今回は禁断の恋を描いた作品かと思ったら、本当は若者たちの葛藤と苦悩を描いた青春ドラマだった作品をご紹介します。



カリーナ、恋人の妹

主演:フィリップ・アウデエフ

出演:アレクサンダー・クズネツェフ 『リービング・アフガニスタン』/ピョートル・スクウォルツォフ 『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』/アレクサンドラ・レベノク 『ゴースト・ブライド』/アナスタシア・エヴグラフォワ/アリナ・ツェブフォワ/ソフィア・シニツィナ 『ラブレス』/ダニエラ・ストヤノビッチ/ロザ・カユリナ/エレーナ・モロゾヴァ/ドミトリー・クーリッコフ 『ミラーズ:呪怨鏡』『フロンティア』『デス・レター』




・あらすじ(ネタバレ)

ロシアのとあるアパート、薬物を過剰摂取していたのか、部屋ではワーニャという青年が放心状態になっていました。友人のサーシャとピートが部屋を訪ねると、ワーニャは全裸でトイレタンクの横で屈んでいました。2人は彼を落ち着かせようとしますが、ワーニャは暴れだし、サーシャとピートはワーニャに布を被せながら押さえつけます。
(その直後にここで映画のタイトルが表示される。原題の『kislota』は「酸」という意味。)



その後、サーシャとピートはトイレを済ませたあと、サーシャに自分の性器を見せました。彼はムスリム(イスラム教徒)ということもあって割礼をしたばかりであり、性器は少し赤く腫れていました。ピートがそれをジロジロと見つめます。恋人のリューバはトイレタンクからこぼれた水を拭こうと床の雑巾がけを行い、サーシャの恋人のヴィカはトイレにいたサーシャのもとに行って彼を誘いましたが、サーシャは「無理だよ。」と言って断ります。

彼らは薬物で理性が吹き飛んでいるワーニャを抜けるまで監禁していましたが、何を思ったのか、ワーニャはベランダから顔を出しました。隣のベランダにいたピートはワーニャの姿を確認し、ワーニャが裸のまま柵を越えると、ピートはタバコを片手に「飛びたきゃ飛べよ。」と言い放ちました。その直後、ワーニャはためらうことなくベランダから飛び降りてしまいます。ピートは急いでサーシャたちに知らせるも、ワーニャはこの世を去ってしまうのでした。



数日後、ワーニャの親族によって葬儀が執り行われました。葬儀にはサーシャの他にピート、ヴィカ、リューバなど多くの友人が出席していました。ピートは酒を呑みながら遠くでワーニャが土葬される光景を見ていましたが、土葬される直前、ワーニャの母親が「いつまで寝ているつもりなの?頼むから起きて、これはお友達の悪ふざけよ。クランベリーを持ってきたから。」と息子の死を嘆いていました。職員がワーニャの母親を慰めていると、ワーニャの母親は「あなたたちは皆いい子よ。でも息子に悪い影響を与えた。」と非難します。これに対しピートはワーニャの前に現れると、息子を理解していないワーニャの母親に「そうですか。元からでしょ?」と話を切り出し、「息子さんの何を何を知ってるんです?こいつの出生体重や乳歯のこと?じゃあ好きな曲や女性は?借金の相手は?その女とヤってたよ。クランベリーが何になるんです?」と怒りを露にしました。サーシャはピートを止めるも、ピートの怒りは収まりません。




その後、サーシャとピートはクラブに呑みに行きました。2人がダンスミュージックに乗って踊り、サーシャがひとりでカウンター席に座っていると、芸術家のバジリスクという青年に声を掛けられます。彼はサーシャとピートの分の酒をおごると、サーシャと会う前にピートと知り合っていたのか、「君はムスリムなのか?割礼したって聞いたぞ。実は僕も芸術家なんだ。アソコの写真を撮らせてくれ。芸術品として興味がある。」とサーシャにお願いしてきました。不審に感じたサーシャは踊り続けているピートにバジリスクに割礼したことをチクったのかと問い詰めると、ピートは「お前がつまらないからやったんだ。これで少しは面白くなっただろ?」と応えます。サーシャは感情的にはならず、クラブで踊り続けていましたが、警察が取り締まりにやって来ました。中にいた大勢の若者が追い出されるなか、サーシャはピートやバジリスクたちと行動し、酔っ払ったまたバジリスクの自宅のマンションに行きました。サーシャ、ピート、バジリスクの他にもクラブで出会った2人の女性も来ていました。

