面白がること、ふざけること | 介護のとしごろ

面白がること、ふざけること

佐藤愛子氏の心に響く言葉より…

 

 

友達の中には私が年中、物を盗まれたり騙(だま)されたりしているのを見て心配し、真剣にお説教をしてくれる人がいる。

 

しかし私はどんな同情や説教よりも「ただ面白がる」遠藤(周作)さんによって慰められる。

 

「今度からオレに相談せえ」

 

と遠藤さんはいい、私は「うん」というが、相談してもその通りにしたことがない。

 

多分、私につける薬はないのである。

 

どんな薬を持ってきても私には効かないのだ。

 

遠藤さんにはそれがわかっているのだろう。

 

薬が効かないとなれば、病人の手をただ握ってやるしかない。

 

遠藤さんはその握り方を心得ている人なのだ。

 

これで狐狸庵(こりあん)流のデタラメさえいわなければ、彼は最高の人物なのであるが…。

 

《淑女失格「私の履歴書」》

 

 

 

6年前、私の娘の結婚が決まり、その披露宴での祝辞を私は遠藤(周作)さんに頼んだ。

 

娘の嫁ぎ先は実業畑の真面目で常識的な人たちが揃っているから、祝辞は自然真面目でしかも長々しいものになった。

 

宴席に料理が運ばれ、それを食べながらスピーチを聞くのであるから、あまり長いと皿の音やら私語やらでザワザワしてくる。

 

そこで私は末席からメインテーブルの遠藤さんにメッセージを送った。

 

…つまらんから面白うしてちょうだい。

 

 

すると遠藤さんから返事がきた。

 

「ナンボ出す?」

 

 

そのうち遠藤さんの祝辞の番がきて、遠藤さんはマイクの前に立った。

 

そしていきなり大声で叫んだ。

 

「みんな、メシを食ってはいかん!」

 

一座はびっくりしてシーンとなる。

 

その途端に傍らのテーブルから北杜夫さんがいった。

 

「酒は?」

 

「酒は飲んでよろしい…」

 

わーっと笑い声が上がって私は嬉しくなった。

 

 

「小説を書く人間はみな、おかしな人であります」

 

遠藤さんのスピーチはそんなふうに始まった。

 

「ここにいる北杜夫もおかしいし、河野多恵子さんも中山あい子さんもみなおかしい。

 

その中でも一番おかしいのは今日の花嫁の母、佐藤愛子さんであります。

 

杉山さん(婿さんの姓)。

 

これからこの人をお母さんと呼ぶのは大変ですぞ」

 

人が笑う。

 

しかし遠藤さんはニコリともせずにつづけた。

 

 

「私は昔、中学生であった頃、電車でよく会う女学生であった佐藤愛子に憧れ、何とかして彼女の関心を惹(ひ)こうとして、電車の吊り革にぶら下がって猿の真似をしました。

そしてバカにされたのであります…」

 

例によって例のごときデタラメである。

 

「今思うと私はなんというオロカ者であったか、あんな猿の真似をしたりしなければ、今日はこの披露宴の父親の席に座っていたと思いますが…」

 

爆笑の中で遠藤さんはいった。

 

 

「最後に私から花婿にお願いがあります。

 

どうか佐藤愛子さんを、この厄介な人をよろしくお頼みもうします…」

 

普通ならばこういう時は「愛子さんの大事な一人娘をよろしく」というところだ。

 

おふくろをよろしく、というのは聞いたことがない。

 

私はジーンときた。

 

遠藤さんはやっぱり私のことを心配してくれていたのだ。

 

それがはっきりわかった。

 

だがその後、遠藤さんは手洗いに立ち、末席の私の傍らを通りながら、

 

「おい、7千円やそ、7千円…」

 

といって出ていった。

 

ジーンんときていた私は忽(たちま)ち我に返って、

 

7千円は高い…」

 

と早速いい返したのであった。

 

《不敵雑記たしなみなし》

 

 

『人間の煩悩』幻冬舎新書

 

 

 

 

 

小林正観さんはこう語る。

 

「神様は…

 

面白がる人には、どんどん面白いこと

 

楽しがる人には、どんどん楽しいこと

 

幸せがる人には、どんどん幸せなこと

 

を、くださるみたいなのです。

 

さらに、さらに重要なこと。

 

感謝する人には、感謝したくなるような現象を、次々に降らせるみたいだ。」

 

 

 

面白がること、ふざけることこそ、人生に明るさや元気さをもたらしてくれるものはない。

 

それは子供心を呼び覚ますことであり、そして、それこそが人間の幅や深さと言う余裕の源泉となる。

 

 

面白がる人には、どんどん面白いことがやってくる。

 

楽しがる人には、どんどん楽しいことがやってくる。

 

 

人生を面白がったり、時にふざけて生きることができたら最高だ。

 

 

 

「人の心に灯をともす」より

 

 

…と書かれていました。