<つづき>

僕は、友人5人とイングランドのユニフォームを着込み、顔にペイントして大きな旗を持ち、ウエンブリー行きの電車に乗り込んだ。

駅では、もう、イングランドの応援歌が始まっていた。

途中で、多くの人にスタジアムへ行くことをうらやましがられ、応援された。

スタジアムに向かうドイツ人の団体に会ったときは、“You have wrong uniform”(おまえ、間違った服着とるぞ)と笑いながら言われた。

目が笑っていなかった…

スタジアムにつくとすごい人だった。みんな興奮していた。

「←Wembly stadium」という看板の下に、それより大きな字で、NO GERMAN(ドイツ人お断り)と落書きしてあった。

空には、ヘリコプターが飛び回り(後で知ったのだが、テレビ局の企画でユリ・ゲラーが乗り込んで空からイングランド勝利のための念力を送り続けていたらしい)、スタジアムの前には馬に乗った警官隊が目を光らせ、スタジアムの前を通りかかった車は皆クラクションを鳴らして通り過ぎた。

初めて見るウェンブリースタジアムは、OASISの曲が大音量で流れ、8万人の熱気で揺れていた。

スタジアムをぐるりと取り囲む人人人。

さらにチケットにかかれていた席についてみて驚いた。

ROW4というのは一番前だったのだ。前の三列がつぶしてあり、ネットを張って進入防止用となっていた。

しかも、センターラインすぐ脇だった。

しばらくして、イングランド代表がアップを始めた。

シアラーとファーディナンドのツートップ。

ガスコインとマクマナマンとインス。

ピアスにアダムスにキーパーのシーマン。

まだ11人全員の名前も言えない程度だったが、これだけは知っていた。

そしてもう1人、ピッチの上で知っている選手を見かけた。

ロビー・ファウラー。
控えFWだが、リバプールでの活躍ぶりに惚れ込んでいた僕は、彼の投入を心待ちにしていた。

ドイツ代表も現れた。こちらはほとんど知らなかった。

嘘みたいな話だが、リベロのザマーも知らなかった。

当時、知っていたドイツ代表選手はクリンスマンだけだったが、この試合は怪我のためベンチにいた。

もう1人、勝手にジィーガーと呼んでいた17番の選手には注目していた。

テレビで見ていて、すごいと思っていたからだ。

後になって、彼の名はクリスチャン・ツィーゲであり、ACミランに引き抜かれるほどの実力の持ち主であることを知るのだが。

空から、両国の国旗を持ったパラグライダーが降りてきた。

派手なセレモニーだ。

ドイツの国旗の方が着地に失敗してこけて、大いにスタジアムが沸いた。

たぶんパフォーマーはどちらもイギリス人だったのだろう。

絶対にわざと、やったのだった。

なんせ、スタジアム8万人のうち7万8千人はイングランドサポーター。

片隅の方に少しだけ、ドイツ人サポーターがいて、その周りを三重に警備隊が囲んでいた。

国歌が始まった。

七万八千人で歌う、GOD SAVE THE QUEEN

最高だった。

<つづく>