自宅に行くと、バジリスクは割礼しているサーシャの性器をインスタントカメラで撮影しました。サーシャはパンツを履き直し、バジリスクは「素晴らしい。こんなものは初めて見た。」と言って性器の写真を渡します。その後、バジリスクは「この彫像は父親の作品だ。僕の手で現代芸術に変えてやる。」と言ってアトリエにあった亡き父の少年団員の彫像を手に取ると、過塩素酸と水を水槽の中に入れ、むこう側にいたサーシャとピートに瓶に入っているのは酸だと教えます。そして彼はその彫像を水槽の中に浸け、彫像が酸の溶液で溶けていきました。バジリスクが「崩れた少年団員の出来上がり。」と言って彫像を見せ、サーシャとピートの隣にいた黒髪の女性が「それって意味はあるの?」と聞きました。バジリスクは「意味などない。ただの商品さ。これを他人に買わせれば金持ちの芸術家になるんだ。それたけだ。ウラなんてない。」と応えます。


ピートはその場の流れで金髪の女性とベッドでイチャイチャし、黒髪の女性はサーシャにキスを仕掛けますが、サーシャはその場を離れ、屋根裏部屋に移動しました。そのうちサーシャ以外の4人は肌を重ね続け、サーシャはイヤホンで音楽を聴きながらタバコを吸っていました。

翌朝、他の4人が熟睡するなか、ピートは目覚めました。彼はレコードプレーヤーに置かれた過塩素酸を手に取ると、側にいた3人に酸を垂らそうとしますが、ワーニャを死なせた罪悪感からか、瓶に口をつけて飲みました。ピートは大いにむせ始め、サーシャは2階で寝ていたため、ピートが酸を飲むのを止めることができませんでした。

後日、サーシャは自宅のマンションで休んでいましたが、母親のエレーナがカンボジアから帰ってきました。サーシャは母親と祖母の3人で暮らしており、母親がカンボジアにいる間は家出したピートを部屋に招いて住まわせていましたが、母親が近々帰ってくるのを知り、彼は自分の母親を警戒していたピートを住まわせ続けることが出来なかったのです。サーシャは自宅のインターホンが鳴るのをきっかけに機材が置かれた自室のベッドで目覚めると、慌てて外出の準備をしました。祖母と母親が息子に話し掛けますが、サーシャは無愛想に自宅をあとにしました。祖母は娘のエレーナに朝食でコロッケを作ってあげようかと持ちかけますが、エレーナはカンボジアで肉を抜いていたので遠慮します。

一方、サーシャはピートが酸を飲んだと聞き、彼の見舞いに行っていました。ピートは酸で火傷していて、サーシャは担当医から薬と処方箋を貰ったことやエレーナが連絡無しで戻ってきたために家に入れることができないことを報告しますが、口元に絆創膏を貼っていたピートは終始無言でした。サーシャは一度家に戻るようにピートに助言します。その後もサーシャは沈黙が怖いので帰路に向かう際にひっきりなしに話しかけ、退院したピートの顔色を窺いました。ピートの自宅のアパートに着き、別れる間際にサーシャは「本当に誤飲だったのか?」とピートに話すと、ピートは頷きます。サーシャと別れたあと、どうしても家に帰りたくなかったピートはアパートを出ると、バジリスクにメールを送ります。

その後、ピートはワーニャの自宅のアパートに行き、ワーニャの恋人だったリューバと会いました。同棲していた彼女はワーニャの遺品整理をしていた最中で、どこかに売るべきか、処分するかで悩んでいました。リューバは「着てみてよ。」と言ってピートにワーニャが着ていたセーターをあげ、ピートが渋々セーターを着用すると、リュボチカは「丁度いいみたいね。今日はワーニャとの結婚届を出す日だったの。」と言いました。ピートはリュボチカの前でも沈黙を貫き、リューバが声を掛けるのをよそにそそくさとあとにしました。

