今回はちょっとテンポの悪さが目立つと言えば目立つんだけど、終盤のアクションシーンに大興奮させられた上半期のベスト候補を紹介します。


ブラック・ウォリアーズ オスマン帝国騎兵隊

主演:ジェム・ウチャン

出演:エルカン・ペテッカヤ/イスマイル・フィリズ/ヌル・フェタホール/イエキン・ディキンジラール/ルガラー・アクソ/グルサ・シャヒン/カミル・ギュレル/メフメト・アリ・カラクシュ


・あらすじ(ネタバレ)

時は15世紀半ば、ムラト2世の時代。ワラキア地方はオスマン帝国の領土に変わる。ワラキア公は帝国への忠誠への証しに息子であるヴラド3世とラドゥを送った。スルタン・ムラトはヴラド3世を宮殿に迎え、自らの息子、王子メフメト2世と同じ教育を施した。王子メフメトはスルタン(皇帝)となり、『世界の制服者』と呼ばれ、ヴラド3世は通称『ドラキュラ公』となる。数百年にも及ぶ善と悪の戦い、その歴史に新たな1ページが加えられようとしていた。

土、水、空気、火、世界はこの4つの柱の上に成り立っている。赤子の胸を膨らませる空気は時には人が死に際に吐く空気にも成る、土は全ての大地を覆う。北西の風吹くこの土地に2つの種が植えられた。どちらもその種は同じ清水が注がれ、同じ空気を吸って育ったが、1つはチョウチクトウに、1つはバラになる。同じ土の上で生きるチョウチクトウとバラ。だが、チョウチクトウには毒がある。庭の主人の手で刈り取られなくてはいけない。火が罪無き者を焼くとき、それを消す水も必ず存在する。灰を散らす風もまた然り。
(ナレーションと同時にメフメトとヴラドの幼少時代が回想で描かれる。)





現在、オスマン帝国に深い恨みを抱いているワラキアの王ヴラド3世は逆らう者を串刺しにして街道沿いに並べ、その力を誇示していました。スルタンはヴラドのもとに住民を恐怖で支配する彼を糾弾する使者を送りますが、ヴラドは許しを乞うよう求める使者に「その頭のターバンを見ると、オスマンでの苦しかった日々を思い出すんだよ。」と言い、ターバンを取るよう命じます。使者が「命あるうちは取りはしない!」と断言すると、ヴラドは「大事なターバンだろ、運命を共にするがいい。」と言って使者を処刑台に連れていき、「悔い改めないと軍がやって来るぞ!許されるものか!」と訴える使者をよそに、ハンマーで彼の頭に釘を打ち付けて殺害するのでした。

その後、メフメト2世が飼っていた小鳥を世話していると、ババ・スルタン(スルタン・ムラト?)という帝国の守護者たる『デリラ』騎兵の長がメフメト2世の前に現れます。メフメト2世はババ・スルタンにヴラドが民を苦しめた挙句、使者を殺したことを知らせると、ババは「陛下が考えたそのご決断はきっと後世まで語り継がれることでしょう。ヴラドの運命もまた、人から人へと伝わり、戒めとして語られます。」と言い、メフメト2世は『デリラ』の派遣を命じるのでした。

ババ・スルタンは伝書鳥を使ってデリラの勇士ゴクルトに知らせ、ゴクルトは角笛で仲間たちを召集させました。7人のデリラ騎兵(ゴクルト、サスクーン、アスガール、コンガール、ムバリズ、「名無し」、他1名)はババ・スルタンたちのもとへ参上します。

ゴクルトたちはアラーの神とオスマン帝国への忠誠、誇り高き死をババ・スルタンたちに誓い、ババ・スルタンは「勅令は下った。武器を取るのだ、旅に出よ!暴君に鉄槌を下せ!」と言い渡しました。デリラのリーダーであるゴクルトの背には黒い翼があり、ババ・スルタンは連絡係として部下のクマンに自分の魂が宿った映し鏡を渡したうえ、デリラと一緒に同行するよう命じます。デリラ騎兵隊はワラキアを目指して馬を駆けていきます。


