今回は一見すると、人間の命と身体を奪うスキンウォーカーのSFスリラーだけど、中身はスキンウォーカーの悲劇を描いた倫理的な恋愛ドラマ映画を紹介します。



スキンウォーカー(寄生体XXX)

主演:ローラ・バーク

出演:ジャック・フォーリー/エリツァ・バコ/サム・ホワイト/レイチェル・ヴァンデュサー/スティーブ・カサン/マーク・レインメーカー/アダム・ブラー/ピーター・ハギンソン/ブライアン・キンテロ

・あらすじ(ネタバレ)

エミリーという女性が裸のままベッドで目覚めました。隣にはミイラのような女性の死体が横になっていましたが、本物のエミリーは死体になっている女性のほうでした。偽の女性は起き上がると、エミリーが二日酔いだったことを理解し、鏡の前に立って自分の身体を確かめます。胸元は血塗れで、脇腹には刺されたような傷がありました。寝室には赤く染まったナイフが落ちていました。(エミリーと生き物がどうしてこうなったのかは不明。恐らくエミリーにナイフで切り裂かれた可能性がある。)


エミリーの身体を乗っ取っていたその生き物は男性で、その生き物はエミリーの死体を解体し、シャワーを浴びて血を流します。彼は「分かってはいるが、こうするしかないんだ。生き延びることは仕事するのと同じだ。同じ作業が繰り返され、必要とされる。」と心の中で語り、普段着に着替えると、死体をビニール袋に詰め、人気のない農場で死体を燃やします。そしてエミリーの人骨と灰を手押し車に詰め込むと、農場の物置へと運び、その中にある深い穴に人骨と灰を捨てました。彼は自分は孤独な存在だと理解したうえで本物の愛が心の中にあると認識していましたが、それはエミリーが抱えた愛(他人による愛)でしかありません。

生き物はエミリーの姿のままカフェに行き、所持品の手帳を開くと、「私はエミリー・ロバーツ。エミリー。」と呟きます。店の外で見覚えのある女性を目にしますが、生き物はエミリーの自宅に帰ります。"エミリー"は自分の家に何があるのかをよく理解していました。

自宅でタバコを吸い、大音量の音楽を流していると、くつろいでいた彼女の前にパートナーのジェームズが現れました。ジェームズは警察に捜索願いを出したと告げ、"エミリー"は平静を装おうとしますが、ジェームズはエミリーが無事帰ってきたと警察に電話しようとします。"エミリー"が「誰にかけるの?」と聞くと、ジェームズは「君が戻ってきたと警察に言う。3日間も姿を消してた。連絡もせずにな。」と説明します。"エミリー"は何日も寝ていたのか、内心驚き、彼の気を変えようと服を脱がせようとしますが、ジェームズは拒みます。生き物にとっては都合が悪く、栓抜きを手にすると、ジェームズの首に突き立てて殺しました。"エミリー"は手慣れた様子で殺害したジェームズの身体をビニールで包むと、床の血を掃除し、痕跡を片付けました。

それから"エミリー"は何事も無く家で生活していましたが、脇腹の傷は開いたままで、腕やうなじの皮膚が腐りかけていることに気づきました。生き物は若い頃は新たに得た体で数年程度は平気で生活出来ていたが、時と共に1つの体が使える時間が縮まるようになり、今は6時間程度しか持たないと語ります。時間があれば慎重に新たな相手を選びますが、時間が無ければ相手を選ぶ余裕はありません。

エミリーの家に刑事のフレディ・ランソンが訪ねて来ました。ランソンはジェームズからエミリーに捜索願が出ていたため、様子を見に現れたのです。彼はジェームズと話がしたいと告げますが、対応した"エミリー"は「私がお話します。」と言って刑事を家に招き入れました。彼女はコーヒーを勧め、ランソンが「今までどこにいたのですか?」と聞くと、"エミリー"は「ごめんなさい、話せる気分じゃなくて…」と言います。ランソンは「無事に何よりです。」と口にしたものの、"エミリー"は突然ランソンの両手を掴み、力を振り絞ると、ランソンは苦しみ始め、顔は醜く変貌しました。



前は"エミリー"だったその生き物は新たな身体を得ることに成功し、ランソンはミイラのような死体になっていました。そして生き物はランソンの衣服を身につけると、「私はランソンです。刑事のフレディ・ランソンです。」と呟き、拳銃を見てニヤつきました。この"生き物"は接触した人間の命だけでなく、姿も記憶も乗っ取って長年生き続けていました。奪った身体が腐敗すると捨て、新たな人間に乗り換えるのです。