サーシャは音楽活動をし、自身で作曲したオリジナル曲を何曲か作っていましたが、新しい曲が生み出せず、とても行き詰まっていました。彼は音楽活動に見切りをつけるべきだと考えていたものの、未練があるので辞めるきっかけが見つからないでいました。

サーシャは帰宅すると、母親と一緒に昼食を食べることにしました。エレーナはカンボジアでの生活は良く、カンボジアにいた4か月もの間は肉を断っていたと語ります。サーシャは母親にピートを住まわせていたことがバレたのでピートを2か月間半もの間家に住まわせていたことやピートが両親と喧嘩し、行くあてが無かったから家に招いたことを話しますが、母親との会話は気乗りしません。

日中、サーシャは恋人のヴィカに会いに行きました。ヴィカは彼を義理の妹、カリーナが習うバレエ教室がある体育館へと連れていき、自分が義父(カリーナの父親)に言われてカリーナを迎えに行くことになったと伝えます。15歳の義理の妹のカリーナを引き取ることになったのです。ヴィカは義理の妹の前で格好つけようとしていて、バレエに精を出すカリーナを見るサーシャの股間に手を回しますが、サーシャは嫌がります。



バレエ教室が終わり、3人は体育館を出ると、サーシャはカリーナに自己紹介したうえで彼女の荷物を持ちました。そして、彼は「わざわざ俺を呼ばなくても配車アプリがあるだろ?」とヴィカに聞くと、「配車アプリ?本気で言ってるの?「夫」なのに1時間も割けないの?」と返しました。サーシャはヴィカが自分を「夫」と呼び、勝手に結婚の約束をしたという前提で話してきたために驚きます。カリーナが口論をする2人を止めると、ヴィカはサーシャにカリーナの荷物を本人に持たせるよう言い、サーシャがカリーナに荷物を渡すと、ヴィカはサーシャと手を繋いで歩くのでした。

一方、ピートはバジリスクの家に行き、勝手にずかずかと2階の屋根裏部屋で休みます。目覚めたばかりのバジリスクは「確かに「家に来る」とメールは貰ったが、返事はしてないぞ。酸のことで他人同然の僕を責める気か。」と言います。彼はピートが酸を飲んで喉を焼いた件でビビっていて、「帰ってくれ、君の自業自得だろ。苦しいのは誰でも同じで、居候の理由にはならないぞ。いい加減両親を頼るんだな。」と言いますが、ピートは沈黙したままで、バジリスクに対して訴える気はないようでした。

夕方、サーシャが帰宅すると、祖母がサーシャの上着や靴を脱がして出迎えました。母親はカンボジアから帰ってきたこともあり、疲れてベッドで眠っていました。サーシャが冗談半分に祖母をからかうなか、祖母はサーシャの割礼した性器が腫れているとみて、薬が入った瓶を渡しました。祖母は風呂場で性器を薬に浸すよう言い、サーシャは渋々風呂場で祖母の言う通りにしました。サーシャが薬を使っている最中、「母さんが戻るって知ってたの?」と祖母に聞くと、祖母は「毎年、今くらいの時期に帰国する。」と応えます。それを聞いたサーシャは母親がまた数年前に失踪した父親の失踪現場に連れていくに違いないと悟り、「失踪した場所に行っても無意味なんだよ。」と意見しますが、
祖母は「他にどうしろって言うの?」と返します。祖母は失踪当時、エレーナは買い物をしていて、店を出たときには父親は消えていたと語ったうえで、今は現場にあった店や村は無いのでさら地になってると教えます。サーシャはズボンを履き、ベランダでピートに電話しますが、ピートは電話を無視しました。

その頃、ピートはあれからバジリスクと仲睦まじげになっていました。彼が2階で目を覚ますと、ミーチャという青年がバジリスクの家にやって来ます。バジリスクとミーチャは同性愛の関係のようで、2人は揉めたあと、バジリスクは強くミーチャを抱き締めました。2階にいたピートが向こう側にいたミーチャに手を振り、
ミーチャは何を勘違いしたのか、バジリスクの家をあとにしました。夜になり、ピートがアトリエでタバコを吸って休んでいると、バジリスクが隣のギャラリーにやって来ます。バジリスクは「君は赤の他人なんだよ。」と言ってアトリエに移動すると、1枚のコインを消すマジックを披露しますが、ピートは隙を突いて彼に殴りかかろうとしました。バジリスクは横柄な態度を取るピートに「彼氏(ミーチャ)にフラれたよ。ここにいたきゃいろ。もう反対しないから。」と言って家の鍵を渡します。


