振戦は、パーキンソン病のみならず、多くの病態でみられる症状です。
鍼灸臨床は、高齢者を対象とすることが多いため、振戦がみられる患者に遭遇することが考えられます。そのため、振戦がどの疾患によって起っているのか鑑別することが重要です。

 振戦を起こす代表的な原因として、

1.パーキンソン病
2.甲状腺機能亢進症
3.肝性脳症
4.本態性振戦
5.小脳疾患
6.生理学的振戦(疲労・緊張性)が挙げられます。

 次に、これらの鑑別方法は、

(1)振戦が出現または増悪する姿勢は何か?
(2)振戦に左右差があるか?
(3)振戦を自分で止めることができるか?
(4)経過とともに悪化するか?

(1)振戦が出現する姿勢は、安静時振戦、姿勢時振戦、動作時振戦、企図振戦の4つに分類できます。

 ①安静時振戦:精神的な安静ではなく、随意的な筋収縮を起こさない状態で出現する振戦

→パーキンソン病が疑われます。
(左右で振るえの大きさに差があれば、パーキンソン病である可能性が高くなります。)

 ②姿勢時振戦:安静時にはみられず、上肢を90°前方に挙上するなど、随意的に筋収縮したときにみられる振戦

→甲状腺機能亢進症や肝性脳症(肝機能の低下により、血中アンモニアが増加した状態であり、羽ばたき振戦が特徴的です)が疑われます。
羽ばたき振戦は、手首を伸展させたときにみられます。
 また、姿勢時振戦として、疲労で生じる生理学的な振戦もみられます。

  ③動作時振戦

→本態性振戦が疑われます。また、本態性振戦は姿勢時振戦もみられます。したがって、姿勢時振戦があり、甲状腺や肝機能が正常であるならば、本態性振戦が疑われます。

 ④企図振戦:ボタンを押したり、患者に患者自身の鼻→相手の指(指の位置は固定せず、1回ずつ移動させる)→患者自身の鼻をタッチさせるテスト(N-F-Nテスト)など、対象物に近づく動作を行うときに発現する振戦です。

→脳卒中や多発性硬化症、脊髄小脳変性症でみられます。また、アルコール依存症や鎮静薬や抗けいれん薬の過剰投与でも、小脳の機能低下をもたらし、企図振戦がみられます。

  このように、振戦の出現する姿勢で大まかに原因を特定することが可能です。

(2)振戦に左右差がある場合は、パーキンソン病や小脳疾患である可能性が高くなります。

(3)軽度のパーキンソン病患者は振戦を随意収縮を行うことにより止めることができます。反対に、本態性振戦では、振戦を止めようと意識すると振戦が増悪します。

(4)経過とともに悪化が見られる場合は、パーキンソン病や脊髄小脳変性症などの変性疾患であることが多いです。

 以上のように、振戦はパーキンソン病以外の疾患でもみられます。振戦のタイプから原因疾患を絞り、振戦以外の神経症状や内科的症状の特徴から鑑別することが必要です。