ランソンになった"生き物"はエミリーの家からハンマーと灯油を手にすると、ミイラ化したランソンの死体をハンマーで砕き、ぽろぽろと落ちた彼の歯を身元判明を防ぐために回収し、家じゅうに灯油を撒いて火を放ちました。家の前には配達の男が現れ、素通りしようとしますが、配達の男が呼び止めようとしてきたのでお届け物を受け取り、荷物を持って車で立ち去りました。

夜、生き物は車の無線を切り、雨が降る夜道を走らせていました。早く身体を乗り換えるには腐敗が必要でしたが、腐敗を遅らせるには痛み止めや抗生物質、コカインが必要でした。彼はランソンの記憶を頼りに麻薬の売人からコカインを奪いました。コカインを摂取したあと、生き物はある女性のことを思い続けます。その後、生き物は『モナーク酒場』という酒場に向かいました。到着すると、酒場の前にいる犬のマックスが近寄り、生き物は「また会えて嬉しいよ。元気にしてたか?」と言って可愛がります。

店内に入ると、生き物はセラピストのロバートとすれ違い、カウンター席にひとりで座る女性の隣に座ります。そしてウイスキーと彼女のためにジントニックを注文すると、女性は初対面であるランソンに「なぜ私の好みを知ってるの?」と尋ねます。ランソンである生き物は「超能力さ。」と冗談を言います。これをきっかけにお互いに話し始め、2人は打ち解けると、酒場のバーテンダーであるジェンが女性を心配しました。"ランソン"は「実は警察官なんだ。」と警察手帳を見せ、怪しいものではないと伝え、自分の名前を名乗ったあと、女性はジュリアだと名乗りました。"ランソン"は「私は職業柄、部屋で一番興味を引くものに気づくよう訓練されてるんだ。」と言い、ジュリアが「私に興味があったから話しかけてきたの?」と聞くと、"ランソン"は「そうだよ。他に話せる人はいるか?」と認めます。生き物は心の中で「君に会いたかったんだ。」と呟きます。生き物にとってジュリアは大切な存在でした。


意気投合した"ランソン"とジュリアはバーを出ると、濃厚なキスを交わしていましたが、"ランソン"は急に脇腹を押さえて体の痛みを訴えました。体の異変に気づき、"ランソン"は心配する彼女に「逃げろ!」と言い出し、ジュリアは慌てて立ち去りました。今までは新たな身体に乗り換えた際に前の身体の傷は残らないでいましたが、今ではエミリーの身体にあった脇腹の傷が残り、腐敗が始まっていたのです。苦しみ悶えていた"ランソン"は酒場の周辺を徘徊した末、2人の男女が乗っている車を見つけます。

"ランソン"はレイチェル・マーティンという若い女とサム・リチャードソンという中年の男に警察手帳を見せ、銃を突きつけると、レイチェルを立ち去らせ、サムの車に乗り込みます。サムは「とにかく困るんだ。妻と子供が家で待ってるんだよ。」と言いますが、"ランソン"は「こうしなければ俺は死ぬ。まだ死にたくない。だから代わりに死んでもらう。」と告げます。サムは抵抗したものの、"ランソン"は「すまない。」と言ってサムの両手を掴み、乗り換えました。


サムの身体を手に入れた生き物は処分しようとサムの死体をハンマーで打ち砕こうとしますが、そこにサムの家族から電話がかかってきました。仕方なくすかさず死体の処分を終え、クリスマスの飾りつけを施したサムの自宅へと戻りました。彼は「こんな家に住む人間は一生変わらない。根を深く下ろし、快適さに埋もれていく。妬ましさから味わってみたくなった。」と語ります。生き物は人間が定住して営む安定な生活に憧れていました。家に入ると、不機嫌そうなサムの妻の姿があり、子供部屋には小学生くらいの娘がベッドで寝ていました。彼は寝室で妻と背中合わせで就寝しました。

翌朝、彼の娘がサムを叩き起こしますが、"サム"は「どきやがれ!」と怒鳴り、サムの娘は母親のほうへと向かっていきました。"サム"は起き上がって居間に行き、妻に朝食を勧められますが、"サム"は脇腹を押さえ、妻子を残して早々と出勤しました。



職場である歯科医院に行くと、彼の部下だったレイチェルが働いていました。生き物はレイチェルが昨夜車内でサムと話していた女だと把握しており、全てを理解して行動しました。彼は個室に行き、椅子に座るティムという少年に治療をし、いつも通り親切丁寧に少年と接しました。長年生きていた生き物にとっては今まで繰り返し行っていた行為に過ぎず、いつものようにレストランに行きました。