翌日、サーシャは家に戻ってると思い、ピートの自宅のアパートを訪ねました。彼は対応してきたピートの母親にピートがいるか訪ねますが、ピートの母親は「いないわ、あなたの所でしょ?」と応えました。サーシャは自分の家にピートはおらず、連絡が取れていない状態だと伝えたあと、家の前を去ろうとすると、ピートの母親は「息子の何が目的?何の狙いもなくここへ来るわけない。」とサーシャに尋ねたうえ、「息子にはもう構わないで。普通の生活に戻らせてよ。」と言い放ちました。するとサーシャは「普通の生活って何ですか?あなたは息子さんのことを何も分かってない。」と返しました。ピートの母親は2度と訪ねて来ないよう警告し、3つ数える前に消えるよう訴えました。しかし、サーシャは帰らず、ピートの母親は3つ数えるのやめて早く帰るよう求めました。サーシャは葬儀のときのピートのように「奴が死んでから「愛してた」とか言わないでください。「友達が悪いんだ」とかもクランベリーも無しだ。俺が間違ってたら謝りますよ。」と言ってアパートをあとにしました。


その日の夜、サーシャは母親と一緒に中国料理店で食事をしました。サーシャは蘭州拉麺をすすりましたが、自分の口には合わず、料理の感想を聞くエレーナに「まずいよ。」と言います。その直後、エレーナはヴィカからSNS経由で「是非お会いしたいです。」というメッセージが来たことを伝えたうえ、嫌いだから会いたくないと話します。エレーナはサーシャがヴィカと付き合うのを好ましく思っていません。

サーシャは最近自分の前で結婚したいと求めてくるヴィカが嫌いで、そろそろ彼女と別れたいと悩みを打ち明けると、エレーナは「あなたってゲイよね?私は間に入らないから彼女と話しなさい。期待させちゃダメよ。」と言いました。彼女は息子がゲイだと思っていて、息子がピートを住まわせたのは恋人同士だったからだと考えていました。サーシャは否定し、「どうして何でも愛だと結びつけるんだよ。当たり前だよ。見捨てたら悪く言われるし、いい奴だと思われたいんだ。母さんがそう育てたんだろ?誰も傷つけたくないし、自分の気持ちも言える訳がないんだ。意志が弱いんだよ。」と言います。エレーナは半笑いで息子の言葉を聞き、「簡単な方法がある。「ノー」と言えばいいわ。「ノー」と言えばそれで解決するから。」と応えます。


翌日、サーシャは決着をつけるためにヴィカに電話するも、連絡がないので自宅のアパートを訪ねました。対応したのは義理の妹のカリーナでした。カリーナは美容院に出掛けたきり留守にしていて、電話に出ないのは皆に心配をかけさせたいからと彼に説明します。サーシャが諦めて帰ろうとして、エレベーターに乗ると、カリーナはエレベーターに乗ったうえ、彼を屋上に誘いました。

屋上に行き、2人はタバコを吸いながら話をしました。カリーナはヴィカからサーシャと結婚すると聞いていて、「結婚するのが嫌なんだね。なら結婚しないで、ヴィカは怒るけど。」と彼に言います。サーシャは「お姉さん思いなんだね。」と声をかけると、カリーナは「私はバカな人って思うだけよ。」と言います。サーシャは「じゃあ君はどんな人?」と聞くと、カリーナは「こんな人かな。どう見える?」と言って面白がって屋上の際のほうに行きました。
サーシャはカリーナを止めると、カリーナは話題を変えて「割礼したって本当?」と聞いたうえ、その写真を見せてほしいと興味津々に求めました。気が変わった彼女は写真を見るのを遠慮しましたが、サーシャは「覚悟しろ。奇妙だと思うかも。」と言って自分の性器の写真を見せました。カリーナは「本当に奇妙ね。」と応えます。別れ際、彼女は持っていた洗濯バサミをサーシャの耳に挟むと、「最初の5秒は痛いけど、そのあとは慣れる。ヴィカのことも同じよ。すぐに慣れるものだよ。」と助言します。


