ぼくの前後に過去から未来へとのびるタイムラインがあります。
そのタイムラインにドローンのように浮かんで過去へと遡ります。
自分史を探る旅。
中3の冬ころに時のドローンを飛ばします。
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双六をして想いの1つも遂げた日の続きです。
まさか双六を続けてやるわけにもゆかず、
僕は床に座り、彼女は僕の勉強机の椅子に座っていました。
彼女が近くにいるといい香りがしました。
何となく手持ち無沙汰で、
彼女は肩に掛かるロングヘアを手ぐしですいていました。
「あっ、枝毛がある。はさみある?」
彼女は何本かを切って、くずかごに捨てました。
長いままの髪の毛も数本、一緒に捨てていました。
僕の家は高台にあり、部屋は2階でした。
まどからの景色は遮るものもなく開けていました。
「景色、いいね」とつぶやく彼女。
窓から外を見ている彼女の横顔を、
ぼくは眺めていました。
黄昏の静かさをいまでも覚えています。
二人とも黙っままで夕方の中にいました。
夕食を家族みんなで食べてから
はやっていたグループサウンズのレコードを聴きました。
けっこうマニアックな激しいリズムの曲をかけたところ、
彼女はゴーゴーガール(!)のように長い髪を振って踊ってくれました。
驚くほど上手でした。
意外な側面を見た気がしたものです。
踊りがからきしダメな僕は、
黙ってギターを弾きました。
あたかも僕の伴奏で踊る、
彼女がうれしかった。
「そろそろ帰る」
「送ってくよ」
家から最寄り駅までは2kmくらいありました。
バスもあったのですが、僕らは歩いて行くことにしました。
彼女は僕の右側に来ました。
僕より10cmくらい小柄でした。
僕は彼女を守るように道の右側を歩きます。
車通りも少なく、たまに通るのはタクシーくらい。
車が通り過ぎると風で彼女の香りがします。
話も途絶えがちで、
僕らは黙って歩いていました。
たまに、肩と肩が触れる。
そっと肩に手を置きました。
それだけするのに、どれほどの勇気と決心が必要だったことでしょう。
何度か腕を伸ばしかけては、引っ込め、
拒絶されたらどうしようと震えながら、
それでも、
なんとか肩を抱いてみたいという誘惑に耐えきれずに、
決行しました。
一瞬、
彼女がビクッとしたように感じたのは、
考えすぎでしょうか。
道は緩やかに左にカーブしていて、
折から通りかかった車のヘッドライトに、
向かいの家の側壁に僕らの影が映りました。
僕と彼女の長い髪に、
肩のところで二人が一緒に融合しているシルエット。
影絵を見るようです。
「みて、僕らの影」と言いたかったけど、
黙って歩いて行く。
黄昏の時間と同じように、
時は過ぎて、
何事もなく駅に着いてしまいました。
切符を買って、
2つ先の駅まで一緒に行きました。
二人ともさっきから無言です。
なぜか二人とも前を見たまま、
わざとお互いを見られない、
不思議な拘束状態。
電車に乗ってもだまったまま。
二人の時間は貴重なのに、
いっぱい話をしたいだろうに、
なぜか語れない。
しゃべれない。
見ることが出来ない…
二重に改札のある駅でした。
僕らが乗ったのは私鉄だったため、
駅の外に出るにはいったん私鉄の改札を乗車券を見せて抜けて、
改めて国鉄(JRではないですよ)のホームに抜けてから、
別途改札を通るのが近道でした。
しかし、
僕は彼女を先導しつつ私鉄の改札口でキップを渡してしまったのです。
当然彼女も僕にならいます。
当然、本来出るべき改札口に出られないことになりました。
「あれれ、キップがないよ」
「あなたが渡すから、わたしも渡しちゃった!」
ここでクスクス笑っちゃうのが彼女のいいところです。
決した怒ったりはしない。
僕らの間の妙な緊張はいっきに解消しました。
「ゴメンね」
僕は万感の思いを込めて言いました。
「何が?」 彼女は無邪気に僕を見上げて言いました。
きっと分かっていたのにと今でも僕は思います。
「何が?」って。
「何でも無いよ」
彼女は黙って笑っていました。
遠回りしてバス停まで行きました。
「ここでいいよ」
「だいじょうぶ?」
「うん、平気だよ」
乗り込んで手を振る彼女をポケットに手をつっこんで見ていました。
バスが出る前に歩き始めて、
ふと振り返ると目が合いました。
彼女の口が動きました。
こう言っていた。
「あ、り、が、と…」
僕は走り出します。
ホームを駆け抜け、
来た電車に飛び乗り、
降りてからも2kmの道のりを猛ダッシュで走り通しました。
跳ぶように駈けました。
帰宅して、
ややあって、
自室にもどって、
椅子に座って、
茫然として虚脱していました。
今日一日を思い出しながら、
夢とも現ともつかぬ世界に入り込んでいました。
ふと気づくと、
彼女のほのかな香りがします。
足下のかごからでした。
細い髪の毛がありました。
ひろってみるといい香りがしました。
触れてしごくとキュッっと音がしました。
当時書いていた日記に挟み込んだことを白状しておきます。
次はいつ会えるんだろう。
なんとなくボーとしつつ、
予想に反してその夜は瞬殺で寝てしまいました。
言い知れぬ緊張があったんでしょうね。
次はいつ会えるんだろう。
人生の不安はただこれだけだった……
P.S. 髪の毛がどうなったかなと当時の日記帳を探しました。
ありました。でも数本あったのが、1本くらいしか見当たりません。
溶けちゃったのかな。1本あればクローン作れるかな。





