今回は楽曲、ダンス、豪華キャストによるパフォーマンスは素晴らしく、努力は伝わってくるのにストーリーはあってないようなもので、全体的に万人受けしづらいものになっている今年屈指の奇妙な映画を紹介します。


CATS キャッツ

主演:フランチェスカ・ヘイワード

出演:ロビー・フェアチャイルド/ジェニファー・ハドソン/ジェームズ・コーデン/ローリー・デヴィットソン/ジェイソン・デルーロ/スティーブン・マックレー/レベル・ウィルソン/イドリス・エルバ/テイラー・スウィフト/ダニー・コリンズ/メット・トーレイ/ナオイム・モーガン/レイ・ウィンストン/ニーヴ・モーガン/ラリー・ブルジョア/ロラン・ブルジョア/ジェイ・バトート/ジョナデット・カルピオ/ダニエラ・ノーマン/ブルーイー・ブロンソン/フレヤ・ローリー/イダ・サキ/イアン・マッケラン/ジュディ・デンチ


・あらすじ
(一応()内に楽曲名を記載しています。)

満月の夜、ロンドンのゴミ捨て場に1台の車が現れました。車には飼い主とされる人物が乗っていて、その人物は生き物が入っている袋をゴミ捨て場に投げ捨てました。車が立ち去ると、大勢の猫が袋に恐る恐る近寄り、袋の周りを取り囲みます。そのなかで兄貴分の雄猫、マンガストラップが袋を引っ掻くと、一度物陰に隠れ、袋の中から白く美しい子猫、ヴィクトリアが現れました。ヴィクトリアは戸惑いながら周囲を見渡しました。

マンガストラップらは袋の中にいるのが白猫だと知ると、再び取り囲みました。彼らは『ジェリクル・キャッツ』という猫の小さい部族であり、マンカストラップらは新しい世界に突然やって来たヴィクトリアに自分たちのことを歌いながら説明しました。その様子をビルの屋上からマキャヴィティという雄の猫が見つめていました。次第にヴィクトリアは笑顔を見せ、彼らと共に歌い踊ります。(『ジェリクルソングズ・フォー・ジェリクルキャッツ』)


ジェリクル・キャッツはこのまま彼女の前で歌い続けていましたが、突然マンガストラップらは彼女の前から立ち去りました。悪い猫として知られているマキャヴィティが路地裏に現れたのです。マキャヴィティはひとり残されたヴィクトリアに声をかけ、「舞踏会に行くのはやめたほうがいい。今年はマキャヴィティが勝つって噂だ。」と自分をマキャヴィティだと名乗らずに語りかけます。今夜は『ジェリクルの舞踏会』があり、マンカストラップらジェリクルキャッツは年に1度に開かれる舞踏会のために集まっていたのです。マキャヴィティは自分を唯一無二の存在で魔術師だと説明します。しかし近くの墓地に逃げ込んだ手品猫、ミスター・ミストフェリーズが彼女に声をかけました。ヴィクトリアがミストフェリーズに気をとられていると、マキャヴィティは彼女の前から忽然と姿を消しました。ミストフェリーズはヴィクトリアの元に行き、彼女の腕を掴むと、墓地に連れていこうとしますが、姉御肌のカッサンドラらが現れ、よそ者であるヴィクトリアに名前を尋ねました。ヴィクトリアは戸惑いながら名前を名乗りますが、カッサンドラから「他の名前は?」と聞かれます。そこにマンカストラップが現れると、彼女に厳しい態度を取るカッサンドラらを止めました。マンカストラップはヴィクトリアを墓地の中に入れさせると、「猫には3つの名前が要る。」と言い、人間が呼ぶ名前前以外にも猫が使う名前、仲間の猫にも知られてない自分だけが知る名前があると言い聞かせます。ヴィクトリアはマンカストラップに手を引かれると、月明かりの下でバレエを踊りました。(『ネーミング・オブ・キャッツ』)