一方、城外の洞窟ではヴラドの命令で動いている錬金術師が村の民を実験台にして研究を進めていました。ワラキアの勢力はオスマンに対して余りにも小さいものでしたが、ヴラドは錬金術師に命じ、ネズミと緋色の苔を使って恐るべき疫病を作らせていました。錬金術師は訪ねてきたヴラドに「もう間も無く完成する。」と言ったうえで「ネズミの数が足りません。あとはネズミを興奮させる緋色の苔をいくつかあれば。」と頼み入れます。これを細菌兵器を使用すれば、帝都コンスタンチノーブルも陥落することでしょう。

同じ頃、ヴラドの城の近くの村に住む少年、エレンはかつて祖父が戦士デリラについて友達に話しますが、友達は「作り話さ。父さんが子どもを脅かすための嘘だって言ってた。」と言って信じようとしません。そんななか、村にワラキアの兵士たちがやって来ます。逃げる友達をよそにエレンは貧しい住民に金1袋を渡すのでネズミを集めるよう命じる兵士たちを目撃します。

城ではヴラドとその妻の王妃エリザベッタが話をしていました。ヴラドはいつかメフメト2世を破滅させ、彼を歴史から消したいと願っており、エリザベッタもオスマン帝国が滅びることを願っていました。周囲を侵略し、支配地が広がった結果、ワラキアの統治は困難になっており、エリザベッタは権力を維持するためにもヴラドがローマ法王の後ろ楯を得るべきだと提案しますが、ヴラドは「私の統治には限界も国境もない。私は神の子だからだ。この地上において、私は神も同然なのだ。」と言い、オスマン帝国皇帝にもローマ法王にも従わず、自らの手で世界を支配すると訴えます。

エレンはその後、兵士が金1袋を欲しがっていた老人を殺し、老人が集めさせたネズミを奪う姿を目撃します。エレンは何か恐ろしい事態が起きていると悟ります。



大雨のなか、デリラが洞穴で休息していると、側にいたクマンがぶつぶつと呟いていました。「名無し」という若い兵士がどういう意味かと聞くと、ゴクルトは「「戦場では慢心するな」と言っている。そして「仲間の死を嘆くな」と。だが、それが難しい時もある。」と答えます。皆が洞穴の中にいるなか、アスガールは雨に打たれ、かつての戦いで弟を死なせてしまったことを後悔していました。ゴクルトは彼を洞穴の中に入れると、彼に食事をさせました。

その後、デリラ騎兵たちはいかなる道でヴラドの本拠地に迫るべきか相談しますが、戦士のコンガールは近道を通ればヴラドの不正規兵が出没するため見つかる恐れがあると懸念していました。彼は安全なルートをゴクルトに勧めるも、ゴクルトは「俺たちが救うのはたった一人ではない。全ての罪無き民だ。民のために武器を抜くのだ。」と言って敢えて近道を通る道を選びました。

その頃、エリザベッタは錬金術師の研究所を訪れ、細菌兵器の開発状況を尋ねていました。彼女と兵器の完成を強く望んでいて、錬金術師は「もう完成しています。この兵器には誰も太刀打ちできない。」と応えます。その様子を目撃したエレンは魚を売る祖父の元に戻り、細菌兵器のことを伝えました。

一方、デリラ騎兵が進む道にある村に村の娘、アラジャが鍛冶屋をする育ての父親と共に暮らしていました。しかし、ヴラドの不正規兵たちが略奪目当てに村を襲撃しにやって来ます。父親は剣を持ってアラジャを守ろうとしましたが、兵士に刺し殺されてしまい、彼女の身に危険が迫ります。

アラジャが兵士に包囲されるなか、そこにゴクルト率いるデリラ戦士が助けにやって来ました。戦いに慣れた彼らは少数ながらヴラドの兵を打ち負かし、彼女を救います。戦闘を終え、
ゴクルトはサスクーンに生存者の捜索を命じました。村には無数の使者が横たわっていて、ムバリズは父親の遺体の前で泣くアラジャをなだめます。