一方、ピートは口元の絆創膏を剥がすと、警察署に行き、「僕は人を殺しました。」と言って出頭しました。警察はピートを逮捕し、事情聴取を受けることになりました。彼は自分のせいでワーニャを死なせてしまったと罪悪感を感じていて、罪悪感から解放するために自分の意志で酸を飲んだのです。

翌日、サーシャがリューバの家を訪ねると、下着姿のリューバが大音量の音楽をかけながら踊っていました。リューバは妙に元気で、ピートがワーニャのことで逮捕され、警察が家のベランダを捜査しにやって来たとサーシャに伝えます。ほどなくして2人はベランダに行って景色を眺めました。リューバは「ピート自身が罪に向き合えばいい。」と言い、「彼はあなたの悪口を言ってた。「音楽が下手。縁を切りたくて困ってる」って。ほっといたほうがいい。」とサーシャに知らせます。

リューバの家をあとにしたあと、サーシャはピートの母親に会いに行きます。彼は息子の逮捕を受けて失望するピートの母親に彼の父親に会いたいと頼み入れます。ピートの母親は「「クズ男」って伝えて。」と伝言を入れ、連絡先を渡します。そしてサーシャはピートの父親に連絡したあと、彼の会社を訪ねました。サーシャはピートの父親に掛け合い、釈放を要求すると、ピートの父親は「なぜ私が助ける必要がある?分からないから教えてくれ。」と問いかけます。サーシャはピートと親友であることや酸で声を失ってるかもしれないことを理由にあげましたが、ピートの父親は「友人思いのつもりなんだろうが、君はバカげてる。」と言います。サーシャは「あなたはクズです。今言ったのは伝言です。」とピートの母親の伝言を呟きます。

夕方、カリーナの父親がサーシャの家を訪ねました。彼は妻に抗議しろと言われて来たと説明したうえ、「彼が局部を見せた。」と怒りをぶつけます。そして彼が例の写真を見せると、エレーナは「これはひどい。」と言って失笑します。サーシャが帰宅すると、カリーナの父親は「この変態野郎が!」と言って暴行を加え、エレーナはカリーナの父親を追い出しました。祖母がサーシャの傷の手当てを行い、「サーシャは父親の生き写しだわ!ご覧なさい、この子を!」とエレーナを批判します。



その翌日、エレーナはサーシャを父親の失踪現場へと連れていきました。彼女は自分は妊娠していて、7か月後には出産すると告白したうえでこのまま産むべきかどうかを息子に相談しました。サーシャは考えた挙げ句、「その子も母子家庭に行かせるのか?」と苦言しました。エレーナは息子の頭を殴り付けます。
(本編ではエレーナが誰の子を妊娠したかは描かれてない。カンボジアの最中に行きずりの男と関係を持ったのか?)

数日後、サーシャはバレエの練習に向かおうとするカリーナを待ちぶせしました。彼は練習のあとに家まで送ろうとしていたのですが、周りの様子を見た彼は練習が中止になったと伝えました。仕方なくカリーナはサーシャと一緒に家に向かうことにしました。その後、サーシャはカリーナの部屋で彼女と二人きりになりました。彼は携帯に入れていた自分の音楽をカリーナに聴かせると、次第にサーシャは彼女にキスし始め、カリーナはサーシャに応えて唇を重ね続けました。欲情を示した2人はベッドの上で服を脱ぎました。サーシャは裸になると、パンツ1枚になったサーシャのパンツを脱がします。カリーナはパンツから手を離さないようにしましたが、諦めて手を離し、サーシャはパンツを脱がすと、ヘッドホンを彼女に着けました。カリーナは「愛してる。」と声をかけ、サーシャは「俺もだ。」と言います。そしてサーシャが彼女のヘッドホンを外すと、2人はベッドの上で身体を絡ませ続けました。カリーナは自分の処女膜が破れたのか、恥部から血が出たと知らせます。ところがその直後、カリーナの父親が2人の現場を押さえてしまいます。サーシャはカリーナの父親によって引き離され、彼の車の後部座席に拘束されるのでした。(敢えて狙ったのか、カリーナの父親が現場を押さえてからサーシャを拘束させる描写はない。)




