歯周病は死に至る病? 全身疾患との怖い関係とは? | アクティブエイジング アンチエイジング
[歯周病は死に至る病? 全身疾患との怖い関係とは?]

(日経BP  2014年02月21日)


ビジネスパーソンが注意するべき“病気”について、専門家に解説してもらう
この連載。
「歯周病」はビジネスパーソンにとって、身近な「歯の病気」です。
「たかが歯の問題だし・・・・・」と治療が後回しになりがちですが、放って
おくとどうやら歯や口以外にも影響があるようです。
つだぬまオリーブ歯科院長石川聡先生に解説してもらいます。


ビジネスパーソンのステキな笑顔を奪う歯周病は、みなさんよくご存じの
通り、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。
まず、歯と歯肉の境目(歯肉溝)が清潔に保てていないと、そこに多くの
細菌が停滞し(歯垢の蓄積)、歯肉の辺縁が「炎症」を帯びて赤くなったり、
腫れたりするようになります。
ほとんどの場合痛みはないのですが、歯周病が進行すると、歯周ポケットと
呼ばれる、歯と歯肉の境目が深くなります。
すると歯を支える土台(歯槽骨)が溶けてしまいます。
すると、歯はグラグラと動き、ひどいと抜歯・・・・・となってしまうわけ
です。

最近では口臭や、全身の老化にもつながるとして、歯周病への注意が喚起
されていますよね。

ところがもっと広範な影響を与えることが分かってきており、歯の病気なのに
全身疾患にも関係するということはご存じでしょうか?

ここでは口の中の疾患、主に歯周病と全身の関係について、解説していきます。



<Q1 口の中の病気で死ぬことはないでしょう?>
 スコットランドで行われた約1万2000人(平均年齢50歳)を対象とした
大規模調査 では、口腔衛生不良の人々に心筋梗塞や狭心症などの心血管
疾患の発生率が高い(発生率で1.7倍)という報告があります。
炎症発生の指標となるいくつかのマーカー値の上昇も認められました。
(※歯のない人々と既に心疾患のある人々は除外されています)
つまり歯のブラッシングの回数が少ない人は1.7倍心血管疾患になりやすいと
いう結果でした。
「歯の病気」はすぐに死に至ることはないと考える人が多いのが現状ですが、
日頃の不摂生から、このような数字が出てきているという事実は見逃せ
ません。



<Q2 なぜ口の中の病気が全身に影響を与えるのですか?>
歯周病を理解するために、ここで歯と歯周組織の構造を見てみましょう。
歯は、エナメル質、象牙質、セメント質という硬組織からできています。
臨床的には、歯が口腔内に露出している部分(つまり白い歯の部分)を歯冠と
いい、歯冠より下の部分を歯根といいます。

歯根は、顎骨にある歯槽骨に支えられています。
歯槽骨と歯の間に、クッションの役割を果たす歯根膜という薄い膜状の組織が
あります。
この歯根膜は、歯にかかる衝撃を受け止め、顎にかかる力を吸収・緩和する
ために、歯根部分の表面(セメント質)と歯槽骨を結びつける繊維性の結合
組織です。
つまり歯の根は歯根膜を介して顎の骨の中にあり、目に見える歯の部分は、
歯肉を貫通して口腔内に露出している状態なわけです。

そして歯周病は、この歯周組織(歯肉・歯根膜・歯槽骨・セメント質)に
炎症が起こる病気の総称です。
炎症が歯肉だけにある状態は「歯肉炎」、炎症が歯肉から歯槽骨や歯根膜に
まで広がった状態を「歯周炎」といいます。

歯根の表面積の合計は約72平方センチメートルといわれており、歯根と
歯根膜の間には歯周ポケットと呼ばれる溝があります。
口腔内のメンテナンスがしっかりしていないと、歯周病にかかってしまい
ます。
仮に、総ての歯が歯周病に罹患していたとしましょう。
この場合、歯周病中期でも、歯根の表面積の半分にあたる約36平方センチ
メートルが、炎症性の組織になっていると考えられます。
正方形に換算すると、6センチメートル四方の潰瘍(手のひらぐらいの
大きさ)があることになります。
これはなかなか大きな炎症ですよね。

しかも、細菌である歯周病菌は、腫れた歯肉から容易に血管内に侵入しできて
しまいます。
歯肉や骨の血管を通して、細菌が全身を巡ってしまうわけです。
さらに歯周病は慢性疾患なので、治癒しない限りその状態が持続します。
口の中の組織も含め、体の末端まで血液は全身を循環しているので、たとえ
歯周組織の炎症であっても全身に影響を与えるというのはこのためなのです。



<Q3 心血管疾患と歯周病は関係あるのですか?>
歯と心臓にどんな関係が・・・・・と思う人がほとんどなのではないでしょう
か?
でも、歯が痛いと仕事に集中できなかったり、かみ合わせが悪ければ肩が凝る
など、症状は確実に出てきますよね。
こうした分かりやすいもの以外に、静かに進行する病気にも、歯周病は関係
してきます。

例えば心臓血管疾患。
これは、症状がないまま病状が進行して、症状が現れたときには重症となり、
時には死に至る大変危険な病気として知られています。
その症状の1つである動脈硬化や血栓の原因となる、血管内壁の堆積物の中や
腹部大動脈瘤から、歯周病菌のDNAが検出されているのです。
血栓は脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしますから、ひいては死に至る病気となり
得ます。

また閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)と呼ばれる病気は末梢の血管が
閉塞し、時には四肢の切断に至る場合もあります。
この閉塞部からも、高い確率で歯周病菌が検出されています。
現在、疫学的に見られる両者の強い関連と、原因部位から歯周病細菌のDNAが
検出されていることから、歯周病との関連が研究され、予防と治療に役立て
ようという動きが広がっています。

もう少し身近な例も挙げておきましょう。
歯のクリーニングや治療、抜歯などを行うと一時的に血管内へ細菌が侵入し
菌血症という状態になります。
健康な人では細菌はすぐに白血球に食べられてしまうので特に問題はありま
せんが、それでも3日間は献血ができないルールになっています(日本
赤十字)。
また、心疾患をお持ちの方は歯の治療の前に感染性心内膜炎のリスクを避ける
ために抗生物質を飲んでおく必要があります。




正しいブラッシング、歯間ブラシやデンタルフロスを行うことは、歯周病の
治療にも予防にもなります。
全身の健康を守るためにも、口の中の健康を守りましょう。





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