今回は1本の映画としては今年のベストに入るのかと言われたら、そこまで今年ベスト級じゃなかったんだけど、荒唐無稽かつ大味、なおかつアクション重視になっているんだけど、エンタメ性が高くて抜群に楽しめる韓国産ゾンビ映画の続編をご紹介します。

新感染半島 ファイナル・ステージ

主演︰カン・ドンウォン

出演︰イ・ジョンヒョン/イ・レ/クォン・ヘヒョ/キム・ミンジェ/ク・ギョファン/キム・ドユン/イ・イェウォン/キム・ギョベク/ファン・ヨニ/ベラ・ラヒム



・あらすじ
韓国は、人間を凶暴化させる謎のウイルスによるパンデミックが発生し、国家としての機能を失っていた。当初は安全と思われていた釜山も、実際にはウイルスに侵されていた。

パンデミック初日、主人公の元軍人ジョンソクは姉家族と共に自動車で港へ向かう途中で助けを求める一家に遭遇するが、父の胸元が血で染まっていたことから見捨てる。なんとか港にたどり着いたジョンソクは船に乗り込むが、そこには感染者の男性も居合わせていたため、まもなく凶暴化した彼によってジョンソクは姉と甥っ子を失ってしまう。その後、朝鮮半島は封鎖され、韓国人は難民と化して半島出身者は差別され、ジョンソクは香港で落ちぶれた生活を送ることとなった。

4年後。ジョンソクは3日以内にソウルに乗り捨てられたトラックから2000万ドルの大金を回収する仕事を受け、義兄のチョルミンらとともに裏ルートで朝鮮半島へ上陸するが、凶暴化して久しい大勢の感染者たちや、傍若無人に振る舞う民兵集団631部隊に襲撃される。散り散りとなって危機に瀕したジョンソクは、荒れ果てた土地を生き抜いてきたミンジョン家族により、間一髪のところを助けられる。ジョンソクの任務を知ったミンジョンは、終末後の世界しか知らない2人の娘を半島から脱出させたいという思いから手を組むことを決意し、かくしてジョンソクたちは任務を遂行しつつ半島からの脱出を図る。
(Wikipediaより抜粋)
ーーーーーーーー
感想
この映画は『地獄が呼んでいる』のヨン・サンホ監督による監督の前作『新感染︰ファイナル・エクスプレス』から4年後を舞台にした正統なる続編。『ソウルステーション︰パンデミック』、『新感染︰ファイナル・エクスプレス』に続くヨン・サンホ監督のゾンビ・パンデミックものの3部作のうちの3作目です。本作は元日公開に先駆けて2020年12月25日にTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ池袋、TOHOシネマズ 梅田の3つの映画館で特別先行上映され、2021年の1月1日、元日に劇場公開された作品です。第73回カンヌ国際映画祭でオフィシャル・セレクションに出品され、韓国本国に留まらず、台湾や香港、マレーシア、シンガポール、北米など、世界各国で順次公開され、大ヒットを記録した話題作となっています。

この作品、実のところ、昨年4月に新作レンタルでリリースされた時はシリーズ前作の『新感染︰ファイナル・エクスプレス』を観て予習したうえで新作レンタルの料金で借りようと思っていたのですが、タイミングが合わず、TSUTAYAでは新作レンタル3泊4日になっていて、GEOだと新作1泊2日のままになっていたため、準新作になるのをズルズルズルズルと待っていました。しかし、2021年は私の好きな『未体験ゾーンの映画たち』の上映作品はまだしも、映画ファンの間で話題になっていた全国劇場公開作品が続々とレンタル開始され、今作の『新感染半島』は日が経つごとにスルーされていきました。そしてその結果、気がつけば12月になり、昨年12月、年間ベストを決める追い込みのためにGEOの旧作14泊15日でレンタルしました。先に結論から申し上げると、色々と言いたいことはないわけではないんだけど、なんだかんだ言って面白かったですね。