そんななか、サスクーンは生き残った赤ん坊を救い出します。無口な彼は幼少期に敵の襲撃を受け、重傷の母親を救おうとした結果、かえって敵の兵士を呼んでしまい、親を殺された過去を持っていたのです。それ以来サスクーンは言葉を発することはなく、生き残った赤ん坊の境遇に幼い日の自分の姿を重ねていました。その光景を生き残った敵の兵士が陰で見つめます。

その後、デリラ騎兵隊は先を急ぎ、アラジャと赤ん坊を引き連れ、砂丘を歩いていました。アラジャはアスガールに実の家族はヴラドの兵に殺され、トルクメン人の育ての父親によって村に育てられたと語ります。ヴラドは宗教を理由に多くの民を虐殺しており、アスガールは彼女にオスマン帝国では信仰を理由に弾圧されることはないと告げます。その直後、アラジャは強引に赤ん坊にミルクを飲ませようとするサスクーンを見ると、「それじゃあ飲めないわ。」と言い、赤ん坊を抱いてミルクを飲ませます。

逃げ帰って城に戻った兵はヴラドに許しを乞うよう求めたうえで毛皮や翼を身につけた怪物のような戦士に襲われたと報告します。ヴラドは「相手は何人いた?」と聞きましたが、逃げてきた兵を許さず、兵士の頭をテーブルに叩きつけて殺害しました。彼は部下のコステルにその者を捜すよう命じました。

デリラ騎兵隊が森を歩いていた頃、アラジャはムバリスを『親方』と呼んで尊敬している戦士のひとり、「名無し」と話していました。彼女は皆から「名無し」と呼ばれているのに疑問を持ち、理由を尋ねると、戦士のひとりが「名前を持つのは戦場で腕前を見せてからだ。」と言い、名無しは「いつかは名前が欲しいさ。けどまずは旅を終わらせる。」と応えます。

その後、彼らはジプシーの集落に到着します。そこにはヴラドの支配から逃れたユダヤ人など様々な民族や宗教を持つ人々が暮らしていました。その日、彼らは結婚式を執り行っていて、デリラ騎兵たちが事情を話したうえで休憩させてほしいと頼むと、女頭目のローザは快く迎え入れました。

その頃、エレンの祖父は兵器のことでカララ神父に報告していました。カララ神父は礼拝していた住民にヴラドがいかに残忍な王なのかを教え、動向を探るために錬金術師の研究所を覗き、細菌兵器の開発をしているところを確認します。


夜、アラジャが赤ん坊を抱いたままユダヤ人の話を聞いているなか、デリラ騎兵たちは焚き火の前で休んでいましたが、数人の戦士がコンガールが笑顔で弦楽器を弾いていたために反感を持っていました。そこに集落の男性がスープを持ってやって来ますが、ムバリスがその男性をよそ者だと悟り、「どこから来た?」と聞きました。ユダヤ人はこの男性もヴラドから逃れたと説明し、男性はデリラの前を去っていきました。(ヴラドの部下が密偵してデリラの動向を追っている。)


その後、アラジャは赤ん坊をサスクーンに預けると、アスガールに両親や兄弟がいるか尋ねると、アスガールは「両親は6歳の時から別れた。俺たちは家族を持たない定めなんだ。」と応えます。

翌朝、デリラ戦士が旅立つ準備を整えていました。ゴクルトはローザにアラジャと赤ん坊を託すことにしましたが、サスクーンは赤ん坊との別れを拒み、抱いて放そうとしません。サスクーンは渋々住民のメリエムに赤ん坊を預け、「サスクーンの息子を頼む。」とゴクルトが赤ん坊は自分の息子だと認めたために戦士として決意を新たにしました。そんな折、ゴクルトは家族をヴラドの兵に殺され、トルクメン人の村で生き残った少女に近寄ります。少女は「神様に言いつけてやるんだ。あの人たちは悪い人ことをしてるんだって。」と話すと、ゴクルトは「神はご存じだ。俺たちは君の無念を晴らす獅子さ。」と応え、少女は笑みを浮かべながらゴクルトの髪を撫でました。