そしてミスター・ミストフェリーズが彼女の前で手品を披露すると、マンカストラップは歌いながら夜明け前にジェリクルの舞踏会(ジェリクル・ホール)でジェリクルのリーダーで長老のデュトロノミーが現れ、『ジェリクルの選択』を行い、そこでは生まれ変わる猫を選び、新たな名前が授けられると説明します。彼はヴィクトリアを墓地の外に導くと、空の上を見つめ、デュトロノミーに選ばれた猫は天上の世界に行く権利が得られると言います。どの猫も天上の世界に行き、新しい人生を得るために自分自身についての歌や踊りを習得し、磨きをかけていました。

マンカストラップはヴィクトリアに舞踏会に参加する猫を会わせることにしました。彼はヴィクトリアをアパートの一室に連れていくと、元気なおばさん猫、ジェニエニドッツを紹介しました。ジェニエニドッツは毎日昼間は階段や窓枠、マットに座って過ごし、夜は活動的に動き回るガンビーキャットで、素行の悪いネズミに音楽を教えたりゴキブリを調教させたりしていました。彼女はゴキブリがホールケーキの上で踊るなか、ヴィクトリアやマンカストラップたちの前で着ていた毛皮を脱ぎ、派手な格好へと姿を変えました。ヴィクトリアが「なぜ生まれ変わりたいの?」と聞くと、ジェニエニドッツは「いつまでもこんなとこいられないでしょ。」と言いました。彼女はゴキブリを食べながらヴィクトリアたちと一緒にコミカルに歌い踊ります。(『ザ・オールド・ガンビーキャット』)




しかしそこに自由奔放な性格のラム・タム・タガーが現れ、「歌は良かったけど、ちょっと古くないか?」とジェニエニドッツに声をかけました。ジェニエニドッツは彼を追い出そうとしますが、ラム・タム・タガーはヒップホップを歌いながら踊り始めると、ヴィクトリアをはじめ、多くの雌猫が彼に夢中になりました。ラム・タム・タガーと他の猫たちはアパートの外に出ていき、ジェニエニドッツは彼がハイトーンボイスで歌うので「あいつ去勢してる?だってあんな高い声が出てる。」と陰口を叩きます。そしてラム・タム・タガーはヴィクトリアら雌猫たちを街のミルクバーに連れていき、周囲は大いに盛り上がります。(『ザ・ラム・タム・タガー』)



ラム・タム・タガーが笑顔でミルクバーから出ると、ボロボロのコートを身に纏う老いた灰色の猫、グリザベラが路頭に立っていました。彼はグリザベラを嫌い、彼女に威嚇しながら立ち去っていきました。事情を知らないヴィクトリアはグリザベラに近づこうとすると、グリザベラは悲しい表情で歌い始めました。しかしカッサンドラがグリザベラの歌声を制止し歌を被らせます。カッサンドラや他のジェリクルの猫は嫌悪感を剥き出しにして睨みを効かせると、グリザベラは涙を流してその場から立ち去りました。ミストフェリーズとマンカストラップはグリザベラは元劇場のスター猫で数年前にマキャヴィティと手を組んで悪いことをしたことからジェリクルを追放された猫だとヴィクトリアに伝えます。


グリザベラが去ったあと、タキシードに白いスパッツを履いている太った紳士猫、バストファー・ジョーンズが現れます。ジェニエニドッツはバストファー・ジョーンズをあまり良く思っておらず、どうせジェリクルの選択には選ばれないと揶揄しますが、バストファー・ジョーンズはジェニエニドッツを置いて歌いながらヴィクトリアやマンカストラップらと共に歩きだしました。バストファー・ジョーンズは彼らは高級クラブへと向かいますが、路頭にいるジェニエニドッツの前にマキャヴィティがやって来ます。マキャヴィティはジェニエニドッツを騙すと、魔術で彼女を煙のように消し去りました。一同がクラブに行ったあと、裏のゴミ捨て場へと向かいます。バストファー・ジョーンズは普段は裕福で周りから親しまれている猫でしたが、夜はゴミ捨て場からゴミ捨て場をハシゴし、ゴミ箱に捨てられた生ゴミを美味しそうに食べていたのです。彼はダイエットをしていたものの、ゴミ捨て場をハシゴすることがやめられず、ゴミ箱の生ゴミを食べ続けた結果、肥満の体になっていました。(『バストファージョーンズ:ザ・キャット・アバウト・タウン』)



