私は犬だ。名前は数日前につけられた。ギョウル(※韓国語で冬という意味)。
いい加減な私の飼い主が、私と出会ったのが冬だったからという理由でつけてくれた名前だ。
この家に来てからもう3週目になった。初めて飼い主とペットショップで会った時、私はとても眠くて大人しくしていた。
ショップの社長も、とにかく商売人として利益を出さないといけなかったので私のことをすごくよく評価してくれた。
優しくて大人しくて頭がいいから手間がかからない。ショップに一週間いる間、一度も問題を起こしたことがない。など、あらゆる褒め言葉を使って、今の飼い主に私を紹介した。
眠い状態の私を初めて見た飼い主は愚かにもその言葉をすべて信じ込んでしまい、最終的に私を飼うことになった。
その日は、彼と彼の妻の結婚記念日だった。
所有者は、私を車に乗せて、妻のお迎えに行った。私は眠かったので当然なこと、助手席に座って寝ていた。
英国皇室犬の血統を誇るウェルシュコーギーの私を助手席に乗せるなんて、ありえないことではあるがとにかく眠かったたから寝た。
そんな私を見て飼い主は「可愛いな。なんて大人しくして慣れの早い子なんだ。」と私を愛おしい目で見つめながらほざいた。
犬だけが意味のない吠え声をあげるわけではない。人もそうなのだ。
飼い主の妻 - これからは女主と称する - は私を見てとてもうるさくて気に触る下品な悲鳴を上げた。
まあ、どうやら私のぬいぐるみのような見た目に見とれたからだろうけど、とにかくうるさかった。この騒がしいカップルを落ち着かせるためには、やはり寝るしかなかった。
私は寝た。揺れの激しい韓国の安っぽい車に乗るだけで不愉快だったが、仕方がない。これからはこいつらが私の食事を担当してくれるんだから。
いきなりではあるが、私は食い意地がはっている。
食べ物を見ると何も考えられない。登山家は山があるから登り、サッカー選手はボールがあるからゴールを入れ、男は穴があるので......ああ、これはまだ私には早い話だな。
とにかく私は食べることが大好きだ。人間は時々よく分からないことを口にする。生きるために食べるとか、幸せのために生きるとか、知的レベルが高いと誇る奴らは<実存は本質に先立つ>など荒唐無稽なことを言ったりする。しかし、私ははっきりと言える。
私は食べる。故に、私は存在する。
私の本質は食い意地で出来ていて実存が本質より先立つことは絶対ない。
まあ...ところで、最初に飼い主の家に到着するやいなや、リビングルームの真ん中におしっこをした。それはとても象徴的な行動だった。
単なる排泄を超えてマーキングと同時に主従関係の確立というか。君たちが居着いていたこの家はこれから私の家で、君たちは私のうんちとおしっこを片付ける存在だけであり、それ以上を望むのではないとの無言の意思表現だった。どうせ私は言葉は喋れないけど。
おしっこが終わったら喉が渇き、お腹もすいてきた。さっさと飲み物と食べ物をもってこいという意味で私は人間どもに噛み付いた。
まだ乳歯が生えている中だから歯がくすぐったくなってきたためなんでもいいから噛み付きたくなった。彼らは痛いと言いながらも楽しんでいた。
急いで私の水ボウルと餌ボウルなどのペット用品のセッティングを終えた後、ご飯と水を持ってきた。
ご飯を食べている私がかわいいと撫でてくることにあまりにもイラついて3秒ほど唸ったらその後からは食事の時に触ってくることはなくなった。
一度言っただけで分かるのを見て人間もかなり知能が高いかもしれないと思った。
ご飯を食べ終わったらまた眠くなっててきた。ついでに言っておくとこの時の私は生後2ヶ月と10日しかなってない子犬だったから一日中眠るのが普通なのだ。
寝るつもりでふわふわのクッションの上に横たわったらこの人間どもが私の周りに鉄のフェンスを立てていた。
私は閉じ込められてしまった。
その中にトイレと水のボウルを入れてくる。排便の訓練をさせるつもりであろうと思った。
私は英国の皇室犬血統、牧場を走り回った羊飼いワン様なのだ。私が排便するところは私が決める。
巧みに彼らが持ってきたトイレを避けてうんちとおしっこをかけてやってからグーグー寝た。
10時間程度を寝て、起きてからゆっくり家を見回った。
家はかなり居心地のいい感じで、ちょうどよく整理されていた。新婚だけではあるなと思った。かわいい奴らだと思っているとき、人間どもが現れて私の口におもちゃを近づける。
めんどくさいー!結局、私は飼い主が大切にしているチョッパーのぬいぐるみをバラバラにしてやった。それで飼い主はチョッパーを持ってきた女主に拗ねてしまった。
まあ、でも少しは優しくしてあげないとと思って数回飼い主を舐めてあげたら、すぐに笑いの花が咲く。人間を飼うのも悪くはないと思った。
数日間、ああやって人間どもに排便訓練を許さず遠慮なくワガママしていたら餌の量が少しずつ減ってくることが分かった。
ずるい奴らめ。私、頑張るよ。
心を決めて全力で可愛いふりをした。ジャンプ、ジャンプ、ターン、ターン、ペロペロ、ペロペロ、ぎゅっとぎゅっとの無限な繰り返しだった。
そして時々おもちゃを噛むふりをして人間を噛んで彼らの体のあちこちに傷を残した。
人間どもが自分たちでこそこそ言ってることを聞いてみると「元々ウェルシュコーギーが牧羊犬だったじゃん。そういう習性が残ってるから足のかかととか噛んだりしてるんじゃないかな?ああ、そうかもよ。いう通りだわ。あなた本当に頭いいね!」