その夜、カリーナの父親はサーシャを車内に置いたままサーシャの家に行きました。彼はエレーナに「早めに帰宅したら2人がセックスしていた。カリーナは来週で16になる。今はまだ15歳なんだ。」と報告し、エレーナは「あなたの初体験は何歳よ?」と問いかけ、皆初体験を済ませてるのではないかと思っていました。カリーナの父親はサーシャを拘束したと伝えましたが、エレーナは「一体何考えてるの?殺すわよ!」と怒鳴ります。エレーナ自身は息子が中学生ぐらいの女の子と関係を持ったことが信じられず、「ここから逃げ出したい。耐えがたい悪夢だわ。」と彼の胸にもたれ掛かり、カリーナの父親は「許されないことだ。彼を傷つけてはいない。だが妻の手前、軽く叩くぐらいなら許してほしい。」とエレーナに約束します。



エレーナとカリーナの父親が駐車場に向かうと、カリーナの父親は車にいたサーシャを解放させました。サーシャは母親を呼ぶものの、応答が無かったため、カリーナの父親を何度も殴ると、「見たか?見ただろ?そうだよ。俺は母さんより酷い人間だ。母さんよりずっとだ。誰よりも酷いヤツなんだ。」と訴えました。帰宅すると、心配して声をかけてきた祖母を振りきって自室に籠ります。


暫くすると、釈放されたピートがどこからともなく自室にやって来ます。彼は「お前の様子を見に来た。」と言い、元から話せたにも関わらず、薬で声が戻ったと説明しました。落ち着いたサーシャが「事実なのか?お前がワーニャに言ったことは。」と確認すると、ピートはその事実を認め、サーシャが「じゃあ俺の音楽が下手だと言ったのは?」と聞くと、ピートは「忘れた。本当に得意なのか?」と言いました。サーシャは「お前は何が得意なんだ?」と聞くと、ピートが「そんなの大事じゃない。」と応えたため、「じゃあ何が大事なんだ?」と問いかけました。そしてピートは部屋に過塩素酸の瓶があることに気づいたあと、「俺たちの問題は問題がないことなんだ。何もかも用意されてる。だから、自分が何者で何ができるかを考えてばかりいたんだ。結局できるのはスマホの充電くらいなのに…」と主張しました。


更にピートは明日、教会に行ってバジリスクの子供の洗礼式に立ち会うことになったと報告したうえ、バジリスクが自分の話を聞いて理解してくれたこと、両親と和解したことを明かします。ピートの母親が父親に掛け合ったことでピートは釈放することができたのです。ピート自身はサーシャも自分を助けてくれた人として認めていて、「今度はお前を救いに来た。」と言いましたが、サーシャは自分がピートの父親に釈放を要求したと明かしたうえで「俺がお前を必要としてた時に今までどこにいたんだ?今頃来て俺の生活をけなすつもりか?俺を悪く言ったのは覚えてるだろ?嘘つくなよ。」と冷たく言いました。ピートはサーシャの悪口を言ったことを謝罪したあと、部屋のパソコンに保存されたサーシャの曲を聞きました。

翌朝、ヘッドホンを着けていたサーシャはパソコンにあったピートの伝言を聞いていました。ピートは伝言にこのような言葉を残しています。

「お前の母さんと話した。話題はもっぱらお前のことだったよ。今、お前のパソコンから曲を全部消してる。1年の授業でお前が単語を読めなかった時のことを覚えてるか?発音しようと唇をすぼめる姿を見て馬鹿だと思った。だから友達になろうと思った。お前は俺の友達だ。だから言うよ。お前に音楽は向いてない。お前を救うために音楽を消しておいた。」