バストファー・ジョーンズはヴィクトリアとジェリクルの猫たちと共に食べ続けていましたが、そこにマキャヴィティが現れます。マキャヴィティの存在を知っているジェリクルの猫たちは驚き、ヴィクトリアを置き去りにして逃げてしまい、マキャヴィティは「腹ペコなんだろ?」と言って側にあったゴミ箱にバストファー・ジョーンズを誘い込みます。食欲に負けたバストファー・ジョーンズはゴミ箱に飛び込みますが、そのゴミ箱は魔術が働いているのか、マンガストラップら複数の猫が確認すると、バストファー・ジョーンズの姿は生ゴミごと消えていました。マキャヴィティも魔術でその場から姿を消しました。

ゴミ捨て場でひとりになったヴィクトリアの前に泥棒猫のカップル、マンゴジェリーとランペルティーザがゴミ捨て場にこっそり現れ、「ひとりは危ないよ。」とヴィクトリアに声をかけました。ヴィクトリアは「仲間がいる。」と主張しますが、ゴミ捨て場にはジェリクルの猫たちの姿はなく、2匹はヴィクトリアを誘って人間が住む邸宅の中へと入りました。2匹は日常的に泥棒稼業を楽しんでいて、人間の物を盗んでは家の中を荒らしていました。ヴィクトリアは2匹に勧められて豪華や真珠のネックレスや指輪、腕時計を着飾り、マンゴジェリーとランペルティーザと共に楽しそうに一通り荒らしていきます。(『マンゴジェリー・アンド・ランペルティーザ』)


しかし、3匹が人間の寝室で休んでいると、寝室の外から犬の鳴き声が聞こえてきました。邸宅内の飼い犬が物音に気づき、事態を知って3匹の前に現れようとしていたのです。逃げるのに慣れていたマンゴジェリーとランペルティーザは逃げ出し、ヴィクトリアも逃げようとしますが、首に身に着けていたネックレスがベッドのフレーム部分に引っ掛かってしまいます。2匹は逃げ遅れたヴィクトリアを置いて逃げて行きます。犬が部屋に入ろうとするなか、そこに手品猫のミストフェリーズがヴィクトリアを助けに家の中にやって来ます。ところが、ミストフェリーズは助けようとした矢先に転んでしまい、ヴィクトリアは自力でストラップを外しました。ヴィクトリアと立ち上がったミストフェリーズは犬が入らないよう寝室のドアを押さえると、ミストフェリーズは帽子から偶然にもゴミ捨て場にあった骨付き肉を取り出します。彼は骨付き肉を外に投げ入れ、なんとか犬の気を引かせました。2匹には淡い恋心が芽生えようとしていて、犬が部屋にやって来ると、2匹は慌てて家の外に脱出しました。

その頃、ジェニエニドッツとバストファー・ジョーンズはテムズ川に浮かぶはしけ船に拘束されていました。マキャヴィティは2匹を魔術で船へと連れ去り、誘拐させていたのです。状況が飲み込めず、舞踏会に行きたいと焦る2匹の前にマキャヴィティが現れます。マキャヴィティは今夜の舞踏会で自分が選ばれようと部下と共に悪事を働いていて、バストファー・ジョーンズを「白スパッツ猫」と呼ぶと、「選ばれるのは俺だ。競争相手はここに縛りつける。」と告げました。彼は殺し屋の猫、グロールタイガーに2匹を見張るよう命じ、煙のように姿を消しました。バストファー・ジョーンズは「侮辱をしたいだろうけど、私は気に入ってる。」と「白スパッツ猫」というあだ名が好きだとジェニエニドッツに話します。グロールタイガーは2匹を睨み付けると、歌いながら自己紹介しますが、「川の下から上まで"悪行"三昧だ。ついたあだ名は栄えある"テムズの悪魔"」と歌うと、バストファー・ジョーンズは「ちゃんと韻が踏んでない。"悪行"と"悪魔"じゃ最後の音が全然違う。」と指摘します。グロールタイガーが機嫌を損ねると、バストファー・ジョーンズは「あんたは敵に回しちゃいけない。」とさっきの発言を撤回します。


