[扁桃炎が腎臓病の引き金に!?]
(家庭の医学 2016年10月27日)
<扁桃摘出手術で予防も検討>
のどが腫れて痛み、発熱をともなう病気としてよく知られる扁桃炎。
この身近な病気が、腎臓病(IgA腎症)の引き金になるケースがあります。
放っておくと腎不全に進行し、人工透析を余儀なくされることも。
「扁桃炎にかかったら、念のため尿検査」を心がけ、重症化する前に治療に
努めることが大切。
扁桃炎が腎症を引き起こす仕組み、また治療法とは?
IgA腎症は腎臓病のひとつ。
慢性腎炎のなかでも慢性糸球体腎炎の一種です。
近年、日本人の慢性糸球体腎炎患者は増加傾向にありますが、なかでも
IgA腎症はもっとも多い疾患で、国の難病にも指定されています。
腎臓の主な役割は、心臓から送られてきた血液に含まれる余分な水分や
老廃物を濾過して仕分け、不必要なものを尿にすること。
このときに、フィルターのような機能を担う器官が糸球体という毛細血管の
かたまりです。
糸球体腎炎では、糸球体がなんらかの原因で機能しなくなり、フィルターと
しての役割を果たせない状態になります。
そのため、進行すると尿が濁ったり(たんぱく尿)、血尿が出たり、むくみが
生じたりしますが、初期ではほとんど自覚症状がありません。
IgA腎症は、腎臓の糸球体にIgAという物質が付着することによって発症
します。
いわば、この物質によってフィルターが目詰まりしてしまう状態です。
IgAが付着した糸球体は炎症を起こし、徐々に破壊されてしまいます。
一度壊れた糸球体は元にもどすことができません。
IgAは「免疫グロブリンA」の略称で、この物質はのど、気管支、腸などの
粘膜に壁を作って外敵から守る役目をします。
しかし、IgAの守りが弱いと、粘膜に感染した病原体の一部がIgAと一緒に
なって剥がれ落ち、免疫複合体という物質に変化して血液中に入り、やがて
腎臓に流れ着きます。
腎臓のフィルター(糸球体)に引っかかったIgAが少しずつ溜まり、
2~3カ月かけてじわじわと組織を破壊し、炎症を起こすことで
IgA腎症になるのではないかと考えられています。
初期には自覚症状はありません。
発症のきっかけになりうる感染症で身近なものが扁桃炎です。
扁桃炎になったからといって必ずしもIgA腎症を発症するわけではありません
が、扁桃炎が長引いたり繰り返したりする場合は、念のため尿検査を受けて
おくと安心です。
扁桃炎は比較的若い世代や子どもに多く発症します。
頻繁に繰り返すうちに慢性扁桃炎となり、大人になっても続くことがあり、
場合によっては医師と相談の上、扁桃摘出手術が検討されます。
IgA腎症かどうかの確定診断には、腎生検が必要になります。
腎生検とは、腎臓の細胞組織の一部を採取して、その組織を顕微鏡で観察する
検査です。
注射針を刺して吸い出す方法、開腹手術で一部を切り取る方法などがあり
ます。
IgA腎症の治療法として代表的なものに、扁桃パルス治療があります。
これは、扁桃を摘出する手術とステロイド治療を組み合わせたもので、
糸球体で起きているIgAによる炎症を抑えます。
しかし、損なわれた糸球体そのものの機能を回復させるものではありません。
IgA腎症は発見や治療が遅れた場合には腎不全になるおそれがあり、いずれ
人工透析になるケースも少なくありません。
そうならないためにも、日ごろから感染症を防ぎ、たとえ扁桃炎でなくとも、
若いうちから定期的な健康診断や尿検査を行うようにしましょう。
(監修:目黒西口クリニック 南雲久美子院長)
http://sp.kateinoigaku.ne.jp/kiji/123992/