[高齢者にもがん検診が勧められない場合もある]
(朝日新聞 2013年11月22日)(酒井健司先生)
一般的には、がんは早期発見して早期治療したほうがいいと言われています。
しかし、いつでもそうとは限りません。
前回は、若い人の一律の乳がん検診は必ずしも推奨されないという話をしま
した。
若い人の乳がんは少ないため、検診によって偽陽性が多くなり、不必要な
検査が増えるのが主な理由です。
逆に、高齢者のがん検診が勧められないことがあります。
前立腺がんは血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測ることで、比較的容易に
早期発見することができます。
若い人の乳がんとは違って高齢者の前立腺がんは多く、PSAを測れば症状の
ない早期の前立腺がん患者をたくさん見つけることができるでしょう。
しかし、高齢者の場合、早期発見が必ずしも患者さんの利益になるとは限りま
せん。
前立腺がんは、進行がゆっくりしたものが多いとされています。
前立腺がん以外の原因で死亡した人を病理解剖すると、数十%に前立腺がんが
見つかるという報告があります。
そういう人たちは、前立腺がんがあっても死因にはならず、症状もなかったの
です。
アメリカがん協会は、余命が10年以下と予測されている症状のない男性には
PSAによる前立腺がん検診を行うべきではない、としています。
前立腺がん検診で高齢者の前立腺がんを早期に発見したとして、その前立腺
がんは治療せずに放っておいても進行はゆっくりで、放っておいても症状が
出ないものかもしれません。
そういう前立腺がんに対して治療をすると過剰治療となってしまいます。
前立腺がんを見つけても治療はせずに経過を見ればいいという考え方もあり
ます。
とはいえ、がんがあると言われて平静を保てる患者さんはどれほどいるで
しょうか。
患者さんを不安にさせるだけで治療につながらないなら、がん検診をする意
義は乏しいと考えます。
余命が十分にある場合でも前立腺がん検診を行うべきかどうかは議論がある
ところです。
日本でも厚生労働省が推進しているがん検診(胃がん検診、子宮がん検診、
肺がん検診、乳がん検診、大腸がん検診)のなかに前立腺がん検診は含まれて
いない一方で、日本泌尿器科学会は推進の立場をとっています。
いずれにせよ、前立腺がん検診を受けるならば、メリット・デメリットを
きちんと理解した上で受けるべきでしょう。
http://apital.asahi.com/article/sakai/2013112200006.html