一方、ヴィクトリアとミストフェリーズは劇場の前で待っていたジェリクルの猫たちと合流します。マンカストラップが声をかけると、ヴィクトリアが腕に着けていた指輪に目をやりますが、ミストフェリーズが指輪は僕のものだと誤魔化し、ヴィクトリアを庇いました。舞踏会の時間になり、ジェリクルのリーダーで長老のデュトロノミーが来ようとしていました。デュトロノミーは長い歳月を生き続けていて、穏やかな顔をしている女性の猫でした。デュトロノミーが劇場の前に到着すると、ジェリクル・キャッツは長老に駆け寄り、神のように崇めました。長年付き合いがあったのか、劇場猫のガス(アスパラガス)がデュトロノミーに視線を送ります。(『オールドデュトロノミー』)

ジェリクルの猫たちは劇場の中に入り、ヴィクトリアもあとを追うように中に入ります。破られたガラス張りの天井には月の明かりが降り注いでいて、明かりに照らされている猫たちはデュトロノミーの前で歌い踊りました。ヴィクトリアはマンカストラップに手を引かれ、ミストフェリーズとペアを組み、皆と一緒に踊ります。その最中し、ラム・タム・タガー、プラトーとソクラテスらが舞踏会に参加し、長老にダンスを見せつけていましたが、グリザベラは見つからないよう劇場に入り、舞踏会の様子を見ていました。しかしカッサンドラらに見つかってしまい、グリザベラは寂しそうに劇場の壁の穴から立ち去りました。


舞踏会は順調に進み、ジェリクル・キャッツは踊り続けますが、ヴィクトリアはグリザベラのことを気になりだし、一旦劇場を抜け出しました。外には街灯に持たれかかり、悲しい顔を浮かべていて、グリザベラは弱々しい声で『メモリー』を歌い上げます。その歌を聞いたヴィクトリアはグリザベラに近寄り、手を差し伸べようとしますが、グリザベラは彼女から遠ざけようとします。そこでヴィクトリアは『ビューティフル・ゴースト』を歌い、今の自分の心情をグリザベラに伝えました。しかしグリザベラは静かにヴィクトリアの前から立ち去ります。デュトロノミーはそんな2人の様子を劇場の窓際に立って見ていて、幸せとは言葉では言い表せないものだと歌いながら訴えていました。ヴィクトリアが劇場に戻ってくると、デュトロノミーは「あなたは迷子?見かけない顔ね。」と声をかけました。ヴィクトリアは自分はよそ者で、人間に捨てられたと説明し、同情したデュトロノミーは「『ジェリクルの選択』に立ち会う?」と彼女に誘いました。ヴィクトリアはジェリクルではないと拒みますが、デュトロノミーは「まだ違うだけ。」と返します。

舞踏会はジェリクルの選択の時間がやって来ました。最初に自分の歌や踊りを発表するのは劇場猫のガスで、舞台に立つ直前、彼の応援をしに来たミストフェリーズがガスは猫皿に入ったミルクに口をつけ、音を立てながら飲んでいました。ミストフェリーズは複雑な心境になりつつもガスを励まし、ガスは舞台袖に行くと、舞台を楽しみにしているジェリクル・キャッツを確認しました。デュトロノミーに名前を呼ばれると、ガスは舞台上に行き、自己紹介をすると、全盛期の頃をユーモアを交えながら語りだします。彼がかつて『ファイアーフローフィドル』という荒れ地の悪魔の役を披露し、ミストフェリーズがこっそり手品で舞台を沸かせようとします。1度は失敗したものの、ミストフェリーズは見事に成功させ、ガスのパフォーマンスを観た猫たちは盛大に拍手しました。(『マジカル・ガス』『ガス:ザ・シアター・キャット』)ガスは「ワシもまだイケるな。」と言って舞台から立ち去りますが、舞台裏で「サインをいただけませんか?」と1匹の雄猫の声が聞こえてきました。ガスは導かれるように舞台裏に行きますが、その雄猫の正体はマキャヴィティであり、マキャヴィティはガスを煙のように消し去っていきます。


