毎日新聞より
クルマ高齢社会:脳トレで認知力改善 川島教授ら実験、
自動車業界が教材に
自動車メーカーで作る「日本自動車工業会」が高齢ドライバー
向けに、交通安全教育の教材作りに取り組んでいる。
教材作成のため、高齢ドライバーに脳機能と運転能力を組み
合わせたトレーニングを実施したところ、脳機能の改善に効果が
あることが分かった。
軽度の認知機能の低下があったドライバーが正常に戻ったケース
もあり、対象の増加が懸念されている認知症ドライバー対策に
つながりそうだ。【板垣博之】
<200人対象に訓練>
同会が教材作りに乗り出したのは04年。
「脳トレ」でおなじみの川島隆太・東北大教授ら専門家8人で
高齢者交通安全教育推進委員会(委員長、鈴木春男・自由学園
最高学部長)を作り、05年10月から今年6月まで宮城、千葉県、
東京都内で計約200人を対象にトレーニングの実験を重ねた。
メニューは、
(1)ビデオや写真で危険を予測
(2)自分や他人の運転中のビデオを見て危険を確かめる
ミラーリング
(3)運転をテーマにした話し合い
(4)運転中にヒヤリとした場所に印を付けるヒヤリ地図作り
(5)文章の音読や数の計算などの脳機能トレーニング
の5種類だ。
川島教授らは仙台市と宮城県塩釜市の高齢ドライバー55人を
対象にトレーニング効果を調べた。
55人のうち26人は毎回1時間~1時間半、5カ月間(05年
10月~06年2月)にわたり、脳機能や危険予測、ミラーリング
などのトレーニングを計18回実施。
残る29人はトレーニングをしなかった。
両者を比較した結果、トレーニングを受けた人で軽度の認知
機能低下があった9人のうち、8人はトレーニング後に認知
機能が改善し、6人は正常値に戻った。
一方、トレーニングをしなかった人で軽度の認知機能の低下が
あった4人のうち、3人はさらに認知機能が低下した。
また、一時停止や信号の確認などがきちんとできる安全運
転能力を自動車教習所の指導員がチェックした結果、トレー
ニング前は平均2.7点(5段階評価)だったのが、3.7点に上昇
した。
種類別でも、安全確認で2.5点から3.8点、ウインカーなどの
合図で2.9点から3.5点、速度で2.6点から3.7点へそれぞれ
アップした。
[参加型講習も効果--安全運転、能力向上に手応え]
<討論で危険認識>
運転中のビデオや写真を使い、どこに危険があるかを話し合う
トレーニングも効果が見られた。
「タクシーの横からバイクが出てくるのでは」
「歩行者が横断歩道を渡るかもしれない」
「タクシーが止まったように見えるが、直進してくる」……。
5月中旬、千葉県流山市内で行われたトレーニングでは、運転席
から見た3枚の写真を見ながら、高齢ドライバーが4~5人
ずつ3班に分かれて意見を出し合った。
参加者の反応も好評だった。
「他人の話を聞くことで互いに気づきがある」
「今まで見えなかった危険が見えるようになった」
「普段の運転で気をつけるようになった」
などの声が寄せられた。
<自分を客観評価>
高齢ドライバー問題に詳しい鈴木委員長は、トレーニングに
ついて、「脳機能の改善とともに自分の運転能力を過大評価
しなくなるという成果として表れている。高齢ドライバーが
認知症にならないための予防策として活用できると思う」と
説明。
「高齢者は自分を正当化する傾向が高く、自分の運転の問題点
に気づかない。皆で集まり、コミュニケーションを深める場が
あると、相手の立場で考えるようになる。お互いの運転を見て
感想を言い合うことも有効だ」と手応えを感じている。
自工会は、トレーニングの実験結果をもとに、約20種類の教材を
来年3月までに作成する予定。
委員会メンバーの溝端光雄・東京都老人総合研究所研究副部長は
「これまでの高齢ドライバーの教育は講話が中心で、高齢者
自らが参加できるような教材はほとんどなかった。地域の老人
クラブなどで簡単に使える教材が必要」と話している。
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65歳以上の認知症ドライバーは約30万人と推計され、警察庁
は、道路交通法を改正し、75歳以上を対象に認知機能検査を
実施して免許を取り消す制度を09年度までに導入する。
しかし、実際に取り消し対象となるのは、ごく一部とみられ、
高齢ドライバーへの交通安全教育が課題となっている。
毎日新聞 2007年8月21日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/wadai/news/20070821ddm013100030000c.html