伝言を聞いたサーシャは唇をすぼめながら学生時代のことを頭をよぎらせますが、やるせない気持ちになり、過塩素酸の瓶を手に取りました。



その後、サーシャはバジリスクたちよりも先に早く教会に行きました。彼が中を徘徊していると、スタッフが聖水が入った盆を持って現れました。サーシャはスタッフから洗礼式について聞いたあと、「この水はどこで?運んだのか?買ったのか?」と尋ねました。スタッフは「水道水だよ。洗礼式に使えば聖水になる。」と応えます。スタッフがその場を去ると、サーシャはおもむろに酸の瓶を出し、教会の聖水に酸を混ぜました。


ほどなくしてバジリスクとその彼女とみられる女性が教会に現れます。サーシャは「子供は洗礼を望まないかも。」と指摘するも、バジリスクは「構わないさ。」と言って洗礼式をやめたいと思っていません。その直後、代父母を努めるピートも現れ、牧師がバジリスクやピートたちと一緒に洗礼式を執り行います。サーシャは暫く洗礼式の様子を見届けていましたが、洗礼される赤子の鳴き声を聞いて気が変わり、盆を倒してしまいます。牧師はサーシャを追い出し、ピートは救えなかったと感じつつもなんとか周囲の前で取り繕います。


教会を出たサーシャはやりきれない思いで一杯になり、気がつけば高速道路を歩いていました。彼は空になった酸の瓶の口のところを吹いて、笛のように音を出しました。

THE END




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感想
この映画はロシアでは俳優として活躍しているアレクサンドル・ゴーチリン監督の行き場のない不安や苛立ち、孤独感を抱える青年を描いた青春ドラマ映画。アレクサンドル・ゴーチリン監督は本作で長編映画デビューを飾ってます。
ジャケットや邦題では官能映画として宣伝されていますが、本当はロシアの若者たちの孤独、閉塞感、葛藤を描ききった暗い感じの青春ドラマ映画でした。宣伝では悪意ありげに濡れ場のシーンがピックアップされているため、この映画を観て悪い意味で後悔した人がかなりいるはずです。

結論を言えば、確かにジャケット詐欺・邦題詐欺が酷いので酷評してる人が多いかもしれませんし、作中の登場人物の設定が分かりづらいところがあったんだけど、私は今まで観たロシア映画のなかでは結構好きな作品だと思いましたね。ロシア映画はかなりの予算を掛けている大作が劇場公開されていたりするのですが、絶妙な心理描写や巧みな演出が施されているため、「ちゃんと映画になってるなぁ。」と感じました。

物語は基本的に音楽を辞めようと考えているサーシャと彼と対照的な性格を持つピートの友情を軸に進行していき、音楽映画の要素や恋愛要素がメインという訳ではありませんでした。要は家族のことだったり、自分の将来のことだったりと行き場のない感情を持つ2人を描いていて、観ててスッキリしない気持ちにはなるんだけど、なかなか考えさせられる青春映画でした。原題は『Acid』(ロシア語では『kislota』)で、日本語では「酸」という意味です。物語の所々に酸が関わっていて、「酸」は重要なアイテムとなっています。

演出も良く、最初から最後まで映像表現が見事でした。冒頭でワーニャの心の揺れを電気のチカチカ具合で表現したり葬儀のシーンのあとにクラブのシーンにスマートに切り替えたりとセンスがあって上手いなあと感じられました。

私はサーシャやピートには感情移入でき、彼らが抱える閉塞感、不安感には共感できました。
そもそも両親が色々と揶揄されても、自分は自由に行動し、選択していきたいし、割礼したり異性と初体験して大人の階段を登っても両親から1人前の大人だと認められないのはとても辛いです。

それでこそ、サーシャの親子関係もピートの親子関係もパワーバランスがあり、どの両親も息子のことを表面上でしか見れていないことでしょうか。サーシャの母親やワーニャの母親は息子を理解しようとしていたんだけど、どうしても本質というか、息子の全てをまだ知らないというか、子供にとっての理解者になってないんだろうなあと思ってしまいました。或いはサーシャの母親やピートの母親はまだいいとしても、娘のためにサーシャに暴力を振るったり拘束したりで身勝手な行動を取っていることに腹が立ちました。これで両親の立場から考えてみれば、なかなか感情移入出来るのですが、カリーナの気持ちを思ったら父親の行動は明らかに間違ってるし、カリーナ側が性器の写真を見せてほしいと求めていたのに単にわいせつ行為だと勝手に認識するのはおかしいと思いました。この映画を観て、久々に映画を観ながら腹を立てたのは久々です。