その頃、ローマ法王の使者がヴラドの元にやって来ます。使者は冠を渡したうえ、ローマ法王がアラーの神を信仰するオスマン帝国に反旗を翻した彼の功績を称えていることを伝えますが、ヴラドはエリザベッタが喜ぶのをよそに「私は神の子と認めよ。法王のその傲慢な態度、見逃してやる。」と法王に従う理由はないと宣言し、使者を侮辱しました。

デリラ騎兵隊は小川が流れる林の中で休息を取っていました。赤ん坊を想うサスクーンに「この旅は茨道だ。死は付き物だ。死は俺たちの恋人だろ?お前はあの子のために尽くした。あとは神に任せよう。」となだめていましたが、笑顔を絶やさないコンガールがサスクーンに「そろそろ喋れそうか。」と話しかけてきたため、アスガールはその振る舞いに戦士らしくないと責めますが、ゴクルトは彼を嗜めます。ゴクルトによると、コンガールはかつて戦場で肉親を奪い、その日から心を閉ざしていました。そのため、彼の心は麻痺し、他者との関わりを拒絶するかのように笑顔を見せるようになったのです。そして、ゴクルトはアスガールにサスクーンの無口とコンガールの笑顔は同じで、コンガールとアスガールは同じ人間に過ぎないと説明します。

一方で、ババ・スルタンは休息中に寝ていたクマンの夢の中に現れます。彼はゴクルトたちの運命を案じており、「そなたたちはいかなる時も孤独ではない。神は我らと共にある。」と伝言を言います。そんななか、クマンは目を覚ますと、周囲に敵兵が来ることを知らせます。デリラ騎兵隊は戦闘準備に入り、岩場にいたヴラドの兵を撃退するも、コンガールは深手を負い身動きが取れなくなります。コンガールは意識不明の重体になり、アスガールはこの先にある村に医師がいると訴えますが、ゴクルトは「コンガールが望んでるのは戦場で歴史を作ることだ。やるべきことをやれ。」と言い、彼の運命をクマンに託し、先を急ぎました。


夜、クマンはコンガールをババ・スルタンのもとに連れていくと、魔術を使って彼を治そうと試みます。コンガールは息を吹き返し、洞穴で一夜を過ごしていたゴクルトたちはその事を悟ります。

翌日、デリラ騎兵隊は村にある酒場で休んでいました。そこでは地下格闘技が行われていて、多くの村人が観戦していましたが、リングにいた選手が食事をする戦士に「ヴラドに串刺しにされて腰抜かしたのか!腹を空かせたガキみたいに食ってやがる!」と挑発してきました。するとサスクーンは堪忍袋の緒が切れ、リングで
選手と格闘を繰り広げました。その結果、サスクーンはボコボコにすると、食事に戻るのでした。


その後、デリラ騎兵隊が川辺で休息を取る際、ムバリスは弟のように可愛がっている名無しを新鮮な水を汲ませに向かわせますが、名無しは
そこでヴラドの部下率いる敵の部隊に拉致されてしまいます。(集落にいた部下と同一人物。)ムバリズは危機を察知して助けに行くも、時すでに遅く、ゴクルトは自責する彼をなだめます。ゴクルトは残る戦士と共にヴラドの城を目指し、名無しの救出を誓うのでした。


翌日、騎兵隊はヴラドの城付近の村に着き、エレンはデリラが実在したことに驚きますが、住民は不審な目で彼らを見つめます。教会に入り、ゴクルトはデリラの同志であるカララ神父と熱く手を握ります。そこにエレンがやって来て、カララ神父がエレンはデリラの協力者だと紹介します。ゴクルトは「我が獅子よ。行こう。」とエレンに呼び掛けます。

