ガキさんイベント補完mission中♪
と、いいつつ、ガキさんはしばらく、出てきません。
3月までの間を、少しだけ。
自分設定ですので、ご了承いただける方のみ、先をどうぞ 笑

***************ペルソナ3 for プレイステーションポータブル SS 


                 acquaの妄想二次創作*************************************


 女性主人公版。
 二次創作につき、そっち方面に理解のある方のみどうぞ♪




************ 眞宵堂

裏路地から、賑やかなモールへと戻ると、眞宵堂の主人が、丁度表に出てきたところで、彼女に気付くと笑みを浮かべた。

「こんにちは。」

駆け寄る彼女に、眞宵堂の女主人は、穏やかな笑みを浮かべる。

「今日は、祝勝会とかじゃないのかい?」
「…眞宵堂さんは、私達の戦いの事、覚えてるんですね…。」

眞宵堂の問いに、思わずそう、返した彼女の顔を、その、女主人が覗きこむ。
彼女の瞳に、不安の色を認めた眞宵堂の主は、おいで、と彼女を店の中へと招き入れた。

「熱いけど…。」

眞宵堂に手渡されたマグカップ。
いつだったか、荒垣に、お茶を熱湯で淹れるな、と、言われていた筈だが、気にも留めていないらしく、相当に熱そうだった。

「桐条の、お嬢さんから連絡をもらったよ。
 …終わったって、ね。」

お茶を、ず、とすすりつつ、口にする眞宵堂は、感慨深げに目を伏せた。
様々な想いが、その胸の内に去来しているだろう事がうかがい知れる。

「祖父の遺した、負の遺産の一つに、ようやくカタをつけることが出来たって。
 …お嬢さんには、何の落ち度もないってのに、ね。

 桐条を統べる者としての、責任を果たせそうだと、電話の向こうで、笑っていたよ。
 
 …ありがとう。
 アンタ達のおかげで、アタシ達が、産み出してしまった、大きな過ちを、ようやく正す事が出来た。

 何の、力にもなってやれなかったけどね…。」

苦笑する、眞宵堂に、彼女は微笑みを返す。

「桐条のお嬢さんには、伝えたんだけど…。
 
 …アタシ個人の、意見だから、結果は違うかもしれない。
 けど、アタシも、ペルソナ研究者のはしくれだから…。

 …記憶は、失われる可能性は、ゼロじゃない」

彼女に顔を向けた、眞宵堂の瞳は、真剣だった。

「眞宵堂さん…。」
「知りたかったのは、これだろう?」
「どうして…。」

彼女に椅子をすすめながら、眞宵堂はカウンターの表側にまわると、ガラスに身体を預ける様にして、彼女の傍に立つ。

「…そりゃあ、アタシだって、それが一番気になるからね。」

眞宵堂が、指に嵌めた、奇妙な形の指輪の目の前にかざして見せてくれる。

「これは、桐条での研究の成果でね…、これを嵌めている間は、影時間を、体感できる。
 …アタシが働いていた当時は、まだ、今みたいに、タルタロスもなかったし、影時間もなかった。

 …なかったというのは、正しくないかな。
 今みたいに、午前零時にやってくるというものではなかった。
 
 始めは、午前零時頃になると、黄昏の羽根を持つものにだけ、時間が奇妙に伸びた様な、感覚が訪れるようになった。
 研究員の間では、単なる噂だったんだけど、当時、バリバリの研究者だった人が、それが、きちんとした物理現象であることを実証し、そして、ご当主の命で、”それ”の研究が開始された。
 
 当然、研究員は、その時間を体感できないと意味がないからね…。
 黄昏の羽根を加工し、納める事によって、こういう道具を生み出したって訳。

 これの良いところは、割ってしまえば、本人が影時間中に体感した事を忘れてしまうって事。」

「ずっと着けていた人は、どうなるんですか?」
「…実験で、数日単位というのはやっていたんだけど、アタシみたいに年単位だと、実際にはどうなるのかはわからない。

 ごく短い期間の場合、影時間の記憶と、記憶を再構築するのに矛盾となりそうな日常、つまり影時間以外の記憶が消えて、かわりに、その人間にとってつじつまの合う記憶に書き換えられた。
 …面白いのが、個人の主観によって記憶が書き換えられるって事でね。

