


・はじめに
「7月からメキシコに駐在してほしい」
4月半ばの金曜日、突然上司に会議室に呼ばれました。
ニューヨーク(NY)駐在員だった私に下ったアメリカ大陸内の異動命令でした。
精密機器メーカーに務める僕は35歳のとき妻と生後6ヶ月の息子を連れてNYへ赴任、それから2年が経過した頃の突然の辞令。
メキシコと聞いた瞬間、頭をよぎったのは仕事や生活、言語の心配などではなく“犯罪”の二文字でした。
誘拐、強盗、殺人、とにかく治安が悪い、そんなイメージしかないメキシコへ突然行けと言われて頭が真っ白になりました。
茫然自失の中、仕事を終えて帰宅すると、いつも通り元気よく出迎えてくれる妻と息子(当時2歳半)。
治安最悪のメキシコに家族を連れていけば、きっと不幸な事が起きてこの幸せな日常は壊れてしまう…
この時、そう思い込んでいた僕は2~3日、何もなかったかのように家族の前で明るく振る舞い、メキシコ赴任の辞令を妻に話すことができませんでした。
ひとり不安に押し潰されそうな気持ちで過ごした数日間は今でも覚えてます。
妻から「えー、NYだからついてきたのに」と言われるのが嫌だったとかではなく、メキシコへ赴任するという現実を自分の中で消化吸収するのに時間が必要だったんですね。
辞令を受けてから4日後、妻にメキシコ赴任の話をすると
「おー、そうなんだ オッケー」とシンプルな回答。
妻はメキシコ行きを僕よりも遥かに早く現実として吸収できる人でした。
南米転勤に前向きな妻と何もわかってない無邪気な息子の笑顔を確認して、改めて僕は人生未踏の地、メキシコで生きていくことを覚悟しました。
この本は2018年から2020年の3年間、家族3人で過ごしたメキシコの首都、メキシコシティでの実体験を元に書きました。公式なガイドブックなどには載ってない個人的な経験、体感して思ったことなどを中心にまとめてます。
日本とは全く異なる文化のメキシコで得た僕の経験や情報が、これからメキシコに行かれる方やメキシコに興味がある方へ何かしらの形でお役に立てば嬉しいです。
メキシコ体験談をまとめる上で第一弾となるこの本のテーマは“治安“です。