飛鳥 ラストフライト 3(完) | Aircraft Makers official blog(old)

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東京理科大学野田キャンパスにある鳥人間サークル『Aircraft Makers』の旧公式ブログです。

飛鳥の水平尾翼は、上下非対称型のDFタイプでした。
さらに二枚の主翼による揚力バランスを取る必要があります。

つまり、主翼の揚力量を調整するのが必要なだけではなく、
3枚の翼の揚力バランスを取ることがまず第一に必要なプロセスとなります。

そのため、TF実施までの調整とその順番は次のような手順でした。

 1. 主翼を二枚とも同じ迎角で取付け、水平迎角ゼロ固定で滑走試験
 2. 揚力の総量と前後バランスを仮確認、迎角調整
 3. 確認滑走、ギリギリ頭が浮く程度に
 4. 水平尾翼を0度~ゼロ揚力角の範囲内で調整し、水平に浮くように
 5. 揚力の総量を確認、迎角上下
 6. 前後バランスを調整、水平を調整
 7. 距離飛行へ


今回はグラウンドTFで主翼迎角の調整はほぼOKとなっていました。
当日は水平の位置を再現できればバランス良好、のはず。

VGなしでギリギリ浮く直前まで調整されていたので、
VGの有無による空力特性の比較も兼ねていました。

1/1風洞がないので定量的な観測はもとより不可能ですが、
24年前のMITLLのような軍事研究でもないので、定性的な観測で必要十分。
VGに関しては、効果がポジティブなことは既知というのもありましたが。


利得と抗力増加の関係がデータ化できると理想的な研究になりますが、
スポーツの側面を持った人力機でそこまでの研究となると
利益も社会貢献もない以上、設備投資的に非常に難しい。



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さて、
水平を下げに切りに切って、ほぼゼロ揚力角か
という状態で軽く加速してみることに。

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これでも頭上げなら、主翼迎角を下げるかなという程度の見込みでした。
ふわふわ浮いちゃってるんだから先に下げたらよかったのですが、
複数回のGTFで調整してある迎角であるということと、
VGの効果がせいぜい数%程度という予測値のために行動が遅れていました。



ペラ回転開始、
カウントダウン
3.2.1.スタート!


えいっ。
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ぶわっ
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わわっ
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すでに減速開始しているも、後縁失速せずにさらに上がる
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わりとトンでもない角度。

そしてこの高さからの落下。


.
.





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垂直落下式パワーボム炸裂!












タイヤ全損、
コクピットポロリ
第一翼右翼桁破損、
第二翼マウント軸破損、
リブ数枚が粉々。
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現地修復は不可能。
衝撃の割に少ない破損ではあるものの。


あまりに痛い失敗。


800mの滑走路の50mくらいしか使ってない。
でも、もうこれでおしまい。



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修復してもう一度やれば、というのはあっても、
もう次の機体がはじまってますので、悔しいけれどProject飛鳥は終了。

飛鳥(破損)はそのまま下の代にプレゼントすることになりました。
バラして好きに使ってくれい。






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今回の機体で、技術的な意味での挑戦はある程度の成功をおさめました。
乱流境界層制御、VL制御、多翼機体の設計法確立、構造設計の一新、などなど。

けれど、飛行までを含めた全体の目標の達成度は60%程度でしょうか。
TFの回数が全然こなせてないことを見ても、中途半端な結果になってしまいました。
資金マイナスからのスタートなど深刻な障害の多い代でしたが、
あと一歩で結果を残せたと思うと悔しさが募ります。

ただ、興味深い結果もいくつか得ることができました。


◆多翼機体にすることで、翼面荷重が小さくできた。

抗力・必要パワーの増加がありますが、短スパン・小型化が容易でした。
これは多翼化による重量増加を、翼面拡大が上回っていたことを示しています。
飛鳥は若干余裕を持たせた機体であったので中スパン機ですが、
おそらくさらに極化させていくと、アクロバット機のような状態が指向されます。
抗力比増加と小型化による必要パワー削減の平衡点がどこに来るかによりますが、
もしかしたら新しいスタンダードを模索できる可能性があるのでは、
という印象を持つ設計特性でした。


◆上下非対称集中積層による桁設計

桁構造部の軽量化のために、上下非対称の集中積層を行いました。
結果として十分な強度を持ったままの軽量化に成功。
とはいってももともとが軽いCFRP、あまり大きな重量削減には
なりませんでしたが、試みとしては十分すぎる効果を得ることができました。


◆機体重量の削減=接着剤の削減

ACMは過去8年にわたって重量増加を抑えられずにいました。
今回、前年機体から概算で10kg程度の軽量化をしましたが、
そのほとんどが翼の接着剤とテープでした。
熱接着熱収縮フィルムを使って構造をラッピングすることで
強度と重量削減を両立させ、強い翼を軽く作ることができました。


◆VGの効果、翼端板の効果

乱流境界層制御とVL制御を目論んだデバイスは、
当初予測していたよりも高い効果を示していました。
効果があまり大きくなく、取り付けるか悩むだろうと
予測していたのですが、デバイスの有無によって
機体の挙動に影響が出るほどの大きな効果を生み出していました。

ではこれが良いのかというと、たとえばVGに関していうと
抗力増加がどのくらいであるのかを正確に知ることは難しいので、
これはひとつの実験例という域をまだ出ていません。
明らかに剥離抑制、揚力増大傾向があるのは分かりましたが、
むしろ抗力増大が自明であることを考えると、
層流境界層制御、≒推力偏向あたりを狙ったほうが有利ではないか
というのが設計と担当の結論でした。


◆人力飛行機の新しいステージへの挑戦

飛鳥の設計思想そのものが、ダイダロスコピーへのアンチテーゼであり、
鳥人間のマンネリ化と焼き直しへのアンチテーゼであり、
多翼機に対する先入評価へのアンチテーゼでした。
もちろんそれは対立しようとか攻撃しようという意味ではなく、
自分たちが機体を作ろうというとき、安牌を捨ててでも
新しいことに挑戦をしたいという指向の具体化でした。

野心的な目標を定めてそれに挑戦し、あと一歩まで来ておいて
最後に判断ミスで大失敗というあまりに残念なチームでしたが
この挑戦を選択したことは大きな一歩であったと思っています。

願わくば、思想的な意味での後続が増えてくれると。




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私たちは4月の時点で、次年度代へ資料と技術・ノウハウと
組織および資金を残すというフォーカスにシフトしていました。
その中でも、自分たちの機体に自信を持って制作をし、
いったいどれだけのものを後輩に残せるだろうか、ということばかりを
夜通し部室で話したことが思い出されます。

いま、その後輩たちが懸命に彼らの機体を作り上げようとしています。
その姿を見ると、早く自分たちを大きく超えていってほしいという思いと
きっとさっさと超えられてしまうんだろうなという思いに
少し複雑な感情をおぼえてみたり。

ガンガン飛ぶ機体を見せられなくてごめんね。





おしまい。



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