最大の見所は濡れ場のシーンで、2人の男女が閉ざされた空間で身体を重ねていく姿はとても緊張感があり、カリーナ役のアリナ・ツェフツォヴォさんはフルヌードじゃないんだけど、恥ずかしくなって手ブラをしたりパンツから手を離さないようにしたりする仕草はリアルでエロかったですね。個人的にはこれまで映画を観るにあたって様々な女優さんを映像でお目にかかることがありましたが、カリーナを演じたアリナ・ツェフツォヴォさんは魅力的で非常に華がありました。濡れ場のシーンはなかなかのハードな撮影ながら大胆に演じられていていました。ちなみに調べたところ、カリーナは15歳でしたが、カリーナ役のアリナ・ツェフツォヴォさんは撮影当時の実年齢は20、21歳だったようで、この作品で映画デビューしたらしいです。Googleで検索すると彼女のSNSのようなものがヒットしたのですが、ルックスが美しくて日本で人気が出てもおかしくないぐらいスター性を誇っていました。せっかくならもっと日本でまともな宣伝をしているロシア映画に出てほしいですね。

ただ、カリーナは主要人物ではあるんだけど、ぶっちゃけ登場シーンが少なく、あの濡れ場以外は見せ場があんまり無かったです。監督はあくまでもサーシャとカリーナの禁断の愛を描きたかった訳じゃないんだろうけど、個人的にはもうちょい出番を増やして欲しかったです。

それで、この映画は肝心なところが描かれてないせいで心理描写は充分描けているのに画的に物足りなさを感じるところでしょうか。もちろん、映画自体は考察して楽しむようなタイプの映画ではあるんだけど、サーシャがヴィカと直接会って決着をつけようとするくだりが無かったり、ヴィカ・カリーナ姉妹の父親がサーシャとカリーナが寝る姿を見ちゃう描写が描かれておらず、観てて消化不良に感じちゃうし、少し小骨ように刺さってしまいました。

あとは観賞してるほとんどのかたが指摘してるんだけど、濡れ場のシーンで濃いぼかしが正常位になっているサーシャとカリーナのお腹から股間辺りまでかかっていて、映像ではかなり萎えそうなカットになっていました。これは普通に日本の規制って残念だなと感じるし、ぼかしを薄くしても何ら問題無かったと思いました。ちなみにこれを書くとドン引きされる恐れがあるのですが、某エロサイトでわざわざ無修正された濡れ場のシーンを発見してみたところ、性器の露出というのが全然無くて、何なら撮影監督の意向なのか、太股で上手い具合に性器が見えないように工夫されてたんですよね。だったら日本の配給会社はモザイク薄くしてもR15+でソフト化できたんじゃないの?って感じてしまいましたね。

ラストではバットエンドではないけど、心がヒリヒリするような余韻を感じさせる結末でしたね。サーシャは音楽を辞め、理解し合えるような恋人や友人がいないまま孤独感を感じ、空の酸の瓶を鳴らす辺りは非常に切なく、どこか救いようのない感じが伝わってきましたね。一方のピートもサーシャが盆を倒したあと、感情的にはならなかったけど、サーシャを救えることができず、やるせない気持ちを抱えていたように感じました。

ということで、はっきり言ってこれが官能映画じゃなくて青春ドラマだったことにはただただ驚かされましたが、私は肯定的に観ることが出来ましたし、観てて心にガツンと来る切ないロシア映画でした。カリーナ役のアリナ・ツェフツォヴォさんにはジャケット詐欺映画なんかよりもうちょっとまともな宣伝をしているロシア映画に出てほしいし、サーシャが抱えるヒリヒリとした葛藤や不安感は救いようがなく、若者特有の絶望感を直視させられました。特に20代や30代には紛らわしい宣伝をしているので手に取らないかと思われますが、普通にオススメしたい作品でした。是非ともレンタルや配信で観賞してみてください。