"サム"はレストランで昼食を取りましたが、店の外でジュリアが歩いているのを見かけます。そのうちジュリアは自分の車に乗り、"サム"はタクシーで彼女を追跡しようとしますが、女性運転手に怪しまれ、拒否されるのでした。あのあと、"サム"は映画館に行き、前の席で映画を観賞しました。彼は「映画は人生の大切な一部だ。暗闇にいるとなんだか癒される気がする。」と語ります。足を椅子の上に乗せ、大声でゲラケラと笑っていたため、後ろの席にいた若者に物を投げつけられます。


"サム"は夕方に帰宅し、サムの家族と食卓を囲みました。しかし家族の会話を聞いていた彼には寂しさや虚しさが残り、妻と子供を残していつもの酒場に向かいました。彼は「本当の家族から残されたものはひとつだけ。唯一変わらないものだ。あとは記憶だけだ。」と乗っ取っていた人物の家族の記憶をただ積み重ねていると語ります。"サム"がいつもジュリアが座るカウンター席で飲んでいると、ジュリアが隣の席にやって来ました。ジュリアが「若い子と一緒だったでしょ?」と聞くと、"サム"は左手の指輪を見せ、「ちょっとした過ちってやつさ。」と応えます。


"サム"が「家族から逃げたかったんだ。時々逃げたくなる。」と明かすと、ジュリアは「家族を愛してるんでしょ?それなら必ず戻ったほうがいい。」と勧め、「私も家族から逃げたいと思ってた。今ならずっと一緒にいるわ。」と気持ちを抑えながら言います。"サム"が「何があったんだ?」と聞くと、彼女は"サム"に身の上話を語り始めます。彼女にはかつて夫のリチャードと息子のテイラーがいました。しかしテイラーは数年前に百日咳の合併症で3歳でこの世を去り、その後彼女は息子の死を受け入れ、リチャードと辛い日々を過ごしていました。そんなある日、リチャードは妻のために自宅に豪華なディナーを用意していました。ジュリア自身は今夜だけ忘れて楽しもうと思い、改めて夫への愛と絆を確認しましたが、その夜、リチャードは別れの言葉も言わずに姿を消しました。ジュリア曰く「あの晩が彼なりのお別れだった。」と言い、リチャードにとっては悲しみを乗り越えるにはこうするしかなかったのだろうと思っていました。その話を聞いた"サム"は彼女の言葉を噛み締め、彼女に「一杯おごろう。」と告げます。ジュリアは「あなたはなぜ逃げたいと思うの?」と"サム"に聞きました。"サム"は「不安でこの先どうすべきか分からないんだ。」と応えます。ジュリアから「自分はいい人だと思わないの?」と聞かれると、"サム"は「いい人であることは大事なことのか?現実をよく見てみろ、いい人にも悪い事が起きるんだ。」と応えます。ジュリアは「だけど、あなたの存在自体は悪いことじゃない。」と言い、生き物は励まされたような気持ちになります。

生き物はジュリアとお互いに心の内を曝け出すことが出来ましたが、トイレに行った際にサムの身体の腐敗が始まったことに気づきます。トイレを出たあと、"サム"はお会計を済ませると、平静を装ってジュリアに別れを告げ、酒場をあとにしました。

その後、"サム"はモーテルの一室に泊まり、腐敗を遅らせるためにコカインを使用しますが、腐敗はどんどん進行していきます。やがて彼は数十分ほど寝てしまい、気がつけば顔にも腐敗が進んでいました。やむ無く"サム"はレイチェルに電話し、妻と揉めたから話し相手になってほしいと彼女を呼び出します。レイチェルが呆れた顔で部屋を訪ね、「こんな夜中に女を呼び出すなんて最低よ。昇給も考えて。」と文句を言いました。そして中に入ると、そこには体力的に辛くなり、横になっていた"サム"がいました。レイチェルは薬物の過剰摂取だと思い、心配して"サム"の身体に手を伸ばそうとしましたが、"サム"はレイチェルに乗り換え、レイチェルの姿になりました。生き物は今回の乗り換えに対して「いつもよりも苦痛を感じた。死ぬかと思った。」と振り返ります。痛み止めを服用したものの、生き物は抗生物質のほうが痛み止めよりも腐敗を抑えられると判断し、パートナーのトミーからの電話に対応しました。トミーに「どこに行ってるんだ?」と聞かれると、レイチェルは「頭痛がして開いてる薬局に行ってた。すぐに戻るから。」と応えます。



