良い船長に恵まれて、ここ数年は大型のアラを食べれる機会に恵まれています。特に大型になればなるほど美味しいと言われるこの幻の魚、毎回非常に楽しく頂いています。

アラは大型ほど美味いか?
時々、釣りに詳しいと言われる方や船長さんなどが『アラは大きい程美味しいというが、それは違う。4〜5キロくらいが一番美味い』と仰っているのを耳にします。美味しいという感覚はとても主観的で、かつ抽象的な表現なので『どれが一番』という絶対評価は出来ないところですが、旨味を
1.脂乗り
2.食感
3.甘み
で分解して表現してみます。

1.脂乗り
まず、脂乗りは言うまでもなく個体差が大きいです。つまり『大きいほど脂乗りは良い』は正しくありません。正確には『産卵場まで乗っ込んできたが、まだ抱卵前の個体』が最も脂が乗ります。卵を抱いてしまうと、確実に脂乗りが落ちてしまうのです。精巣も同じです。船に上がった時に『お腹がでっぷりしてる』個体は、割と抱卵している個体が多いので、脂乗りへの期待は少なくなると感じています。正確にはお腹を開けてみて、卵巣や精巣が未成熟の個体であれば、脂乗りは非常に期待できます。個体が大きいほど多くのベイトを捕食していますので太りやすく、その意味では大型ほど脂乗りは良くなりやすいため『大型の個体で、かつ抱卵前の個体』が最も脂乗りが良い個体、が正確な表現ではないでしょうか。
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2015年7月15日に新潟間瀬で釣った11.1キロのアラ。見ての通り抱卵していて、期待にそぐわず脂乗りにかけていました。

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解体時に計測した結果、卵だけで2キロを超えていました

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2015年7月31日、10.5キロ個体の皮目。抱卵前だった為、脂乗りが凄まじく、例えるなら豚の豚トロの様な脂量でした。


2.食感
大型の個体ほど、筋の多い(強い)個体が多いのは間違いありません。その意味では一般的に魚自体、大型は筋を評価に含めた食感では優れないと言えます。しかし、それは生食のみを考えた場合です。多少加熱すれば、筋は旨味を伴う食感に寄与します。したがって『煮る』『焼く』に『タタキ』を含む加熱調理では、むしろ大型に軍配が上がります。また、生食でも部位によって筋が含まれにくい部位もありますし、そもそも私が頂いてきた10キロ前後の個体4本では、いずれも『筋張って生食では食べにくい』という事はありませんでした。むしろ今回釣らせて頂いた5キロの個体の方が筋は多く、刺身にして食べにくかった印象がありますので、総じて、少なくとも『5キロ前後が一番美味い』は正しい表現ではありません。

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2015年7月31日に新潟間瀬で釣った10.5キロ。部位によっては少し筋が多い所もありましたが、薄造りにすれば全く気にならないレベルでした。また、2016年8月1日に釣った5.2キロはこれ以上に筋が多かった

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少し加熱すれば、筋はむしろ旨みに変わります


3.身の甘み
これはかなり主観を伴う表現なので難しいのですが、上記の『食感』とも関連するお話かと思います。甘み、食感は身の熟成度でかなり差が出ます。つまり、釣った当日のアラ(に限らずほとんどの魚)は硬く、甘みに不足している印象を受けます。干物もそうですが、魚は熟成される過程で微生物等によりタンパク質が旨み成分のアミノ酸に変わります。腐敗との線引きが難しいところですが、熟成された肉は腐敗臭とは異なる独特の『魚の香り』を纏います。それも、ある一定期間を超えるとどんな環境でも最終的には腐敗に向かいますので、タイミングも重要になります。私が以前に記述した手塚拓海式エイジング法では、おおよそ20〜45日の熟成が可能です。それでも、ベストだと思える熟成期間は個人や魚種、調理法によって異なります。生食であれば5〜10日以内が癖がなく美味しく感じるはずですし、加熱調理なら30〜40日で最高のタイミングになるように感じます。とは言え、このあたりはまだ感覚的なものですので、確実にこうだ、と論じるにはまだ検証が足りません。しかしながら『魚の甘み』という点では、最適な方法と環境下で寝かせた個体が最も評価が高くなる、と言うのは間違いない事です。その際、小型の個体は肉全体に対して酸素や微生物との接触面が大きくなりすぎますので、結果的に熟成に不向きになりますので、肉本来が持つ旨み成分を引き出せずに腐敗する可能性が高まりますので、『大型個体ほど熟成に適している』と考えられます。

以上の事から、アラは『3〜5キロくらいが一番美味い』は不正確な発言です。総じて『アラは大きいほど美味い』ただし『抱卵前の個体で、数日程度適切に寝かせた個体がより美味い』と付け加えるのが適切でしょうか。

本当はアラのオススメ調理法を紹介しようと思って筆をとったのですが、思ったより長文になってしまったので、またそれは次の機会に。
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ご紹介する予定のアラの調理法は、我が手塚家で最も人気が高い『タタキ』です。