一方、捕らわれた名無しは拷問にかけられていました。ヴラドは名無しの身元を聞きつつも彼の指を切断しますが、名無しは拷問に屈することはありません。

カララはエレンとその祖父を連れていき、デリラをエレンの祖父の舟小屋に匿わせます。デリラは彼の報告で城への秘密の通路や細菌兵器の存在を知り、ゴクルトは錬金術師の研究所の破壊をカララに依頼しました。騎兵隊は捕らわれた名無しを救うため、ヴラドの正規軍との対決を望んでいました。

翌朝、別れ際にエレンは「僕もデリラに加わりたいです。」とゴクルトに言いました。ゴクルトは自分が背負う黒い羽根飾りをエレンに与えると、「我が喜びよ、エレン。」と常に仲間として歓迎する旨を伝え、仲間と共に去っていきました。


翌日、決戦の日が訪れ、カララ神父は剣を携えて錬金術師の研究所に潜入しました。そこで火薬を仕掛けると、彼は研究所の爆破に成功します。

一方、デリラ騎兵隊がヴラドの正規軍と顔を合わせると、コステルたちが人質にされた名無しを見せて挑発してきます。名無しは「俺は使命を果たしました!」と震えた声で仲間に伝え、ゴクルトは「殉死の時が来た。」と言って仲間と共に気を引き締めます。両者は対峙し、ヴラドは名無しにナイフを突きつけました。

デリラ騎兵隊は『デリラ』の誓いとオスマン帝国とアラーの神への忠誠を叫びました。その途中で復活したコンガールも参戦し、忠誠を叫び続けますが、ヴラドはその目前で名無しを殺害しました。戦士たちは突進し、戦いの幕が開きます。デリラ側は6人だけでなく、コンガールのおかげで他のデリラ騎兵が駆け付け、クマンと共に戦います。ヴラド正規軍の兵は彼らの気迫に押され、次々と倒されていきます。



戦闘中、サスクーンはヴラドの部下コステルの顔を見て、彼こそが母親の仇であることに気づきます。サスクーンはコステルと戦いを挑み、ようやく討ち果たすことが出来ました。ムバリスも名無しを捕らえたヴラドの部下に仇討ちします。



一方で、ゴクルトは戦闘で疲労困憊でいましたが、ババ・スルタンが祈りを捧げ、彼を勇気づけます。立ち直ったゴクルトは残ったヴラドの兵を次々と倒し、敗北を悟ったヴラドに「貴様らが生きてるうちは我らに敗北はない。」と告げました。ヴラドは「父上(神)、また運命をトルコ人に委ねたのですね。これが答えか。私は絶対に殺せない。」と言い残し、ゴクルトは迷うことなく彼を斬首しました。戦いを終え、今まで無口だったサスクーンは「歩みを止めるな!進み続けろ!」と叫びます。




ムバリズは名無しの遺体を抱くと、彼の勇気を讃え、「名無し」を獅子を狩る者『ハムザ』の名を与えました。デリラ騎兵隊は仲間を失った悲しみを抱きつつ、忠誠と団結の誓いを叫び、勝利を祝うのでした。


こうしてワラキアの地に平穏が戻りつつありましたが、錬金術師とエリザベッタはまだ生き残っていました。錬金術師は別の場所で研究を続けており、エリザベッタの手には細菌兵器に感染した1匹のネズミが檻に入れられた状態で残っていました。


THE END…?