電話を終え、携帯の電源を切ると、ミイラと化したレイチェルの死体を袋に詰めて運び、自分の車で以前と同じ農場に行くと、袋ごと死体を燃やし、人骨と灰を倉庫の中に処分しました。しかし処分後、死体を焼いたことで出た煙に気づいた近隣住民のコリーンが「煙が見えるけど何を燃やしてるの?」と別の住民が焼いたと思い呼び掛けていました。レイチェルは呼び掛けを無視してなんとか倉庫から出ましたが、逃げる時にその姿を目撃されてしまいます。レイチェルの姿をした生き物は職場の歯科医院で抗生物質を手に入れると、同僚に中指を立てて去っていき、自宅に行くと、抗生物質を服用し、色気のある肩出しニットワンピに着替えていつもの酒場に向かいました。生き物は酒場の前にいるマックスに会い、マックスは容姿が変わっても生き物に懐いていましたが、トミーが彼女の行動を尾行していました。

上着を脱ぎ、"レイチェル"はいつものようにカウンターにいたジュリアの隣の席に座りました"ジュリアは彼女の肩を露出した服装を見て「バーにその格好だと学生には見えない。でも素敵よ。」と驚いたものの、同性同士の2人はすぐに打ち解けました。ジュリアは「家ではあまり書けなくて、静か過ぎてダメなの。」と言い、酒場のような騒がしい場所で書き物をしないと無理だと話し、"レイチェル"から「あなたって作家なの?」と聞かれると、ジュリアは「書くのが好きなの。考えるのをまとめられる。」と応え、セラピストからの提案で人生にあった多くの出来事を本にしようとしていると言います。2人は名乗り合いますが、生き物は今の身体であるレイチェルではなく"ドリュー"という名前で名乗りました。

ジュリアは"レイチェル"が数日前に中年の男と一緒にいたことを指摘し、「この店には変化がないの。変わるのは人だけ。私はよく来るから知らない顔はよく分かってる。」とこの酒場の話をしました。すると"レイチェル"は「この店を気に入った。日常とは違って変わらない良さがあるから。」と話し、その言葉にジュリアは"レイチェル"と意気投合し、乾杯しました。しかし"レイチェル"は「ここは何十年経っても変わってないの。70年代の頃は…」と口にし、ジュリアは「あなた学生でしょ。」と驚きます。ジュリアは「あなた、悲しい目をしてる。ここへは楽しみには来たんじゃないのね。事情は知らないけど、何かあったのね。」と告げ、その言葉に生き物は動揺します。そしてジュリアは「誰かに話したいことがあれば、この住所のところに来て。」と言ってカウンセラーである彼女自身の事務所の名刺を"レイチェル"に渡しました。


その直後、ジョンという男性が"レイチェル"に言い寄って来ました。ジュリアはジョンに席を譲り、"レイチェル"と別れてロバートのいるテーブル席に移動しました。"レイチェル"の姿である生き物はジョンの話に付き合いますが、男性である生き物にとっては彼の態度はうざったく感じ、ジョンの話よりもジュリアのことが気になっていました。"レイチェル"がジョンの話を聞かずに視線を逸らしていると、TVニュースを見て驚きました。警察があの農場で無数の遺骸を発見していた事実と目撃されたレイチェルの似顔絵が伝えられていたのです。危機感を感じた"レイチェル"はトイレでコカインを吸ったあと、酒場をあとにし、ジョンのアパートに行きました。



生き物はたまに女性に乗り換わって生活するときは異性と関係を結び、楽しいと思うことがありましたが、今回は楽しいと感じていませんでした。"レイチェル"はジョンと唇と重ね合いますが、途中で止めてコカインを服用しました。しかしジョンは"レイチェル"の身体を求めようと焦らして彼女の首元にキスを仕掛けてきます。やがて彼が「やらせてくれ。」と言って"レイチェル"の唇を奪うと、"レイチェル"は彼を突き飛ばし、逆行した彼と争いました。そして"レイチェル"はナイフを持ち、瀕死の重傷を負ったジョンを階段の踊り場のほうまで追い込むと、馬乗りをして彼を刺殺しました。


"レイチェル"は彼の自宅に戻り、荷物から自分の衣服を取り出して着替えますが、近隣住民がジョンの遺体を見てしまいます。ジョンの自宅から出ると、階段の踊り場で警察に通報した住民と出会したものの、なんとかアパートをあとにしましたが、駆けつけた警官に追われます。"レイチェル"は警察の目を盗み、近くの倉庫に身を隠します。生き物は町の警察を嘲笑い、この場所で一夜を過ごしました。朝になり、犬のマックスが倉庫にいるなか、生き物はレイチェルの身体もだんだん腐敗していることに気づきます。