まず、監督のゾンビ・パンデミックものの1作目となる長編アニメーション映画『ソウルステーション︰パンデミック』はまだ未視聴なのですが、その2作目であり、ヨン・サンホ監督の実写映画としてのシリーズ第1弾目となる『新感染︰ファイナル・エクスプレス』は無類に面白かったですね。コン・ユさん演じるファンドマネージャーのソグとキム・スアンさん演じるその娘のスアンの親子、マ・ドンソクさん演じるサンファとチョン・ユミさん演じるソンギョンの夫妻らがソウル駅からプサン駅を目指すという単純明快な話なんだけど、抜群にテンポが良く、ゾンビ(感染者)の基本的な設定を説明しつつも、電車という限定的な空間が生かされていて、そして、ソグやサンファのエピソードのみならず、群像劇としてはチェ・ウシクさん演じる高校野球部のヨングクとアン・ソヒさん演じるチニの高校生カップル、イェ・スジョンさん演じるインギルとパク・ミョンシンさん演じるチョンギルのお婆さんの姉妹などのエピソードが盛り込まれていて、極限状態に置かれている人間たちのヒューマンドラマはそれぞれ非常に優れていました。

ただ、ぶっちゃけると、個人的にはマ・ドンソクさん演じるサンファは主要人物の中ではコン・ユさん演じるソグと肩を並べるほどの存在感はあったんだけど、実質的な悪役にあたるキム・ウィソンさん演じるバス会社常務のヨンソクの非道っぷりが印象に残っていて、韓国セウォル号沈没事故を反映している。事故の責任能力が問われたイ船長がモデルとも言えるんだけど、あらゆる映画で感じ悪い人の役を好演されているキム・ウィソンの性格俳優としての演技も相まって、ヨンソクが取った行動のせいでマ・ドンソク演じるサンファが物語的にもっと長い時間生き続けられたと思えるし、ほとんどの観客から怒りや憎しみを買う主要人物になると思うんだけど、クライマックス、感染者になってしまったヨンソクが可哀想に思え、感染者になりたくなくて、家族と幸せな生活を過ごしたいからああいう行動をするしかなかったのかなと思い、とにもかくにも腹は立つけど、悪役としては魅力的なキャラになっていたんじゃないかなと思いましたね。あと、チェ・グィファさん演じるホームレスの男性はソグらの足を引っ張りかねない厄介なキャラとして描かれてはいるんだけど、彼が最後の最後で自己犠牲を払い、仇を恩で報いるようにソグ親子を助ける展開は非常に心にグッと来ましたね。

で、その3作目であり、実写映画としてはシリーズ第2弾となる本作『新感染半島 ファイナル・ステージ』は前作『新感染︰ファイナル・エクスプレス』との繋がりは一切無く、コン・ユさん演じるソグやマ・ドンソクさん演じるサンファは回想シーンでさえも再登場しないため、同じ世界線とはいえど、別の登場人物から成る別の視点から語られている続編として描かれていました。前作から4年後、荒廃した韓国が舞台となっていて、スケール感が大きくなり、ゾンビ(感染者)はエキストラを使った怖がらせ演技ではなく、前作にもあった大量のゾンビが押し寄せるシーンで見受けられる物量表現でのCG・VFX技術が目立っていました。なので、『ソウルステーション︰パンデミック』『新感染︰ファイナル・エクスプレス』と打って変わってかなりの別物だと言えるし、『新感染︰ファイナル・エクスプレス』を見ていなくても、冒頭9分半で端的に世界観を説明してくれているので、安心して楽しめる作りになっています。もっと言えば、まだ未見なんですが、前々作の『ソウルステーション︰パンデミック』が社会批判、社会風刺が重視で、前作の『新感染︰ファイナル・エクスプレス』がどちらかと言えば、ドラマ性が重視な作品だとするならば、『新感染半島 ファイナル・ステージ』はアクションに重視した作品であり、アクション映画好きならシンプルに楽しめられるし、逆に言えば、エンタメ性は担保されていても、荒唐無稽かつ大味な内容になっているので、賛否両論、好き嫌いが分かれる内容となっているのは言うまでもないことだと思います。

まず、冒頭の9分半、何があるのかと言われると、ここでは元軍人のハン・ジョンソクと後に彼が取った選択のせいで生き残った義理の兄、チョルミンの4年前の過去が描かれていて、初っ端からミンジョンとその娘のユジンも登場しているんだけど、冒頭は2020年のアメリカの報道特集番組の映像を挟みつつ、4年前にあたる2016年にジョンソク大尉が姉とチョルミン一家を日本行きのフェリーに連れて避難させるわけなんだけど、フェリーの客室という限定的な空間が地獄絵図となっていて、前作の『新感染︰ファイナル・エクスプレス』の限定的な空間、シチュエーションを生かした見せ場を冒頭9分半で堪能できる分、冒頭9分半だけは前作にあったテイストを楽しめるように作られています。更に言えば、フェリー内で義理の兄、チョルミンは列に並んで韓国軍人から食料品や毛布を受け取ろうとするわけなんだけど、日本行きのフェリーの人々が受け取っていた食料品にはカップ麺があり、即席麺の種類は違えど、これが中盤の631部隊の大人の遊び"鬼ごっこ"(かくれんぼ)のある描写で伏線回収されているのが巧みで上手いと思いましたね。

