われわれの先祖は、明るい大地の上下四方を仕切ってまず陰翳の世界を作り、その闇の奥に女人を籠らせて、それをこの世で一番色の白い人間と思い込んでいたのであろう。
(中略)
白人の髪が明色であるのにわれわれの髪が暗色であるのは、自然がわれわれに闇の理法を教えているのだが、古人は無意識のうちに、その理法に従って黄色い顔を白く浮き立たせた。
(中略)
古人は女の紅い唇をわざと青黒く塗りつぶして、それに螺鈿をちりばめたのだ。豊艶な顔から一切の血の気を奪ったのだ。
私は、蘭燈のゆらめく蔭で若い女があの鬼火のような青い唇の間からときどき黒漆黒の歯を惹かれせてほほ笑んでいるさまを思うと、それ以上の顔を考えることができない。
(中略)
白人の白さは、透明は、分かりきった、ありふれた白さだが、それは一種人間離れした白さだ。
或いはそういう白さは、実際には存在しないかも知れない。

谷崎潤一郎『陰翳礼讃』より抜粋



私は、この箇所に非常に魅かれる。
頭の中で、暗闇の中でかすかな蝋燭の灯りで浮き上がる女の顔を想像する。
煌々とした蛍光灯や日の光の下であけぴろけにされた美しい顔よりも、見えるか見えないか、首から下さえも着物の柄さえもはっきりしないような、そんな女の方がよほど魅惑的であり、幻想的であり、美しいと思う。
手を伸ばせば、闇の中に夢のごとく消えていくような、儚気なそんな女の姿。

性愛や女の肉体に執着し、耽美主義とも言われた文豪・谷崎ならではの観点である。
(いくら耽美主義とはいえ、三島由紀夫には絶対持ち得ない感性だと思う)

そんな折、「世界ふしぎ発見」の「大奥特集」の際に、眉をそり落とし、白く顔を塗り潰し、唇を小さめに描く、当時の化粧法を紹介していた。
そして、当時の行灯の灯りの下、どのように化粧後の顔が見えるのか再現していたので、ご覧あれ。

365日分の1日記













うん、明かりを消してこの画像見ると、より雰囲気がでる。
(松井冬子の描く女性とはちょっと違う妖しさだと私は思う。
あれには、時代・状況など全て超越してる感がある。)



まあ、今の世の中はやっぱりこういう女性の方に、
美の基準がいくのかな?
ウエストとヒップの黄金比を持つ、ジェシカ・アルバとか・・・。

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MOST BEAUTIFUL FACES 2010」に選ばれた、フニャフニャした佐々木希とか・・・。

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谷崎の感性も明治に生まれ育ったという時代背景が大きい。
美意識は時代・国・文化、様々な要因で作り上げられる。

しかし、谷崎が書き残した「陰翳礼讃」が、文明も進化した平成になった今でも読み次がれるのは、やはりどこか日本人の体質的なものとして魅かれるものがあるのであろう。




今日は真面目な内容でしたな。
neko