中学生の食べる力育成を | アクティブエイジング アンチエイジング

[中学校給食は「食べる力」低下招く 前・川崎市長が反対論唱える理由]

(2017年8月6日  J-CASTニュース)


「中学校給食は、家庭と本人の食べる力の低下をそのままにして(中略)
将来の食べる力の芽を摘み取るものです」――一通の新聞投書が、ネット上で
議論を呼んでいる。

投稿の主は、2001年~2013年にかけて神奈川県川崎市の市長を務めた、
阿部孝夫氏(73)だ。
阿部氏はいったいなぜ、中学給食に反対するのか。
そして、「食べる力」とはなんなのか。
J-CASTニュースでは、本人に話を聞いた。



<全国では90%弱の中学で導入>
「中学生の食べる力育成を」
こんなタイトルの投書が掲載されたのは、2017年4月3日付の神奈川新聞
だ。
「川崎市で中学校給食が始まり、今年中に全校で実施される予定です。
(中略)私は市長として、中学校給食に反対でした。食べる力の低下と他への
依存がここまできたのかと、憂慮します」

川崎市では長らく、中学校給食を導入していなかった。
全国での実施率が88.1%に上ることを考えれば(文部科学省、2015年度
時点)、かなり後発と言っていいだろう。
しかし2013年就任した福田紀彦市長は、看板政策として取り組み、2017
年内の完全導入に踏み切った。
先行導入した4校で市が行ったアンケートでは、生徒の78%、保護者97%が
高く評価するなど、歓迎ムードが広がる。


それに真っ向から反論するのが、前任者である阿部氏だ。
投書では、中学給食が「食べる力」の低下を助長する、との主張を、繰り返し
訴えている。
「旧長岡藩に米百俵の話があります。現在の需要を優先するか、将来への
投資を優先するかの話です。中学校給食は、家庭と本人の食べる力の低下を
そのままにして、行政が補完することによって将来の食べる力の芽を摘み取る
ものです」



<「なんだ食べる力って?」>
2017年7月、一般ユーザーが、この投書を撮影した写真をツイッターに投稿
したことで、この一文は広く注目を集めることになった。
ツイートは2000件以上拡散されたが、
「なんだ食べる力って......?」
「食べる力が何を指すのか意味不明です。給食は不要だから不要だとしか
言っていません」
など、批判的な意見が目立つ。
約400字程度の短文ということもあり、特に「食べる力」が何を指すのか
ピンと来ず、首をかしげる人が多かったようだ。
また、共働きが増えた現在、親が弁当を作ることは難しい、との意見もある。


真意を探るべく、J-CASTニュース編集部は、阿部氏本人に話を聞くことに
した。
そもそも阿部氏がこの一文を書いたのは、給食問題を論じた神奈川新聞の
社説(1月23日付朝刊)で、「『愛情弁当論』を唱えていた前市長時代は
(導入が)進まなかった」と言及されたことがきっかけだった。

だが、阿部氏は「親(特に母親)が弁当を作ってあげるべき」という愛情
弁当論には反対だという。

「私は、母親に弁当を作れと言っているのではなくて、(生徒が)自分たちの
力で食べるものを確保することが重要だと考えているのです」

「働き方改革」の旗の下、共働き家庭が増える一方で、今なお家事の負担は
女性に集中しがちだ。給食導入論もその前提に立つ。

だが阿部氏はむしろ、子どもが男女問わず、早くから自立して家事を行い、
その習慣を身に着けて成長すべきだと唱える。
そうすれば、親の負担が軽減するだけでなく、大人になってからも、女性
だけに家事を押し付けるようなこともなくなる。
その訓練の機会として、子どもが自ら弁当を作るべきだ――というのが
阿部氏の主張だ。



<一律の給食で「食育」になるのか>
現代はスーパーもコンビニも増え、ある程度下ごしらえがされた食材や、
出来合いの惣菜を買うのもそう難しくない。
「あるものから選ぶことも含め、栄養のあるものを安上がりに、おいしく
取れるよう工夫する。それは勉強よりも大切な、生きる力の基本ではないで
しょうか。14~15歳といえば、昔なら『元服』ですよね。そのくらいに
なったら、日常生活の中で自分が食べるものは自分で選択し、自分で自分を
育てていく努力が必要だと考えるのです」

どのみち、食は一生ついて回る。
十分な経験を積んでいなければ、社会に出てから、かえって不健康な食習慣に
陥りかねない。
そう考えれば、早いうちから実践を通じ、知識や自信を得るべきだ。投書に
ある「食べる力」は、こうした考えによるものだという。


また、阿部氏は、給食推進派による「食育に役立つ」という議論にも否定的
だ。
「税金を使う以上、中身にしろ食器にしろ、どうしてもお金をそうかけ
られません。どうしても安いものを選ばざるを得なくなる。それを一律
ワンパターンに押し付けることが、本当に教育になるのか。どうしても
私は割り切れないのです」


川崎市教育委員会によれば、中学校給食に伴う保護者負担は1食あたり
約320円だが、それだけで給食にかかる費用を賄えるわけではなく、相当額が
公費=税金で補われることとなる。
川崎市が導入のため、2031年度までの18年間で費やす金額は、総計
約446億円にも上る。
「本当に、市民全体がそれを負担しなければいけないのか。それだけの税金を
使う意味があるのか」と、かつて市政を預かった経験からも、阿部氏は重ねて
疑問を呈する。


「同じお金を割くのなら、食育の専門組織を作って、中学生に料理を定期的に
指導するなどして、『自分で弁当を作る』ことを運動として展開していくべき
では。もちろん今すぐ、と言われても無理で、十分な準備が欠かせません。
自治体だけでなく、国も含めて仕組み作りをしていくことが必要かもしれ
ませんね」


7月30日投開票の横浜市長選でも、その導入の是非が争点の一つとなるなど、
今なお「中学校給食」をめぐっては議論が続く。

阿部氏は、「私の意見が賛否含め、いろいろと考えるきっかけになって
くれればうれしいです」と取材を締めくくった。



http://news.livedoor.com/article/detail/13438091/