或いは、荒唐無稽かつ大味なカーアクションシーン。ゾンビが光と音に反応しやすく、視界が悪いという設定を生かすためにも夜の退廃的な韓国の街を舞台にしている割りには明らかにグリーンバックによる合成、自動車車両やゾンビのCG技術はどれだけ予算をかけていても、B級っぽさ、ゲームっぽさが感じられなくもないんだけど、非常に新鮮味があって興奮させられ、グイグイと映像に引き込まれます。特に終盤、クライマックスに差し掛かるまではジョンソクとミンジョンら善人チームと民兵組織、631部隊のチームによる夜明け前でのカーチェイスシーンは好ましい展開の連続で、例えば、自動車車両はさっき書いた通り、『GRAN TURISMO』とか、『Real Racing』とか、いかにもゲームっぽさがある違和感を覚えるCGにはなってはいるんだけど、ジュニらの乗る改造車と赤い帽子の軍人の乗る装甲車のカーチェイスは赤帽子の軍人のイカれ具合でコメディっぽさがあってニヤニヤしつつ、ジュニが子供らしからぬドライビングテクニックを駆使しながら本作シリーズに登場するゾンビの特性を生かし、赤帽子の軍人を倒す様子はスローモーションの使い方が上手いこともあってか、バチバチに格好良いし、或いは、ジョンソクが抜群の射撃の腕で631部隊の照明車のライトをいとも簡単にぶち抜く辺りは素晴らしいし、或いは、その後のシーン、過去のゾンビ映画にもあったCG表現なんだけど、ミンジョンがトラックの舵を切り、ゾンビの雪崩に巻き込まれた631部隊の軍人の車を回避する様子はケレン味があって滅茶苦茶最高でしたね。この描写は初見で観た時は作中シーンが使用されているシッチェス映画祭のトレーラー映像で何度も観ていたとしても、圧倒的な画力に思わず笑っちゃいましたね。


一方で、前作の『新感染︰ファイナル・エクスプレス』では実質的な悪役としてはバス会社常務のヨンソクが観客に強い印象を残していたんだけど、本作『新感染半島 ファイナル・ステージ』に出てくる悪役も魅力的で、なおかつ味わい深いキャラクターになっていましたね。特に明らかに悪役側として描かれている民兵集団"631部隊"のリーダー、ソ大尉。リーゼント風の髪型をしていて、部下であるファン軍曹やキム二等兵を束ねてはいるんだけど、恐らく推察するにあたって、ソ大尉とファン軍曹は感染爆発から4年後という過程の中で友人関係と思われる確固たる関係性はあるんだろうけど、ファン軍曹の性格上、上下関係はファン軍曹のほうが上で、目上の人であるはずのソ大尉はファン軍曹の要求や頼み事には異論を申したくてもできない関係なんじゃないかなと思うんですよね。なので、ソ大尉のキャラクター造形でゴロツキ、不良たち連中を束ねるカリスマ性が欠けているのは仕方がないし、むしろ、ソ大尉とファン軍曹のやり取り、掛け合いで物語の背景を想像したくなるようなキャラクター造形だと思えるわけなんですよね。或いは、ソ大尉の初登場シーン、ソ大尉は自分の部屋で酒を飲み、ラック棚に飾られていたグラビアアイドルのポスターにスリスリした挙げ句、銃口を口の中に突っ込む動作をしていたんだけど、恐らく、ソ大尉は4年前までは優秀で立派な軍人で、心優しくて繊細な一面がある反面、人脈作りに長けていて、仲間であるファン軍曹の協力があったからか、短期間で生き残った軍人たちの集団を作れたとみられ、表面的には生存者たちの集まりをまとめ上げて順風満帆な日々を送れてはいるんだけど、心の奥底では満たされているのに満たされない、虚無感、孤独感があるのではないかという風に感じられるんですよね。そういう意味では、前作のヨンソクのように生きたいという気持ち、もしくは、生きて半島(韓国)から出たいという夢や目標、思いが伝わってくる。だからなのか、私の視点からすれば、ソ大尉はリーダー気質でカリスマ性を誇っている人というよりも、努力家、頑張り屋さんなのかな…と思わなくもなかったですね。おまけに、ソ大尉は大金を積んだトラックを奪ったインチョン(仁川)港に着き、香港マフィアのいるフェリーでキム・シウォンさん演じる香港マフィアのリーダーに殺されるわけなんだけど、そこで見せるソ大尉の最期の抵抗はある種香港マフィアたちの復讐でもあるし、地獄から這い上がりたいという意思表示の表れでもあり、彼の最期は納得のいく展開ではあるんだけど、非常に可哀想で同情させられる展開だと思いましたね。