舞踏会はガスの出番を終え、次は髭を生やした鉄道猫のスキンブルシャンクスの出番となりました。ジェリクル・キャッツが見守るなか、スキンブルシャンクスは登場すると、材木の上に立ち、得意のタップダンスで猫たちを魅了させます。それから猫たちは盛り上がり、スキンブルシャンクスはデュトロノミーの前で回転させながら舞い上がりしますが、スキンブルシャンクスは何故か煙のように消えてしまいます。(『スキンブルシャンクス:ザ・レイルウェイキャット』)



すると突然マキャヴィティの高らかな笑い声が聞こえ、劇場の照明が暗くなると、天上から三日月の乗り物に乗ってセクシーな雌猫、ボンバルリーナが現れました。マキャヴィティの部下であるボンバルリーナはマタタビを持っていて、劇場に来ていたマンゴジェリーとランペルティーザもその部下でした。ボンバルリーナは三日月の乗り物についたレバーを引くと、マタタビを噴出させ、ジェリクル・キャッツの意識は朦朧となります。やがて彼女はマンゴジェリーとランペルティーザと一緒に持っていたマタタビをばら撒きながら踊り、マタタビを吸った猫たちは彼女らのパフォーマンスに合わせて踊り始めます。カッサンドラらがマタタビを吸わないよう長老のデュトロノミーとヴィクトリアを警護します。しかし船でグロールタイガーと共にグリドルボーンがヴィクトリアにマタタビをかけ、マンゴジェリーとランペルティーザと一緒に他にマタタビを吸っていない猫にマタタビを浴びせます。そしてマキャヴィティはタイミングを見計らうかのように劇場内に現れます。彼はボンバルリーナと共にパフォーマンスを披露すると、魔術で豪華なステージを作り上げ、デュトロノミーをそのステージの上へと移動させました。(『マキャヴィティ』)


ジェリクル・キャッツがマタタビの影響で倒れ込むなか、マキャヴィティは勝手に「ジェリクルの選択がなされる時が来た。ご覧の通り残っている候補者は俺だけだ。」と言い、自分を選ぶようデュトロノミーに迫ります。しかしデュトロノミーは頑なにそれを拒否しました。デュトロノミーは「新たな命を授かるのに相応しい猫じゃない。魂で判断するわ。」とあなたは相応しくないと主張しますが、怒ったマキャヴィティは手下とステージごとデュトロノミーを消え去り、彼女を船の上へと連れ去りました。デュトロノミーが辺りを見回すと、拘束されたジェニエニドッツとバストファー・ジョーンズ、ガス、スキンブルシャンクスがいました。マキャヴィティが自分を選ぶよう詰め寄ると、またしてもデュトロノミーに拒否され、マキャヴィティは自分を選ばない川に落とすと脅しをかけます。

劇場にいるジェリクル・キャッツは正気に戻り、デュトロノミーがいなくなったことに気づきます。彼らはマンゴジェリーとランペルティーザに詰め寄り、デュトロノミーの居場所を聞き出そうとしますが、2匹は長老を誘拐するのは聞いていないと主張します。ヴィクトリアの提案でジェリクル・キャッツは手品猫のミストフェリーズの魔術の力でデュトロノミーを助け出そうと考え、自信なさげなミストフェリーズは「無理だよ。」と断りますが、ジェリクルの猫たちは彼を励まし、舞台上に立たせます。ミストフェリーズは皆の前で手品を披露すると、デュトロノミーを呼び戻そうと挑戦しますが、何度も失敗してしまいます。それでもヴィクトリアやジェリクル・キャッツがミストフェリーズを励まし続け、ミストフェリーズは諦めずに挑戦を続けました。しかしデュトロノミーは戻ってきません。一同が暗い表情を浮かべていた矢先、どこからかデュトロノミーの歌声が聞こえてきました。デュトロノミーが劇場に戻ってきたのです。ジェリクル・キャッツはデュトロノミーを助け出すのに成功したミストフェリーズを称え、ミストフェリーズは帽子から大量のトランプを出したり瞬間移動マジックを披露したりして劇場を沸き立たせました。(『ミスター・ミストフェリーズ』)