その直後、レイチェルのパートナーであるトミーが倉庫にやって来ます。しかし生き物は次に乗っ取る相手が容疑者にされたレイチェルの恋人は人目を引くために相応しくないと判断します。"レイチェル"は側にあったバットで怒り狂う彼を殴ると 、咄嗟に倉庫に出て停車している車の後ろに隠れました。見つかりそうになりますが、トラックの荷台に移動して身を隠したことで上手く撒くことができました。この時、生き物はこのままジュリアを誤魔化し続けるのか、それとも自分が人間じゃない違う生き物である事実と向き合うと悩んでいました。彼は脇腹を押さえて痛がっていると、ジュリアから貰った名刺を思い出し、自分の正体を話そうかと考えます。


"レイチェル"はジュリアの事務所の前まで訪れますが、丁度ジュリアとセラピストのロバートが事務所から出てきました。彼女は2人を尾行し、カフェでランチを食べる2人を固唾を飲んで見ていましたが、レイチェルの身体の腐敗はかなり進み、腐敗した箇所から膿のようなものが出ていました。生き物は焦りを覚えます。


"レイチェル"が尾行を続けるうちにようやくロバートとジュリアは別れました。"レイチェル"はセラピストのあとをつけ、彼が自宅に入るところを確認すると、ノースリーブ姿でロバートの自宅を訪ね、ロバートの前に現れました。生き物はロバートの身体と記憶を手に入れると、ジュリアに連絡を入れました。彼は「さっき会ったばかりだけど、君のことばかり考えてるんだ。」と言い、自分とジュリアの関係を進めるため、2人きりになれる場所を作りたいと彼女に頼みました。ジュリアは了承し、"ロバート"はジュリアの家を訪れることにしました。

その夜、ロバートの姿をした生き物は初めてジュリアの家の中に入ります。部屋は綺麗に片付けられており、過去を思い出さないようにテイラーの写真が伏せられていました。ジュリアはレコードを流し、"ロバート"は彼女に言われて白ワインを開けてグラスに注ぐと、笑みを浮かべる彼女を見て微笑みました。2人は自分たちのこれからの可能性に乾杯します。ジュリアは"ロバート"に「あなたには懐かしさを感じるの。どうしてだろう?」と問いかけました。その言葉に"ロバート"は「人は絆で繋がる時、本当の絆で繋がるんだよ。懐かしさや居心地の良さをね。」と彼女に教えます。彼女が「私たちにもある?」と聞くと、"ロバート"は「いや、僕らは…魂で繋がってるんだ。」と返します。ジュリアは彼の言葉に失笑し、「私たちふたりはこれから何を望む?」と聞きました。"ロバート"は「繋がりだ。」と応え、2人は互いの愛情と絆を確認してキスを交わしました。このまま肌を重ねようとしたジュリアは"ロバート"の上の服を脱がしますが、"ロバート"の脇腹の傷に気づきます。生き物は何とか言い訳し、次第に2人はベッドの上で肌を重ね、愛し合いました。


翌朝、"ロバート"は先に起床して朝食を作っていました。ジュリアは台所の物音で目覚め、"ロバート"が朝食を作っていたことに驚きます。"ロバート"は料理が得意だと明かした上で「今まであまりなかっただろ?僕が変えるよ。」と言いました。こうして、生き物はロバートの姿のままジュリアと恋愛関係を結ぶのことができました。これまで何十年もひとりぼっちのクリスマスを過ごしてきた彼は「人との付き合いで大切なのは数ではなく質だったんだ。どんな時でも。」と振り返ります。

数日後、デートから帰宅すると、生き物はずっと自宅に隠してきたロバートの死体をバラバラにすると、ゴミ袋に詰め、人が通らない河川敷に密かに捨てました。そして彼は子供時代の頃を振り返り、「死んだときに母が言っていた。「命にはいつか終わりが来る。」「永遠に続くものはない。」と。その時はこの言葉を信じなかったが、今なら分かる。「やがて全てが終わる。今が大切だ。」」と語ります。生き物は何日かは抗生物質の薬を服用し続け、ジュリアとの生活を維持しようとしました。