対するキム・ミンジェさん演じるファン軍曹は631部隊の中では幹部クラスのようなキャラクターであり、残忍かつ怒ったら何をしでかすか分からないキレ者な人物なんだけど、ソ大尉と比べて上下関係が上なだけに、悪役としての存在感が大きく、ソ大尉が言葉で人を支配しているのならば、ファン軍曹は暴力で人を支配しているような存在で、ソ大尉とファン軍曹はしっかり対照的な2人なんじゃないかと感じられます。特に後半部分、ソ大尉がファン軍曹にバレないよう韓国から出るための唯一のアイテム、衛生電話を隠しながら会話するくだり、ここは悪役側の背景、視点にしては時間を割く必要があったのか、意見が分かれるところではあるんだけど、ソ大尉とファン軍曹の上下関係、パワーバランスが明確に伝えられているし、ファン軍曹の人間性、ユーモアが表現されていて、2人による"バレるかバレないかサスペンス"は安定感があって楽しかったですね。あと、悪役周りで言えば、631部隊で食料品の管理をしている下っ端の隊員、キム二等兵。631部隊そのものはディテールからして、軍人、元軍人のおじさん連中が頭悪そうにバカ騒ぎして楽しく暮らしているなか、唯一、まともそうで常識人なキャラクターといった印象で、"鬼ごっこ"を観戦して楽しまず、ソ大尉とは上下関係はあれど、仲間同士親しく接していて、割りと可愛げのあって非常に味わい深いキャラだったと思いました。欲を言えば、このキム二等兵、最期の登場シーン、自分だけが生きて脱け出そうとするソ大尉に射殺される展開でもう少しキム二等兵の存在を忘れられないものにするための人物描写を入れてくれたらますます可愛げのあるキャラになっていたと思うのですが、ズル賢いソ大尉のキャラクターを立たせるにはこれはこれでも良かったのかな…と思いましたね。

あと、ジョンソクやミンジョンらによる善人チーム、ここは登場人物の魅力はアクション見せ場で見せている分、言いたいことは無くもないんだけど、善人チームの中ではジョンソクの義理の兄、チョルミンの人物描写がとても深く印象に残りました。このチョルミン、演じられているキム・ドヨンさんは『未体験ゾーンの映画たち2021』で公開された『潔白』で意外と重要な役柄を演じていたんだけど、チョルミンの役柄そのものは唯一主要人物の中では一般市民という立場にある人物で、それでいて、義理の弟にあたるジョンソクには今の今まで守られている側にあって、序盤のジョンソクら4人の現金回収チームの潜入パートでは頑張りや活躍が得られない、物語的にほどされたキャラクターにされているんですよね。その挙げ句、後々の展開で631部隊の"鬼ごっこ"の描写では"鬼ごっこ"の参加者の非人間的と言えるゾンビのような食事風景を見て、絶望的な表情を示していて、軍人ではない彼ゆえの不憫さ、いたたまれなさが非常に印象に残るキャラでもある。でも、個人的にはチョルミンの最期のシーン、後々、露骨に泣かせにかかろうとする感動演出が少しノイズにはなってはいるものの、彼が何もスキルを持たない人間として、或いは、妻であるジョンソクの姉を守れなかった家族の一員として、自動小銃を乱射する姿は彼の勇気ある行動を明確に伝えていて、これまた味わい深いと思えてくるし、一般市民である彼が元軍人の義理の弟をリスクを取ってでも守ったことで、ジョンソクのような軍人じゃなくても、誰かを守れることができると提示しているんじゃないかなと思いましたね。