その頃、マキャヴィティは船から突然デュトロノミーがいなくなったのを見て驚き、「絶対に俺が天上に行ってやる!」と言ってボンバルリーナと一緒に再び劇場へと向かいました。その隙に拘束されていた猫たちは動き出します。ジェニエニドッツは上に着ていた毛皮を脱ぎ、拘束を解くと、バストファー・ジョーンズを救いだし、バストファー・ジョーンズがガスとスキンブルシャンクスを救出します。4匹の猫は協力してグロールタイガーを船首の板の上に追いやると、ガスが全盛期の荒れ地の悪魔の役で彼を驚かせ、川に落としました。ランペルティーザは降伏するしかなく、3匹はグロールタイガーをやっつけたガスを称えます。



一方、ヴィクトリアはグリザベラがこっそりと劇場の様子を覗いているのを見かけます。外に行くと、立ち去ろうとするグリザベラの姿がありました。ヴィクトリアは『メモリー』を歌いだし、グリザベラを励ますと、彼女を劇場の中へと連れていきます。ジェリクル・キャッツが嫌悪感を剥き出しにして睨み付けるなか、ヴィクトリアは歌を歌うようグリザベラに促しました。グリザベラが弱々しい声でデュトロノミーやジェリクル・キャッツの前で歌い、その歌声はジェリクル・キャッツの心に響き、嫌悪感を剥き出しにしていた彼らの表情が穏やかな表情へと変わっていきます。なかには歌声を聞いて感動するあまり涙を流す猫もいました。グリザベラが『メモリー』を歌いきると、デュトロノミーは彼女に近づき、「天上に行くのはあなたよ。」と告げました。グリザベラはヴィクトリアに礼を言います。

ジェリクル・キャッツは長老に選ばれたグリザベラを祝福し、グリザベラは長老のデュトロノミーの手に引かれ、劇場内の気球に乗り込みました。ミストフェリーズが自分の魔術で気球を浮き上がらせます。グリザベラを乗せた気球は空高く飛び、天上に旅立とうとしますが、劇場の屋根で待ち構えていたマキャヴィティが気球にしがみつき、天上に行こうとしました。しかし長い間しがみつくことは出来ず、トラファルガー広場にあるホレーショ・ネルソン提督の記念碑の頭上に落ちてしまいます。マキャヴィティは哀れにも魔術で自分の姿を消し、逃げることができず、怖くて記念碑から降りることができません。




ジェリクル・キャッツがトラファルガー広場に出ると、脱出に成功したジェニエニドッツ、バストファー・ジョーンズ、ガス、スキンブルシャンクスと再会を果たしました。ヴィクトリア、ミストフェリーズ、マンカストラップ、デュトロノミーはライオン像に立ち、他の猫たちが像の下で並ぶと、歌い踊りながらグリザベラを見送りました。

ここでデュトロノミーが観客の前に語りかけます。彼女は「もうすっかりお分かりいただけたでしょう。猫はあなたによく似てる。」と告げると、「猫は犬と違う。」と言い聞かせ、一同は長老に合わせて歌い上げます。更にデュトロノミーは猫に挨拶する時は敬意を払い、猫には敬意を受ける資格があると語りかけ、一同は大合唱しました。(『ザ・アドレッシング・オブ・キャッツ』)像の下にいるジェリクル・キャッツは退場し、ヴィクトリアとミストフェリーズがお互い親密に頭をすり付けると、マンカストラップは笑顔で見つめ、ミストフェリーズとマンカストラップも退場します。


ライオン像の上にはヴィクトリアとデュトロノミーが残っていました。デュトロノミーは「正真正銘、あなたはジェリクル・キャッツよ。」と告げ、ヴィクトリアを仲間として迎えいれました。ヴィクトリアは安心しきった表情を浮かべると、2匹はお互いに頭をすり付けました。グリザベラを乗せた気球は雲の向こうへと消えていきました。