ところが、そんなある日のこと、TVニュースは生き物が乗り換えた人々の遺骸を処分したと農場の捜査の進展を伝えていました。警察は農場の倉庫に遺骸が発見されたことから『死の農場事件』と呼ばれており、地元住民のコリーンが通報したことがきっかけで倉庫の遺骸の発見に繋がったのですが、倉庫に収容された何十人もの遺骸のなかから被害者である6人の身元が発見され、容疑者であるレイチェルも河原で見つかり、捜査は打ち切りになったとのことでした。"ロバート"とジュリアはこのニュースを見ていました。"ロバート"は「こんなものがテレビでやってると映画みたいに遠くに感じるよ。」と言って話題を変えようとしましたが、
ジュリアは被害者のなかに酒場で話したことのある人物が何人かいたと伝えます。"ロバート"は恐怖を感じるジュリアに「今、ここでの生活が大切なんだ。」と言い聞かせ、ジュリアが「ただ恐ろしいの。」と告げると、"ロバート"は「僕が君を守るから。だから約束するよ。」と言って優しく抱き締めました。


この報道で生き物は葛藤し、抗生物質の薬を飲みながらジュリアと日々を過ごしていました。しかしある日、ジュリアが外出の準備をしている間、"ロバート"は洗面所で歯磨きをしていましたが、生き物はロバートの身体に腐敗が始まったことに気づきます。やがて"ロバート"は脇腹を押さえると、体調を崩し、一旦洗面所の鍵を閉めました。ジュリアは彼に「大丈夫?」と心配の声をかけ、"ロバート"は「大丈夫。何でもない。」と応えると、考えた末、意を決してジュリアに自分の正体を明かすことにしました。

洗面所から出ると、"ロバート"はジュリアをソファーに座らせました。彼は「これは初めて人に話す。」と話を切り出し、「あれは12歳の時だった。僕のせいで母が死んだんだ。その時は子供だったからよく分からなかったんだ。いわば事故だった。」と子供時代の話をします。ジュリアは「責任を感じるのね。それって昔のことでしょ?」と話しますが、"ロバート"は「1954年の出来事だ。本当は年寄りなんだよ。」と応えます。ジュリアは耳を疑い、「何を言ってるか分からないよ。」と告げます。そして"ロバート"は「僕が母を取り込んだ時、見えたんだよ。感じた。母の愛し方を。母の愛はただ純粋だった。こんな感情を初めてだった。その後はずっと感じなかった。数年前までは。」と母親に乗り換えた時の心境を振り返ったうえで告白します。話は続き、彼は「僕は人から奪う。それが正体なんだ。他人になれるんだ。体の中で変化が起こり、誰か見つけないと死んでしまう。」と説明します。ジュリアにどういう意味なのかと訊ねられると、彼は「全てだよ。彼らの声や姿かたち、記憶とか、夢や希望、その人の持つ全てを奪うんだ。それを取り込んで自分のものにする。皆ここにいるんだ。」と語ります。しかしジュリアは「何を言ってるのかまったく分かんない。何でそんな変なことを言うの?」と理解しかねていました。生き物は真実を話していましたが、彼女は"ロバート"と別れて家から出ていこうとします。


"ロバート"はジュリアを引き止め、「僕は昔から君を知ってたんだ。ずっと君を愛してたんだ。」と言い、以前、自分は酒場で「ドリュー」という本当の名前を名乗ったことがあると明かします。更に彼は「ロバートになる前にも何度も君に会ってるんだ。彼らの記憶が残ってるんだ。」と告白します。ジュリアは理解に苦しみ、"ロバート"は「リチャードの記憶で君を知ったんだ。2回目に純粋な愛を感じたのは彼の君への愛情だったんだ。そのあとに君を幸せにしようと思ったんだ。」と明かします。ジュリアは耳を疑うどころか、不安を感じ、"ロバート"は「最初に愛し合った時、深い愛を感じたんだ。君の大好きなルー・リードの曲をかけたよね。彼が君の元を去った時、辛かったよ。つまり僕だけど。あの時僕はいたんだ。」と語りかけます。彼は彼女の夫の記憶を奪った時にジュリアへの深い愛を覚え、それがきっかけで何度も彼女に近づいたのです。(恐らくリチャードが別れた時にドリューが乗っ取っていたのは事実。)

ジュリアはリチャードの居場所を"ロバート"に訊ねますが、"ロバート"はあの農場に遺体があると教えます。怯えた彼女はようやく全貌を理解し始め、「あなたは誰なの?」と聞きました。"ロバート"は「分からない。僕は誰なんだろう。」と応え、自分の正体は先住民の伝説に登場する怪物、スキンウォーカーではないかと思っていました。彼が自分の正体を詳しく言っている頃にはジュリアを壁際まで追い込んでおり、「大事なのは僕は好きでやってるんじゃないってこと。僕が生きていくための行為なんだ。」と訴えます。ジュリアは「あなたは殺したの。」と告げ、"ロバート"は必死に否定しますが、ジュリアは"ロバート"のことを「ドリュー」と呼ぶと、「お願いだからもう帰らせて。」と懇願します。