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感想
この映画は本国トルコの人気TVドラマで監督を務めたオスマン・カヤ監督による、血で血を洗う男臭い歴史アクション映画。WOWOWでは『デリラ オスマン帝国騎兵隊』として劇場公開前にTV放送され、『未体験ゾーンの映画たち2020』の上映作品です。

感想を言う前に、個人的に『未体験ゾーンの映画たち2020』の上映作品に関しては全部がハズレ映画じゃないと認識しています。もちろん突っこみどころ満載だったり説明不足だったりとダメな映画もあるんだけど、ちゃんとチェックしておけば素晴らしい掘り出し物に出会えると思ってます。

この映画も掘り出し物のひとつで、最初から最後まで興奮して楽しめる勧善懲悪のアクション映画でした。121分もあるのでちょっとテンポの悪さを感じられますし、15世紀のオスマン帝国のことは全然知らないのですが、7人のデリラ騎兵の活躍ぶりがカッコよく、個人的には上半期のベストに入れてもいいぐらい素晴らしかったです。

日本版予告編では派手に宣伝されていたのですが、実際は基本的にロードムービーとしてRPG風に物語に進行していて、その作中で所々アクションシーンが挿入されているといった感じでした。もしかしたら本筋のヴラドの戦闘シーンを過度に期待していた挙げ句、観賞後にかなり落胆した人もいるかもしれませんね。

厳密に言うとアクションシーンはアラジャを助け出すシーン、岩場にいるヴラドの兵を倒すシーン、怒ったサスクーンが地下格闘技をするシーン、そしてヴラドの正規軍との決戦の4つあり、特にアラジャを助け出すシーンとクライマックスでの決戦シーンは無駄なカット割りが多くて観づらい感じはあったんだけど、男臭さ全開でとにかく痺れました。

また、クライマックスの決戦シーンではデリラがむさ苦しく忠誠を叫ぶシーンは賛否が分かれるシーンなんだけど、スーパー戦隊や仮面ライダーの「名乗り」みたいで非常に好感が持てました。多分、あれがないとその後の決戦シーンは盛り上がりに欠けてたし、物足りなさはあったかもしれません。他にもデリラ騎兵が爆風を掻き分けて走るショットだったり、爆発と同時に敵に止めを刺す瞬間はまさに特撮番組のアクションっぽかったです。

一方で、デリラ騎兵のドラマ部分は最低限描き込まれていて、欲を言えばゴクルトの葛藤や苦悩を描き切っていないし、もう少し7人それぞれに役割を当てて欲しかったって思うんだけど、コンガールやアスガールといった主要人物はちゃんと的確に描写されていました。個人的には終始無口であるサスクーンはゴクルトよりも主人公気質で、幼少期のトラウマで言葉を封印した彼がヴラドとの決戦で復讐を果たすカタルシスは素晴らしく、ラストに第一声を出すシーンは圧巻でした。。コンガールも前半では空気の読めないムードメーカー的な人物かと思ったら、後半で彼の笑顔に秘密があることが明らかになり、終盤のアクションで見せる笑顔を観ててユーモラスで笑えると同時にどこか切なさを感じてしまいました。

ただあくまでも私の意見なんですが、いくらなんでも話の運び方がスマートじゃないんですよね。確かにデリラが馬を駆けてるところをカッコよく見せようとしたり忠誠を叫ぶショットでバッチリ決めたいという姿勢は分かるんだけど、前半で彼らがババ・スルマンに対して忠誠を叫ぶシーンは正直言って中だるみするし、ババ・スルタンがクマンやゴクルトに魔術かなにかでコンタクトを取るシーンは理解しづらいため、カットしてもいいんじゃないかと思いました。

ラストは続編を匂わせるような感じで、2020年の冬に観たせいか、新型コロナウイルスを想起させてしまうのですが、そもそもカララ神父が研究所を爆破した意味がそんなに感じられないし、もし錬金術師とエリザベッタを生かすんだったらなんでデリラはヴラドの正規軍を討ち取ったあとに城を襲撃しなかったのか非常に納得出来ませんでした。

ということで、突っこみどころはあるし、くどい演出が目立つので好き嫌いが分かれるアクション映画かもしれませんが、デリラ騎兵たちがカッコよく、冗長ながらもちゃんと見せ場もあり、個人的には最初から最後まで興奮して観ることができました。少なくとも15世紀のオスマン帝国のことを知っていなくても男性は大満足して観ることが出来ますし、ワイルドな男性が好みな女性にも観れる作品なので是非ともレンタルや配信で観賞してみてください。