[ミトコンドリア力に脚光 活性化が「若返り」の鍵 ]
(産経新聞 2010年11月9日)
生物の授業で習うミトコンドリア。
主に「エネルギーの製造工場」としての役割を担うが、そのほかの多様な
機能が注目されている。
「ミトコンドリア学」の専門家によって、認知症やアンチエイジング、
若返りと深くかかわることが分かってきた。
ただし、電子顕微鏡で確認するような微細な器官。
「その量が少ない」と言われても実感がない。
ミトコンドリアと賢くつきあう方法は?
(日出間和貴)
<生活習慣が重要>
ミトコンドリアは細胞全体の10~20%を占め、約1万分の1ミリの大きさ。
人体に必要なエネルギーを生み出し、病気や新陳代謝、老化、若返りとの因果
関係が指摘されている。
「認知症の人の脳を調べると、健康な人に比べてミトコンドリアの量が
少ない。糖尿病はミトコンドリアの不調から始まり、パーキンソン病は機能が
失われたことが原因。ミトコンドリアを研究してきて、ここまで発展するとは
予想できなかった」
日本医科大の太田成男教授は、30年以上もミトコンドリアと“対話”を重ねて
きた。
近著『体が若くなる技術』(サンマーク出版)で、その知られざる可能性を
紹介している。
ミトコンドリアに働きかけ、いかに仕事をさせるかが若さ維持の第1歩。
その極意は生活習慣にあるという。
(1)持久力系の運動
(2)背筋を伸ばし、良い姿勢を保つ
(3)寒いところで寒さを感じる
(4)空腹を感じてエネルギーの枯渇状態をつくる
の実践を勧める。
いずれも習慣として取り入れることが大切だ。
例えば、急な運動をすると、最初は息が切れるが続けるうちに息切れの頻度が
減少する。
その変化がミトコンドリアの増加を実感できる瞬間だ。
「強めの負荷に体が慣れ、細胞が若返っていく」と太田教授。
一方、英国で2年前に発表された一卵性双生児を対象にした調査。
同じ遺伝子を持った双生児でも、運動習慣によって老化の進み具合が違う
ことが分かった。
週に3時間以上運動する双子は、週に15分以下しか運動しない双子に比べて
老化の進行が遅かった。
運動がミトコンドリアを活性化、老化スピードを遅らせていたことが証明
された。
<年齢問わず増加>
「ミトコンドリアは若さの源泉」
慶応大の伊藤裕教授は近著『臓器は若返る』(朝日新書)で「ミトコンドリア
が全身の臓器に供給するエネルギーが潤沢であればあるほど、われわれは
健康に長生きができる」と指摘する。
現代人が老いを見つめるとき、外見や運動能力にとらわれがちだ。
しかし、ミトコンドリアの存在を知ると、若さの鍵は「体の内部」にある
ことが分かる。
太田教授は「好奇心を忘れずに、人生を前向きにとらえる心が質の高い
ミトコンドリアを生み出す。ミトコンドリアは年齢を問わず増える」と強調
する。
<活性酸素の増加にご用心>
ミトコンドリアがエネルギーを生み出す過程で発生する活性酸素は老化の
原因といわれる。
ミトコンドリアの増加は歓迎されても、強い酸化力で遺伝子を傷つける活性
酸素の発生は避けたい。
両者はやっかいな関係にあるが、ミトコンドリアの機能を高めて、その
パワーを増大させることによって活性酸素が発生しにくくなるという。
【用語解説】ミトコンドリア
細胞の1つ1つに存在する器官で、生きていくためのエネルギーを作り出す。
中には数千個のミトコンドリアを宿す細胞もある。
細胞内では古くなったミトコンドリアを新しいものに入れ替える作業が
行われ、その機能の低下が老化を引き起こすといわれる。
http://sankei.jp.msn.com/life/body/101109/bdy1011090802002-n1.htm