ドリューは「絶対に君を傷つけない。愛してるんだ。」と訴え、リチャードは自分の中にいると言い聞かせますが、ジュリアはおもむろにカバンから護身用のスタンガンを突きつけました。やがて彼女は罵声を浴びせ、ドリューは「近づくな。始まったら自分には止めることができない。」となだめます。しかし彼女はスタンガンをドリューの肩に押しつけると、馬乗りをし、何発も殴りかかります。やむ無くドリューは彼女がスタンガンを拾って再度突き立てようとしている隙にジュリアの両手を掴み、乗り換えを始めました。ジュリアの身体は醜く変わり、悲鳴をあげます。


その後、ジュリアの姿になったドリューは「守れなかった。そばにいたかっただけなのに。」と詫び、ロバートの服装のままミイラ化したジュリアの死体の前で泣き崩れていました。


夜、"ジュリア"はいつもの酒場に行き、本物のジュリアが座っていたカウンター席に座っていました。長年大事にしていたビー玉を持ちながら悲しい顔で酒を飲み、バーテンダーのジェンに「この数年、気遣ってくれてありがとう。とても嬉しかったよ。」と礼と別れを告げました。人間以外の生き物だったドリューは既に他人の命や記憶を奪う繰り返しを止めるには自分しかいないと心の奥底で悟っていました。

ジュリアの自宅に帰宅すると、ドリューはベットに横たわりました。もう新しい相手を探すことはなく、彼は自ら腐敗する道を選ぶと、腐敗は全身まで達し、身体は限界を迎えて痙攣を起こしました。そしてドリューは苦しみ始め、身体は膿のようなものを出し続けると、大きな子宮のような、繭のようなものに変貌を遂げました。次第に繭を破って出てきたのは老いた男性の姿をしたドリューでした。鏡で自分の姿を見たドリューは不思議に思い、なぜ自分が死ななかったのかを理解出来ずにいました。


「なぜだ?どうして生きてるんだ?私は何なんだ?「永遠に続くものはない。」と母は言っていたが、それはきっと違うのかもしれない。」

「私たちの選択は影響し合い、罪の意識は続いていくんだ。例えば自分の生い立ちや自分が誰かとか、世の中の仕組みなどを。全て誤解していたとしたら?次は上手くやろうとしても心の奥で囁きが始まり、やがて大きな声になる。前の記憶が誰だったのかを忘れるまでは、そもそも自分なんてものがあるのか、自分の正体など誰にも分からないのだ。」

老人姿のドリューはパソコンを両手に抱いて外出し、町の公園まで歩いていました。罪悪感や後悔の念の意味を孤独に噛み締め、公園のベンチに座っていると、彼の前にあの酒場の前で触れ合い続けていた犬のマックスが寄り添ってきました。ドリューは悲しい顔で青空を見上げ、物思いに更けていました。

THE END



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感想
この映画は『クレイジーワールド』『82ミニッツ』のジャスティン・マクコーネル監督による現代的で哲学的なSFホラー。『未体験ゾーンの映画たち2020』で『スキンウォーカー』という邦題で2月14日に劇場公開された作品ですが、どういう経緯なのか、5月2日のDVDリリースで『寄生体XXX』という邦題で発売された作品です。オリジナル版のポスターには繭になったスキンウォーカーか、蝶の羽根がついたミイラのランソン刑事が描かれていましたが、日本版では本編とは一切関係ないスピーシーズっぽい美女が映っています。

実際のところ自分としては「これってどうなん?」と思い、期待値を下げて観賞したのですが、良くも悪くも期待を裏切られたなあと思いました。カナダのインディーズ映画なので惜しいところはあったものの、スリラーとラブストーリーをミックスした悲劇に仕上がっていて、思ったよりも面白くて興味深い映画でした。

物語は作中ではスキンウォーカーかどうかは説明されていないものの、他人の命と体、記憶を奪ってきたドリューという元人間が人間から人間へと乗り換えるうちに葛藤し、生きていくための行為やジュリアとの交流を通して人間らしい愛や自分の罪悪感を覚えるようになるというプロットになっていて、ホラー的な演出、サバイバル的なシークエンスがシーンの幾つかに見受けられたものの、ストーリー自体は人間ドラマに近い作品でした。根本的にドリューがトロントの小さな町でひっそり人を殺して生きるため、スケールは小さいので低予算ぶりが目立ってはいます。

