ー壱ー



学校の教室。


昼下がりの暖かい時刻。

窓からは心地よい風が入ってくる。

隣の席の日野が、机に突っ伏して昼寝をしている雪を起こそうとする。


日野「…雪!…雪!」


雪「…んー…?」


先生「俺の授業で堂々と昼寝出きる程、月咲…お前の成績はそんなに良かったか?」


目の前に先生の覗き込む顔が現れる。


雪「わっ!…い…いえ…」


 ―間―


―キーンコーンカーンコーン


授業の終わりを示す鐘が鳴った。

「じゃあ、明日~」などと言う声がそこかしこに聞こえる。


日野「雪~、塚先生の授業で寝るなんて大胆な事をしたねぇ~」


雪「あれは…寝ようと思って寝た訳じゃないんだよ…最近寝不足で…」


日野「なに?彼氏でもできた??」


雪「18年間、彼氏居ない私に言う台詞~?」


日野「そうでした、すみません。んじゃ、何か悩み事?」


雪「寝不足なのが悩み事」


日野「じゃあ解決は簡単!寝不足を気にしない、これ一番!」


雪「それが一番難しいんだよ」


日野「悪い夢でも見た?」


雪「覚えてないし、眠れた時の目覚めの気分は最悪」


日野「覚えてないのに、目覚めは最悪?」


雪「うん」


日野「変なの~」


雪「だから、悩み事」


雪(モノ)「覚えてない…けど…一瞬だけ見えたもの…血に染まった自分の身体…忘れようとしても忘れられない光景…」


日野「雪…?」


雪「帰ろ」


日野「う、うん」


 ―間―


雪(モノ)「その日の夜。熱帯夜で熱さに悶えながらも眠ろうと思った瞬間頭の中を過ぎった。その後も寝ようとするとあの悪夢の光景が過ぎり、寝付いたのは何時だったのか覚えていない。浅い眠りの中で見たのは、私は血に染まった重苦しい身体で夜の街並みをままならない足取りで歩いていた。側にいたのは…誰だかわからなかったけれど…誰か居た。心配そうに私を見ながら…」


 ―間―


学校の体育館。

キュキュッとスパイクの音が響く。

それと同時にドンドンッというバスケットボールが床を跳ねる音と

生徒達の「こっちー!」「パスパスー!」という声がする。


日野「雪…大丈夫?」


雪「う…う~ん…大丈夫じゃ…ないかもー」


日野「また眠れなかったの?」


雪「いや、眠れたんだけど…ね」


三浦「月咲!」


―ドンッ


バスケットボールは見事に雪の顔面に直撃した。

雪は尻餅をついて倒れた。


三浦「ご、ごめん!大丈夫か!?月咲!」


雪「三浦…っわざと私の顔面狙ったでしょ!??」


三浦「そんな事する訳ないだろ!?大体、お前がちゃんとパスを受け取れば当たらなかったんだ。ってか、本当に大丈夫か?」


雪「大丈夫だって言ってるでしょ!?」


自分で立とうとする雪だが、フラッと倒れてしまう。


三浦「大丈夫じゃないだろ。保健室行くぞ」


雪「え?」


三浦は雪をお姫様抱っこをする。

雪はジタバタしながら三浦に罵声を浴びせるが、三浦は体育館を去る。


日野「あらあら、三浦も大胆の事するねぇ~」


 ―間―


保健室。

ベッドに横たわる雪。


三浦「しばらく休んでおけ。先生には俺から言っておくから」


雪「…うん。三浦…実は優しかったんだね」


三浦「は?」



雪「だって、いつも私に突っかかってくるから」


三浦「それは…お前がアホだからだ」


雪「入学してから3年間ずっと同じクラスなのに、三浦の口から私を褒めた言葉を聞いた事がない」


三浦「それはお前は馬鹿だからだ」


雪「アホと馬鹿はどう違うの」


三浦「…とにかく、お前はそういう奴なんだよ」


雪「前言撤回」


三浦「正解だな。俺はお前に対して優しくねーし。ここに連れてきたのだって、お前が居ると足手まといだからな、これで心置きなくバスケやれるっていうもんだ」


雪「…もうすぐ授業終わるけど?」


三浦「…覚えておけ…」


雪「保障はしないけど、努力はしてみるよ」


三浦は保健室のドアに手を掛けるが、立ち止まって。


三浦「…ちゃんと寝ろよ」


―ガラガラガラ


雪「…もう…あいつが考えてる事、さっぱりわかんない…」


そのまますぅと眠ってしまう。


 ―間―


熱く燃える真っ赤な炎が、あたり一面覆いつくしていた。

その中で刀を操り、逃げようとする相手を容赦なく斬る。

血に染まる身体。

ピシャリ…ピシャリと血の池の上を歩き


ノイズ交じりの男の声。


男「しん…ぐ……うあぁあああ!!」


立ち向かおうとしていきた男の叫び声を掻っ切る。


―ビシャァ


雪「…うわぁああ!!!」


保健室のベッドの上で、雪は飛び起きた。


雪「…なんで私人を斬る夢ばかり見るの…?もういや…!」