[勃起障害 心筋梗塞・脳卒中の前兆にも]
(朝日新聞 2010年8月25日)
男性の更年期障害の1つともいえる勃起障害(ED)。
命にかかわるわけではない、と軽く考えている人が多いかもしれない。
ところが最近では、心筋梗塞や脳卒中など命取りになる病気を示唆する症状と
とらえる考えが広がっている。
勃起の大まかな仕組みはこうだ。
性的な刺激を受け、脳から神経を伝わって陰茎の動脈の中にNO(一酸化
窒素)が放出される。
このNOが血管を広げて、血液が流れ込み勃起が維持される。
だが、NOの放出が阻害されていたり、血流が悪くなっていたりすると勃起
しにくくなる。
EDは「性交時に十分な勃起が得られない、または維持できないために満足な
性交ができない状態」のこと。
うつやストレス、疲労などが引き金になるケースや、外傷、降圧剤や向精神薬
などを服用しているといった、原因が明確なケースがある。
知らない間に長期にわたってじわじわ進むEDもある。
こうしたEDは、加齢のためばかりとは限らない。
喫煙や高血圧、糖尿病などで動脈硬化が進んでいることも一因だ。
大阪大の辻村晃講師(泌尿器科学)はこう指摘する。
「EDの発症が、心筋梗塞や脳卒中などの発症を警告しているのです」
動脈の直径は陰茎が1~2ミリ。
心臓の冠動脈は3~4ミリ、首では5~6ミリほど。
動脈硬化などの影響は、より細い血管ほど早く出るとされる。
陰茎の血管が傷んでNOの放出がうまくいかないEDは、動脈硬化が進んでいる
証拠というわけだ。
海外の研究では、心筋梗塞などを発症した患者300人を調べたところ、その
3分の2がそれ以前にEDを自覚していたという。
辻村さんは「EDを入り口に、心疾患の検査をしたり、生活習慣を改めたり
することは非常に重要になる」と話す。
「しばしば勃起できない」という中程度以上のEDの人は、1998年の調査に
よると、国内では約1,130万人と推測された。
30代から60代の男性の約3割を占めた。
製薬会社ファイザーが2009年3~5月、インターネットで20歳以上の男性を
対象にアンケートした。
その結果、40代以上の約6割が「自分はEDかもしれないと思ったことが
ある」と回答している。
EDは誰にでも起こりうる。
とはいえ、「実際に治療を受けているのは5%ほどではないか」と東邦大の
永尾光一教授(泌尿器科学)はみる。
恥ずかしくて受診をためらったり、年齢を理由にあきらめたりするケースが
多いという。
「治療で改善は可能です。将来の重病を防ぐ意味もある。迷わずに専門医に
相談してほしい」と呼びかけている。
(木村俊介)
<相談ナビ>
自分がEDかどうか、EDならばどの程度なのか。
日本性機能学会のホームページから、5項目の質問のスコアをダウンロード
できる。
数字は点数で、合計して21点以下は軽症ながらEDという。
また、同学会は治療の専門医制度を設けている。
全国に220人。
同学会のホームページに掲載されている。
http://www.asahi.com/health/tsuushinbo/TKY201008250309.html