それで、ドリューに感情移入できるかと言われると、感情移入できる部分もあれば、感情移入しかねる部分もあるといった感じでした。特に終盤近くでジュリアに告白するくだりはそれを物語っていて、自分が生きるために人間を殺すしかなかったことやスキンウォーカーなのか、本当に人間なのかがはっきり分からず、葛藤や苦悩しているのは分かるんだけど、リチャードに成り代わった時にジュリアへの深い愛を覚え、ジュリアを好きになったという動機そのものはジュリアの視点から見れば、夫を殺すのは許されないことだし、怖がるのも当然かなと思いました。結局は結論上、ドリュー自身が普通の人間に正体を明かしても、相手が彼の気持ちを理解したり寄り添ったりすることは現実的に無理なのでとても悲しいと言えますね。

それでも、ドリュー自身がある意味晩年とも言える数年間でストーカーまがいの行動をしててもジュリアと関係を築きたかったのはなんとなく理解できました。客観的に考えると、ジュリアと話していた数人の人間が全部精神が同一人物である事実はゾッとするんだけど、例えば酒場でランソンがジュリアと話すシーンでシーンの途中にドリュー、または「生き物」目線のジュリアのカットを入れることでドリューの恋愛感情、彼女への愛が伝わってきて良かったです。或いはドリューの過去を説明している露骨な回想シーンは無いんだけど、彼自身の心情や今までの歩みが映像や説明台詞で分かるようになっていて、ドリューがビー玉を手で転がすショットがあったのは母親との思い出がビー玉に秘められているんだろうと想像しちゃうし、中盤でレイチェルの姿で彼が酒場の昔の姿を語ろうとしちゃったのは恐らく自分が他人になって生活した時にはもうあって、事実上20代ぐらいにはあの酒場に行っていたかなと思ってしまいましたね。

ただ映画としては惜しいなあって思うところは何個かありました。特にランソン刑事やサムといったドリューに殺される登場人物が元々どういうキャラだったのかが分かりにくいことでしょうか。あくまでもストーリーは完全にドリューの視点で進行するからしょうがないんだけど、果たしてロバートやサムを演じた役者さんがドリューに乗り換える前の様子とその後の様子を演じ分けられていたとして、どの役者さんも酒場でジュリアと話すシーンではいい塩梅で演じられていると思われますが、ドリューに乗り換える前のロバートやサムの登場シ時間が少ないためにその演じ分けが作中で明確に表現されていたどうかは正直微妙でした。

あとはドリュー自体は他の人間の記憶をちゃんと取り込んでるのですが、中盤でドリュー映画館でマナー違反をしてしまうショットは若干違和感を感じさせました。あのシーンは後半辺りでロバートの姿をしたドリューとジュリアが映画鑑賞するシーンと対比になってはいたんだけど、ドリューって今まで映画館でマナー違反してたの?とか乗り換えた人々って映画館で映画観てなかったの?とか物凄く疑問に感じました。

ラストのドリューの老体姿はドリューの本来の姿か、それとも進化の途中に出来た姿なのか、様々な解釈が取れるようになっていましたが、私としてはドリューの本来の姿かなと感じました。それこそドリューは12歳の頃からスキンウォーカーになったことからある意味呪いにかけられたと言えるし、終盤で彼がスキンウォーカーとしての生活、或いは人間を殺して自分が成り代わるというサイクルを卒業したことから繭から破って本来の姿に戻ったんじゃないかなと感じましたね。身も蓋もないことを言えば、最初から老人になったドリューが酒場でジュリアに会って恋愛関係を結べば良かったのでは?と思ってしまうのですが、ジュリアの視点から考えると、老人のドリューをさすがに恋愛対象として見ない可能性がありそうです。個人的にはラストで老人になったドリューが公園にいるショットと彼の語りは印象深く、人間の命には永遠など無く、いつかは大きな変化を受け入れなければいけないということ、過去にどんなに自分が悪いことを犯しても罪悪感や後悔の念を背負って現在を生き続けなければいけないとしみじみと感じてしまいました。

ということで、単純に予備知識を頭に叩き込んでない無知な人にとっては『ハズレ映画』というレッテルを貼られてもしょうがない作品なんですが、私は傑作とまでは言わないけど、ちょっとだけ面白かったです。84分という非常にコンパクトな上映時間に自分が何者であるかという存在意義、他人の生命を奪わないと生き続けられなかった生き物の葛藤、人間ではない何かが普通の人間に恋する哀しい恋愛模様などが盛り込まれていて、観賞後も深く考えさせられる奇妙な低予算映画でした。是非とも色んなかたちで観賞してみてください。