観的で、読んでいるこっちが「おいおい」と突っ込みを入れたくなる。真面目なキャラも居るが、英雄的なのはいない。いろいろと都合がいい展開が起こるが、まあしょうがねえなあ、という気分で読めてしまう。

 思えば、この作者は昔からキャラが絶妙だった。星界シリーズもそうだし、月と闇の戦記もそう。電撃角川富士見あたりのキャラほど突き抜けてはないんだけど、会話の端々がすっごい面白い。昔ほど手は込んでいないけど、その分自然な感じになって世界観にあっている。
 設定もよく練られているのも一緒で、脇がしっかりしているから、安心してキャラのやりとりに集中できる。これ、大事なんだろうな。

 総評としては、不満点はあるけど、さすがは森岡作品というところ。SF作品って、設定を練るのに集中してしまって、話やらキャラやらが微妙な作品が多い気がしてあまり好きではないのだけど、この人の作品はよく馴染む。もっと色々書いて欲しいけど、望み薄なんだろうなあ。(星界シリーズは完結させて欲しい。待ってます)