THE END



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感想
この映画は『レ・ミゼラブル(2012)』『英国王のスピーチ』などで知られるトム・フーパー監督によるイギリスの詩人、T・S・エリオットの詩集を元にした同名ミュージカルを原作とした実写ミュージカル映画。スティーブン・スピルバーグ、アンドリュー・ロイド=ウェバーが製作を務め、アメリカで公開された最低映画を決める第40回(2020年)ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)で作品賞を含め最多6部門を受賞しています。

映画自体は日本でも世界でも酷評されていて、これは傑作でも駄作だったとしても観ておこうかと考えてはいたのですが、出演している俳優やダンサー、スタッフが頑張ってやっているし、パフォーマンスには問題が無かったのに猫のビジュアルやストーリーに難があり、真面目にミュージカルを観たい人には非常にオススメし難い作品となっていました。個人的には初見の時は引きはしましたが、序盤あたりにあるジェニエニドッツのパートを耐えればなんとか観れるかなと思いました。

物語は人間によりロンドンの路地裏捨てられた美しい白猫、ヴィクトリアがジェリクルの部族『ジェリクル・キャッツ』と出会い、年に1度しか開かれないジェリクルの舞踏会に参加する様子が描かれていきます。映画版では舞台版と違ってストーリーテリングや構成が多少改変されていて、舞台を観劇してなくても十分に楽しめる作りになっています。

まず日本語吹き替え版に関してですが、字幕版と負けず劣らずの素晴らしい出来で、舞台版を観劇した人でも観劇していない人でも先に日本語吹き替え版を観賞したほうがこの映画の魅力を存分に味わえるかもしれません。葵わかな、山崎育三郎、森崎ウィン、秋山竜次(ロバート)、大竹しのぶ、山寺宏一など非常に豪華な顔ぶれが揃っていて、映画の欠点をしっかりカバーしていました。少なくとも山寺宏一さんや沢城みゆきさんなどの人気声優のパフォーマンスは抜群の安定感があり、安心して聞けるのですが、特にラム・タム・タガーの吹き替えを担当したOfficial髭男dismの藤原聡とバストファー・ジョーンズの吹き替えを担当したロバートの秋山さんははまり役で、後者のロバートの秋山さんなんかはバストファー・ジョーンズがシーソーみたいな場所で手下の猫に複数の猫を落として自分を飛ばすよう頼むくだりだったりグロールタイガーに韻を踏んでないと指摘するだったりコメディ的な見せ場が生かされていて、なかなか良かったです。

また、パフォーマンスや楽曲自体は一部非常に好ましいところがあり、猫のビジュアルやストーリーテリングを気にしないでいれば思ってたよりも楽しめます。作中のパフォーマンスのなかで1番精度が高く、純粋に盛り上がれたのは鉄道猫、スキンブルシャンクスのパートであり、レールに見立てた材木の上でタップダンスを披露するくだりはただただ単純に映像に引き込まれ、スキンブルシャンクス役のダンサーの力量が感じさせられる作りとなっていました。そのうえでデジタル技術でスキンブルシャンクスとジェリクル・キャッツのいる場所が劇場から線路の上、線路の上から列車の中へと変化する映像表現は面白く、列車の中で一同が踊るシーンで劇場にいるはずがないネズミが慌てて逃げだすユーモアな描写にはクスッと笑みがこぼれました。

ただ、ミュージカル映画としては非常に頑張っていて、魅力に溢れた作品なのに総合的に絶賛し難い作品にはなっていました。これが今年のゴールデン・ラズベリー賞を獲ったのは当然の結果だし、最低限作品の要所要所を改善していれば世界から不評を受けることは無かったのにと思いました。例えば序盤あたりのジェニエニドッツのパートでネズミ人間とゴキブリ人間が出てくるところでしょうか。ネズミ人間は辛うじて顔がリアルでも可愛いんだけど、ゴキブリ人間はビジュアルがヤバ過ぎて初見の時は思わずDVDプレーヤーの一時停止を押そうか悩むほどでした。これでも2回目の観賞の時はすっかり慣れちゃったのですが、ジェニエニドッツがゴキブリ人間を食べる様子は大変悪趣味であり、ゴキブリ人間は食べられる前に平然と猫たちと一緒に踊るので奇妙としか言いようがないです。或いは楽曲の時間が長いせいなのか、やたらとテンポの悪さが目立つ箇所もありました。特に手品猫のミストフェリーズがさらわれたデュトロノミーを呼び戻すために自分の魔術でそれを挑戦するシークエンスはスマートさに欠けていて、あまりのテンポの悪さにデュトロノミーが劇場に戻り、ジェリクル・キャッツがミストフェリーズを称えるくだりでも長いと感じてしまいました。或いはラストでデュトロノミーが第四の壁を壊して観客に語りかけるくだりは舞台版ならまだ成立できるんだけど、明らかにテンポの悪さを助長させていて、はっきり言ってジェリクル・キャッツがグリザベラの乗る気球を見送る描写で終わっても悪くなかったんじゃないかと感じました。