 何人も集まると、大抵が破綻するのさ。」

くすくすと、笑いを零しながら、眞宵堂が語る。
だが、影時間を体感していたものが、それを失うと、何らかの影響がでるのは間違いない様だ。

自分達は、道具を使って影時間の中で活動したわけではないし、ペルソナは失われていないから、一概に同じ様になるとは言えないかもしれないけれど。

「こいつは、あくまでも、アタシの私見。」

手にしたマグカップをカウンターに置いた、眞宵堂が口を開く。

「…黒沢みたいに、影時間そのものには全く関わることのなかったものの記憶は、殆ど改ざんを受けない。
 黒沢は、黒沢の意志で、桐条に、アンタ達に協力をしていた。
 だから、アンタ達を忘れたりすることはない。

 けど、例えば、影時間がらみの事件は当事者が、それを忘れてしまったり、違う記憶に置き換わったりしている場合、当然齟齬が生じる。

 相手が、アンタ達みたいなペルソナ使いの場合、アンタ達の記憶の方にひきずられて、黒沢の記憶は書き換えられる。
 ペルソナは、シャドウと、その本質は同じなんだ。
 だから、当然、空間や時間に影響を及ぼす力が、ある。そうなると、ペルソナに覚醒していない普通の人間の記憶の方が、ペルソナ持ちの記憶に引きずられる。
 
 これは、実験で立証されてる。」

「ペルソナと、シャドウって、同じなんですか?
 シャドウは人間の精神を喰らう生き物だって…。」
「おや、聞いてないの?
 調査ではね、シャドウは人間から分離したものって結果が出てたよ。
 人間には、死にたいっていう願望や、憎しみ、ねたみといった負の感情が存在する。
 それらの力は、当然、ニュクスを呼ぶ。
 呼び合う力に引きずられ、出てくるのがシャドウさ。

 精神の一部が、そうやって抜け出てしまうんだ。当然、遺された人間の方は、抜け殻みたいになってししまう。 これが、影人間、って事。」

 『時々、思う。
  おれのカストールは、シャドウに近いんじゃねえか…って。』

荒垣がいつか口にした言葉が、彼女の頭の中で繰り返される。
本質を、誰よりも見抜いていた荒垣に、今更ながら、感服する他は無い。

「私、まだペルソナは失ってませんけど、使わなくなったら忘れちゃうんでしょうか…。
 この子達の事…。」
「忘れるというより、元々いた場所に還るんだろうけどね…。」

彼女は、マグカップを握りしめたまま、俯く。
どうあっても、記憶の変性は、免れないものなのだろうか?

自分の場合、どうなるのだろう?
デスを宿してから10年間、自覚は無くても、きっと影時間への適性はあったのだ。
10年間の、大切な記憶が、全く違うものに変わってしまったとしたら??

真田先輩、美鶴先輩だって、もう、随分長い間、ペルソナ使いとして戦っている。

寮の仲間達は…、それぞれがペルソナ使いとして、覚醒し、成長して…、それぞれが大事なものを見つけたと思うのに、それも失われてしまうのだろうか…。

震えながら、マグカップを握りしめる彼女を、眞宵堂はじっと、見つめていた。

いい加減な、慰めなど、意味はない。
自分に出来るのは、ただ、真実を告げる事。

自分の記憶が、変わってしまわないうちに、知らせてあげる事だ。

「例の、チドリとか言ったかい?
 …彼女は、ペルソナを失って、一度は命をうしなって…。

 今は、記憶がすっぱり抜け落ちてるけど、元気らしいね。」
「…?
 ハイ…。
 先生が、順平への想いみたいな事とか、大切な事っていうのは、忘れないんじゃないかって…。
 …でも…。」
「怖いんだね。
 忘れるのが…忘れられるのが。」
「…はい…。」