そして、クライマックス以降の展開、大まかに言えば、ラスト10分と定義付けてもいいと思うんだけど、前作『新感染︰ファイナル・エクスプレス』のあらゆる登場人物のように老人のキム師団長は自己犠牲を払って一家の次女のような存在だったユジンを守ったわけなんだけど、その後の展開ではミンジョンがキム師団長と同じように自己犠牲で家族、チームの一員を守って救うのかと思いきや、ジョンソクが自己犠牲を選んだ姉を見捨てた後悔を乗り越えることで、自己犠牲をしないという新たな選択、つまり、理想的な選択だけど、皆で生きて助かるという前作とは違う解答、対照的な選択をしていて、ここは前作の『新感染︰ファイナル・エクスプレス』で自己犠牲を払っていたソグが悲惨な最期を遂げた分、滅茶苦茶納得度、満足度の高い着地だったと思います。更に言えば、国連軍のヘリの中での会話シーン、ジェイン少佐は「(あなたたちには)新しい世界が待ってる。」と告げると、イ・レさん演じるジュニは「私がいた世界も悪くなかったです。」と言うんだけど、人物設定からして、ジュニが血の繋がっていないミンジョンの家族の一員なんだろうけど、ジュニがミンジョンたちと過ごしてきた日々、暮らしは確かに、幸せとは到底言い難いものだったかもしれないんだけど、4年前に感染爆発する以前の頃は素晴らしい世界だったと思うし、なんなら、ミンジョンやキム師団長、ユジンと地獄のような場所でお互いに助け合い、支え合い、ひとつの擬似的な家族として一緒に泥水をすすってでも長い時間すらも素晴らしい日々、暮らしだったんじゃないかという思いが込められていたんじゃないかなと思いました。この展開からして、恐らくジョンソクはミンジョンのチーム、端的に言えば、彼女の疑似家族と一緒に暮らして社会復帰していくんだろうけど、ヨン・サンホ監督がシリーズ第3弾(『ソウルステーション︰パンデミック』を入れたら第4作目。)が作られたとしても、同じ世界線でもまた別の登場人物の視点で話が語られていくのは間違いないことでしょう。

敢えて言えば、クライマックス、ソ大尉の襲撃を受けたミンジョンのチームが形勢逆転しようとユジンがラジコンでソ大尉の注意を引きつけ、ミンジョンが反撃に出る展開があるんだけど、そこでやたらと過剰なスローモーションで登場人物の動きでゆっくりになっていて、キム師団長がユジンを庇って撃たれた、つまりは誰かが自己犠牲を払ったという悲劇的な展開を盛り上げるための演出だったとしても、ちょっとやり過ぎな演出だったんじゃないかなと思いました。それにも通じる話で言えば、或いは、そのあと、クライマックス以降の展開、厳密に言えば、ミンジョンのチームにいたキム師団長が命を落としてからの展開になるんだけど、そこからのくだりはストリングスを中心とした感動的な劇伴音楽が盛り込まれていて、母親のミンジョンが自己犠牲するくだり、ジョンソクが自己犠牲しようとするミンジョンを助けるくだり、そして、ミンジョンが国連軍のジェイン少佐の元にやって来て、チュニたちと再会するくだりは日本を含めた世界各国で劇場公開されていた作品の割りには露骨に泣かせにかかる演出が目立っているせいでテンポが鈍重になっていました。厳しく言えば、前作『新感染︰ファイナル・エクスプレス』のラストにかけての展開のほうがまだテンポ感が良かったような印象を受けてしまいます。ここはこの展開、ミンジョンが前作のコン・ユさん演じるソグやキム師団長のように自己犠牲を払って命を落とすんじゃなく、自己犠牲という選択はせず、皆で生きて助かろうというメッセージを打ち出しているのは百歩譲るとしても、ジェイン少佐がただじっとミンジョンの行く末を見届ける、下手したら見殺しにしてしまうかもしれないという危うい行動を取ったままにするんじゃなくて、拳銃を持ってゾンビ(感染者)を1体だけでも倒す見せ場があったほうがラストシーンで国連軍のヘリの中で彼女が「あなたたちには新しい世界が待ってる。」とチュニたちに言ったことへの説得力はあったと思うし、何よりも一家の祖父のような存在だったキム師団長が軍人として唯一信頼を置いていた人物としての根拠がもっと上がっていたのかもしれません。