それとCG・VFXで作られた猫のビジュアルはこれも観賞した時には慣れたものの、悪い意味でインパクトが高く、生々しくし過ぎてるので親しみやすさが全くない見立てとなっていました。もちろん、猫のなかにはラム・タム・タガーはガスやスキンブルシャンクスのように服を着ていたりラム・タム・タガーのように他の猫たちと比べると毛並みがフサフサしていたりする猫もいましたが、特に悪役のマキャヴィティは悪役らしいかっこ良さよりも服を脱いだときのビジュアルが完全にイドリス・エルバの肌に似ているどころか、裸に近いフォルムになっていて見るに堪えませんでした。ちなみに個人的にはヴィクトリアやマキャヴィティの部下、ボンバルリーナは裸に近いフォルムだったとしても可愛さ、セクシーさが目立っていて、ビジュアルは結構似合ってた印象がありました。

あと、多くの人がご指摘されてるかと思いますが、ストーリーテリング上は全体的に楽曲が猫の自己紹介ソングで大半を占めていることでしょう。舞台版の楽曲自体が元々そういうものだから仕方ないかもしれませんが、バランス良くドラマ部分を入れて工夫を凝らさないと観客からストーリーが無いと言われるのは当然かなと思いました。加えて『ジェリクルの選択』でグリザベラがデュトロノミーに選ばれ、気球に乗って天上に行くという結末は舞台通りの結末でなおかつ製作者がやろうとしていることはなんとなく分からなくもないんだけど、パフォーマンスや楽曲で見受けられる娯楽性があったとしてもメッセージ性が非常に低く、製作者側が伝えたいメッセージをストレートに説明的に描写させないとグリザベラが天上に行くメリットが伝わりづらい感じでした。

あとは初見の時は大して気にはならなかったのですが、演出面だと所々長回しでスムーズに見せているシーンが少なく、無駄なカット割りが入れられているのも納得できませんでした。先述のスキンブルシャンクスのタップダンスはパフォーマンスとしては優れているのに彼がタップダンスをする引きの画、スキンブルシャンクスの顔のアップ、足のアップ、スキンブルシャンクスの足に釘付けになるヴィクトリアの画をカットバックで見せていて、カットバックで見せずに敢えて長回しで見せてほしかったなあと感じました。

それでもダメなところがあるのに決して嫌いにはなれないのはクライマックスでグリザベラが歌う『メモリー』はジェニファー・ハドソン版と高橋あずみ版、両方とも素晴らしく、観ていて鳥肌が立ち、間違いなく感動するシーンに仕上がっていました。グリザベラの心情はこれでもかと伝わってくるだけでなく、彼女の歌を聴いてリアクションを取るマンカストラップやカッサンドラの表情をちゃんと捉えていて、まさに名シーンと言っても過言ではないです。

ということで、舞台版は未読なんですが、日本語吹き替え版も字幕版もそれなりにミュージカル映画として楽しめるところはあったし、欠点があってもどこか嫌いになれないタイプの作品でした。しかし日本だけでなく、世界から酷評され、今年のゴールデン・ラズベリー賞で賞を獲るのを頷ける完成度であることは間違いなく、今年の映画のなかでは良くも悪くも奇妙な映画だろうと思いました。それでも突っ込みながら楽しめると思うし、VFXでリアルに作られた猫のビジュアルは慣れたらなんとか観れる程度のものだったので興味のある人だけ是非ともレンタルや配信で観賞してみてください。