「…人間ってのは、元来、”忘れる”事で先に進む生き物なんだ…。
 生きるのに必要な事以外は、忘れられるように出来てるからねぇ、人間の脳ってやつは。」
「でも…、私…。」

返事を返した彼女の眼から、大粒の涙が零れ落ちる。

辛い、想い出なら、忘れてしまった方がいいのかもしれない。
自分が人を殺めてしまったことなど、もう、二度と想い出したくない事実だろうから。

でも、一緒にいて、心を通わせて、先輩は、自身の過ちを、受け入れ、認め、そして変わったのに…。
大事な事、忘れて、それで良いの…?

「眞宵堂さん…私。
 忘れたくない。
 先輩の事。皆の事。」

「想い出は、これからだって、作れるんだよ。
 真次郎は、アンタへの想いを忘れやしない。

 もし、忘れてしまったとしても、逢えば、きっとアンタを好きになるだろう。
 アタシはそう、思うけどね…。」

果たしてそうだろうか。

彼女は、想う。

再び、出会ったとして、荒垣は、自分を見て、くれるのだろうか…。

彼女は、信じられなかった…。
荒垣が、彼女を好きになったのは、彼女の中に”デス”が宿っていたからだと、想うから…。
今でも、”デス”の欠片は彼女と共にあるけれど、二年前の記憶をも、失ったとしたら、きっと、荒垣は死に魅入られたりはしない…。

「…たとえ、辛い事が多くても、想い出は、時に大切なものだ…、失いたくは無い、か…。」

そう、呟く眞宵堂を、涙を、隠さず、すがるような目つきで見上げる彼女。
そんな彼女を見てしまったら、大丈夫だと、言ってあげたくなる…。
だが、彼女は、そんな嘘に、気付いてしまうだろう。すぐに。

「記憶のすり替えが、どんな風に起こるのかは、アタシには予測できない。
 今回のニュクスの件でも、まだ、混乱したままだからね。

 アンタ達から、記憶が消えるのは、一瞬じゃ無理だろうから、きっと徐々に、置き換わって行くと、アタシは想う。

 それでも…正しい記憶は残ってる。
 補正される記憶は、あくまでも脳が、そう、錯覚しているような、ものだと思えばいい。

 必ず、そこには矛盾が残る。

 それに気付けたら、あるいは、想い出せるかもしれない、とアタシは想ってる。」

彼女の目を見つめ、笑みを浮かべる、眞宵堂の瞳は、優しい。


「…桐条の御嬢さんに、記憶が失われても問題ないように手を打つよう、伝えてあるから…。
 何せ、武器やらアイテムやら、怪しいものばかりだからね。アンタ達の持ち物は…。
 それに、チドリや真次郎の入院についても影時間とは関係ない手順を踏んでおかないと、困ることになるだろうからね。 」

「私、絶対…忘れません。
 先輩の事も、チドリちゃんの事も、仲間の事も…。
 眞宵堂さんと黒沢さんの事も。」

「はは、アタシらの事はいいんだよ…。
 アンタ達は、過去に囚われず、未来をちゃんと見ていればいいのさ。

 …大丈夫。真次郎も、アンタも、もし、見知らぬ者として出会ったとしても、また、好きになるさ。
 大事な想いは、忘れない。」

切なそうな、笑みを浮かべた眞宵堂。
眞宵堂には、想い人がいるのだ。
ずっと、変わらず、思い続ける人が。

「…ありがとう。」

彼女は立ち上がり、深々と頭をさげつつ礼を言う。
顔を上げた時、そこには、笑顔があった。

「…良い笑顔だね。
 大丈夫。きっとね。」

眞宵堂の笑顔に見送られ、彼女は寮への道を、急いだ。