


Part3:生活安全セミナー
外務省は、メキシコにお住まいの在留邦人の方を対象として、安全対策オンラインセミナーを実施しています。
https://www.mx.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_01108.html
内容は生活基盤から街頭犯罪の注意、麻薬カルテルやテロの現状などにまで及びます。
平和な日本にいると非現実的な響きの単語が並びますが、何年もメキシコで生活した今改めて内容を見ると、
「確かに何かあった時に備えて知っておいた方がいいかも」というのが素直な感覚です。
生活安全セミナーですが、僕の時は赴任して3ヶ月以内の日本人家族を集めて対面形式で開いてくれました。
受けたセミナーの内容で一番印象に残ってるのは、銃を向けられた時の対応に関してです。
幸い、僕と家族に関してはメキシコに滞在した3年間で実際に銃を向けられることはありませんでした。
しかし、メキシコの現実を見ると、例えば会社の現地人部下70人にヒヤリングしたところ、その多くが一生で一度は悪意ある銃口を自分に向けられた経験があると回答します。
自宅に不法侵入してきた強盗、家のガレージから車で外出しようとした瞬間、メトロ(市内)バスに載ってた時など、彼らからすると日常の生活で当然のようで銃が出てくるといった口ぶりです。
話を聞いていた僕の印象として日本で言うカツアゲにあって災難だった…みたいな軽い口調で話す現地人にびっくりしたものです。
メリダの(Merida)へ出張した際も、取引先との会話で、マフィアのナワバリ争いに間接的に巻き込まれて実際に銃で3発撃たれながらも、生きながらえた人の実体験を身体の銃痕見ながら聞きました。
このあたりの話はまた後ほど触れます。
つまりメキシコに住む限り、いつでも銃を向けられる可能性はあり、その覚悟やアクションの準備をしておくことはとても重要な話となります。
では銃を向けられた時どうするか?
セミナーではこのように教わりました。
「道を歩いている時、車を運転して信号待ちしている時、レストランをでた瞬間、いつ何時でも銃を向けられることはありえます。
この時の相手の要求は十中八九、“お金“と“携帯電話“です。
denero(ディネロ※お金)、celral(セルラル※携帯電話)などの単語をパニックで聞き取れなくても焦らないこと。
とにかく焦らず、お財布と携帯電話をしまってある場所を指差すこと。無条件に差し出すこと。
そうすれば命までは取られません。」
なんてシンプルで雑な教えでしょうか。
しかし、この教えはメキシコで家族と生活する上で、銃を向けられるという絶体絶命の事態に陥っても、高い確率で命だけは守ることができるという最低ラインが担保されたことで心の支えとなりました。
そんな簡単にいくわけない、財布を奪われた後で銃で撃たれて殺されるかもしれないじゃないかと思われる方に、短くメキシコの社会背景を説明します。
所得において国民8割が中間層といわれた日本人の感覚では理解が難しいですが、メキシコは社会的なヒエラルキー(主に経済格差)が根深く存在します。
スパニッシュ系や政府系権力者、外資系役員などの富裕層などがムチャチャ(家政婦)やポルテロ(門番)を低賃金で雇います。
我が家もムチャチャを雇いましたが、5時間ほど働いてもらい、300ペソ(当時1800円前後)の支払いでした。
このあたりの情報は生活編の別本で触れますが、とにかく使用人的な働き手がメキシコは多く、一度ここに落ち着くと他に移れる仕事もなく、賃金も安いため貧乏から抜け出せません。
住んでたマンションのポルテロからは何度も「お金を貸してくれ」とお願いされました。
しかし、こういった使用人としての働き口を持ってる人はまだマシです。
さらにその下には路上生活者などの最下層生活者が存在します。
この人たちは今日の食事が約束されていない過酷な状況を生きており、実際に食べるものがなくなれば、お金を持ってそうな人に銃を向けてその日生きるために最低限必要なものを奪う訳です。
今日、明日、生きて行くために必要なもの、それ以上は求めません。
それ以上欲張って奪おうとすると相手の抵抗にあい、自らが傷つくことを恐れます。それとやりとりに長引いて警察に捕まることを恐れます。
とにかくさっと済ませて、目の前の空腹を凌ぐことが目的な訳です。
この社会的背景を理解することで、財布と携帯を差し出せば身の安全は高い確率で担保される、、、というセミナーの教えが信憑性を増し、日々の生活において極度の緊張感から解き放たれるわけです。