やはり犬だけ意味なく吠えるのではない。もしもし、私、韓国で生まれた韓国のワンちゃんなんだよ。私もお前らのように韓国の吠え声を出すんだよ。習性なんてバカバカしい。
そうやっていつまでも人間どもを噛み続ける楽しい日々が続くと思った。
人間どもの友達が訪ねてきた。
彼らは様々なペット用品と餌やスナックを買ってきた。社会性の良い人間どもだと思った。
彼らは私のことを可愛がりながら、彼ら同士でつるんで遊んでいた。彼らが酒を飲んで笑って楽しい時間を過ごしているとき、私は眠たくなった。
目が閉じそうになると触ってくるし、眠りにつきそうになるとキスをしてくるからとうてい眠れなかったのだ。
眠くて仕方がないとき、人間どもの友達の一人めがキスをしまくるから思わず唇を噛んでしまった。
力加減に失敗した。
その友達めの唇から血がたくさんた出て、人間どもはそれ以降、私を叱り始めた。
畜生ども、飼い主づらをやり始めた。
私が噛むたびに人間どもは強制的に私をひっくり返してお腹を見させた。
「ダメ!ダメ!ギョウルちゃんダメ!」という言葉を五百回以上聞いた気がする。
女の子のワンちゃんにとって強制的にお腹を見せる行為はとても反犬権的なものなのを無知な人間たちは知らない。
人間の女性も心を許してから体を許すように、私も同じなのだ。心がほぐれてからお腹を許す訳なのに強制的に私の大事なところを見せられるのはとても悪い行動である。
レイプだよレイプ! 私に首輪をつけるのではなく先にお前らに電子足輪(※性犯罪者GPS監視装置)をつけるべきじゃん。
とにかく私は現在も日々レイプされながら生きている。
私のパパがこの事を知れば<I will find you and I will kill you>してくれるのであろう。会いたいよ、パパ。
レイプされないためには仕方ないけど少しはいうことを聞いてやらないといけなかった。
しっかりトイレに排便をしないといけなくなり、噛むこともできなくなった。
しかし、時にはイライラすることもある。そんな時にはおもちゃを噛むふりをして飼い主を噛んだり、あえてトイレのすぐそばに排便をしたりする。
ところで面白いのは、間違いなく床に糞を出したはずなのに人間どもはどこで聞いた豆知識なのかは分からないけど、私を糞が見えない場所に連れていっている間にこっそりと糞をトイレに移す。
そして、まるで私がトイレに糞を出したかのように褒めまくる。
何をやってんのか分からない。とりあえずおやつをくれるから食べるけどね、お前らも大変だ、大変。
先週末には飼い主とお風呂に入った。
飼い主は浴槽に少しお湯をためてから、私を入れた。当然なことに私は犬だから怖かった。
それがバレないようにすごく頑張ったけど、体が震えてくるのは仕方なかった。
飼い主は本人も浴槽に入ってきて私に少しずつ水をかけながら私が水に慣れるまで待ってくれた。
私はその時、人間の成人のあれを初めて見た。ペットショップにあった珍島犬のあれよりも小さいと思った。
鼻で笑っていたら、まあそれなりにお湯が暖かくて気持ち良くなってきた。飼い主はそんな私に気がついたのか浴槽に水を溜め始めた。
水が溜まってきたが、私は足が短い。幼いからってこともあるが、元々ウェルシュコーギーは足が短い。
水はすぐに顎までの水位となり、私は仕方なく飼い主の汚い体に抱かれるしかなかった。
クッソ、また眠くなってきた。
私はうっかりと飼い主の胸の中で眠ってしまった。たまに目がさめるたびに飼い主の顔を見ると彼も眠っていた。
じっーと彼の胸に抱かれていたら、私の心臓と彼の心臓がくっついているのが感じられた。
メトロノームのように同じテンポで彼と私の心臓は一緒に鼓動した。私はその時、初めて彼を近くに感じることができた。
居眠りについている彼がなぜかかわいく感じられて彼の頬を舐めてやったら眠りから目を覚まして私を抱きしめてくれる。
その時から、なんだか、彼に反抗するのが少しずつ悪いと思われてきてシャンプーをする時も、ドライをする時も大人しくしていた。
彼はしょっちゅう私のことを褒めて餌を与えてくれる。まだお腹を見せることはできないが、それなりにいい飼い主ができたと思い始めた近頃である。
ところで女主は違う。ご飯はクッソみたいに少しだけくれるし、終日ダメ、ダメ、ダメばかり繰り返し言うし、お手、お手、お手と私をしつけようとする。
そして今日は、本当にプライドが傷つくことがあった。
飼い主たち家は2階建ての家で、2階に行く木製の階段がある。
女主はまだ足が短い私にずっと階段を上る訓練をさせる。
一段に一粒ずつ餌を置いて私を誘惑する。しかし、誘惑されないすべがない。
先に述べたが、私は食い意地で存在するからである。
短い足で階段を一段上るごとに甘くて甘い餌が一粒ずつ舌を浸し、同時に身体的な欠点でからかわれているようで不快だった。
お前たち人権があるように私たちには犬権がある。人種差別がイヤなら犬種差別もするなよこの猿どもよ、と思ったが、目の前に再び現れた餌一粒に
ああ、逃れることができない、と思いながら、すべての階段を上りきった。
ところでクッソ、なぜ降りる時は餌くれないんだ、おい。お前らは退職金もらうためにあれだけデモをして騒いでるくせしてなぜ私には精算してくれないのだ。
だから、私は降りるのを拒否した。
実は怖くて降りられない。
いいさ、認めてやる。
私は犬だ。名前はギョウル。
私は君たちが好きだ。ワンワン。
作家:キム・シウ (김시우)