あと、物語の中盤、ジョンソクはミンジョンたちのチーム(家族)が暮らしている家で日が暮れるまで待機することにはなってはいるんだけど、最低限、ミンジョンとキム師団長の人物背景、人物像を掘り下げられてはいるものの、主人公であるジョンソクはミンジョンチームの家で休息を取っている分、ミンジョンチームの家のパートでジョンソクの人物像、キャラクター像を浮かび上がらせるものがあまりなく、あまりにもジョンソクが日が暮れるまで待機するくだりが消化不良に感じられましたね。それこそ、例えば、ジョンソクとミンジョンチームの一家でいうところの長女にあたるチュニはしっかりアクション見せ場で目立っているキャラクターなので、ジョンソクとチュニはもう少しユーモアを織り込んだシーン、ギャグを取り入れた小気味良い掛け合いがあっても良かったと思うし、シリアス方向でいくとするならば、ジョンソクとミンジョンが4年前で出会った者同士としてもうちょっと過去の話を話す会話シーンを追加させて、ジョンソクのキャラクター像をより明確に浮き上がらせたほうができたようにも思えます。

あと、前作『新感染︰ファイナル・エクスプレス』は少なくともコン・ユさん演じるソグやマ・ドンソクさんといった主要人物のみならず、チョン・ソギョンさん演じる列車の運転士とか、チェ・グィファさん演じるホームレスの男性であるとか、脇に配置されている登場人物まで観客に印象付けているようにされていたんだけど、脇を固める細かい登場人物でキャラ立ちしている人物、或いは、登場シーンが少なくとも、最初から最後まで観客に深く印象付けている登場人物が大幅に少なくなっているのは正直言ってどうかなと思うし、実質的に悪役側にあたる631部隊のキム二等兵以外はあんまり記憶に残らなさそうな細かい脇の登場人物ばかりだと思いました。個人的には物語の中盤、631部隊の基地内に捕らわれ、"鬼ごっこ"に強制参加させられたチョルミンの視点、韓国から出たい大ボスクラスのソ大尉の視点で話を進めるのならば、せめて、物語の中盤からチョルミンが来る以前に捕らわれの身になっている"鬼ごっこ"の参加者たちはゾンビ(感染者)と同様に道具や家畜のような描かれ方にはしないで、"鬼ごっこ"の参加者たちにもそれぞれ人間としての生き方や考え方があって、チョルミンと同じようにこの状況から抜け出したいといった心理描写をさり気なく見せていったほうが良かったかなと思いました。これを指摘すると、とんだ言いがかりになるのですが、チョルミン以外の他の"鬼ごっこ"の参加者は631部隊の基地内を逃げ惑って姿を消してからは一切描かれなくなるんだけど、ジョンソクやミンジョンが自らの意志で救ったわけではないから、はっきり言ってあの半島で薄汚れたゾンビの大群に紛れて感染者と化しているとしか思えないんじゃないかなと邪推しましたね。しかも、遡って考えてみると、ミンジョン、チュニ、ユジン、キム師団長から成る擬似的な家族、或いは生存者チームこそが物語の主要人物だから捨て駒のような脇役キャラなのはしょうがないと言えば、しょうがないと思うんだけど、序盤、ジョンソクとチュルミンと行動を共にしていた現金回収チームの2人、元タクシー運転手のおばさんはある程度キャラが立っていたにせよ、もうひとりの三十路の男性はどういう人物でどういう経歴の持ち主なのか、あんまりよく分からなかったのはなんだかなぁ…と思いましたね。

ということで、2021年1月1日、劇場公開日から1年が経過したんだけど、評判が評判なだけに心からこの映画を楽しめるのかなと思ってたんだけど、ぶっちゃけ、作品の好き嫌い、不満点、改善点はあるにせよ、私からすれば、なんだかんだ言って純粋に楽しめる続編映画になっていたんじゃないかなと思いました。率直に言えば、監督のゾンビ・パンデミックものの1作目にあたる『ソウルステーション︰パンデミック』を観賞していない段階で『新感染︰ファイナル・エクスプレス』と今回の『新感染半島︰ファイナル・ステージ』、どっちが好きだったかと言われると、どっちかって言うと、前作の『新感染︰ファイナル・エクスプレス』のほうが好きだと答えられるんだけど、前作とは対照的なメッセージに加え、荒唐無稽かつ大味なアクションの数々、スケールアップしたCG技術、背景を想像したくなる悪役側となる631部隊の人物描写など、韓国産のブロックバスター大作にしてはよく頑張っていて、なおかつ良くも悪くも憎めない1作となっていると思いました。是非ともレンタルや配信で観賞してみてください。