[根性や我慢ではない アスリートが「歯」を食いしばる理由]
(dot. 2015年11月20日)
オリンピック・パラリンピックのメダルの数を左右するポイントは「歯」かも
しれない。
スポーツと歯の健康状態が密接に関連していることが、日本私立歯科大学
協会のセミナーで発表された。
明海大学学長の安井利一氏は「歯科とスポーツを探求する ─健康づくりと
安全対策そしてスポーツ・パフォーマンスまで─」をテーマに講演。
同氏にスポーツと歯の関係について改めて聞いた。
東京オリンピック・パラリンピック開催という背景もあり、歯がどのように
スポーツに影響するのかを科学的な見地から探る研究が急速に進められて
いる。
「スポーツ全体の約70%の種目で、噛み合わせの善し悪しがパフォーマンスに
関わってくると考えられます。とくに、重量挙げやボート競技など、力や
バランスを重視するスポーツでは、噛み合わせによる影響が大きく見られ
ます。歯を食いしばり、力を込めることで、足や手首の筋肉が瞬間的に固定
されて大きな力が発揮できるのです。また、運動生理学から見て、うまく
噛み合わせができないと頭が動いてしまい、バランスをとるため勝手に
手足が動いてしまいます。射撃やアーチェリーなど、頭を静止させるためにも
噛み合わせは重要です」(安井氏)
歯科医師による治療、指導などにより噛み合わせを改善することで、
パフォーマンスがアップする例も見られている。
歯の健康状態がスポーツ選手のパフォーマンスに影響を及ぼすことは、以前
から経験的には知られていた。
「1986年のロス五輪までオリンピック選手に対する組織的な歯科ケアは
行われず、大会後のアンケートでは約25人の選手が、口の状態が悪くてベ
ストな力が発揮できなかったと回答しています。その翌年から特別強化指定
選手制度がスタートし、指定選手は歯科検診を受け、適切な治療やアドバイス
を受けることになりました。これ以降、歯科トラブルによるパフォーマンスの
低下は聞かれなくなりました」(安井氏)
2020年に向け、事前の歯科検診や指導とともに、大会期間中は選手村に
診療所を開設するなど、他の診療科目の医療・医学機関とも連携して取り
組んでいく計画だという。
オリンピック・パラリンピック出場までは目指さなくても、スポーツ中の
歯のケガは防止したい。
「特に多いのが前歯が折れたり欠けるケースです。これを防止するためには、
子どもの頃からマウスガードの使用をお勧めします。自分に合ったスポーツ
用具を揃えるのと同じように、自分の歯にぴったり合ったものを作るとよいで
しょう。ぜひ、かかりつけの歯科医に相談してください。」(安井氏)
もし、歯が抜けたり欠けたりした場合も、適切な処置をすれば自分の歯を再植
できる可能性があることを覚えておきたい。
「乾燥させないように、抜けたり欠けた歯を市販の専用保存液、なければ
冷たい牛乳に浸し、できるだけ早くを目指して歯科医院に持ち込んで
ください」(安井氏)
トップアスリートを目指す人はもちろん、スポーツを楽しむ人にとっても
大切な歯。
東京オリンピック・パラリンピック開催で、今後スポーツ歯学がますます
注目され、その動向には大きな期待が寄せられる。
http://dot.asahi.com/dot/2015112000035.html